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放課後

しょっぱい。

作者: 石平

三人組SOSD初めての投稿です。

三人の作者が、同じお題で短編を投稿します。

今回のお題は「放課後」です。

二番手の石平です。よろしくお願いいたします。

 放課後、いつものように自転車で彼の部屋へと向かう。道路のみずたまりは、綺麗なオレンジ色の空を映していた。まとわりついてくる湿り気を含んだ生ぬるい風がちょっぴり気持ち悪い。

 

 彼と初めて会ったのは私の部屋でだった。家庭教師としてやってきた彼に私は一目惚れをした。少し長すぎる前髪から覗く冷たい目と、時折見せる皮肉な笑みは、たやすく私の心を奪い、離すことはなかった。一年生の夏休みが終わるころ、自分から告白した。彼も一目惚れだったと言った。

 

 駐輪場へ自転車を停め、いつも少し変な臭いのするエレベーターに乗る。来週は点検で使えない日があるらしい。それを知らせる張り紙が、しわしわと波打っている。

 チャイムを押して、こつこつとドアをノックしてから開ける。彼の部屋の鍵はいつも開いたままだ。

 6畳のワンルームは昨晩の残飯らしき匂いと洗濯物の生乾きの匂いが混じってやはり少し変な臭いがしていた。彼は薄暗い中ベッドに寝転がってスマホをいじっている。少しだけカーテンを引き、窓を開けながら言う。

 「昨日どうだったの?」

 「んー。てか、あれ?雨降ってなかった?」

 「とっくに止んでるよ。」

 「へえ。」


 彼には、ずっと片思いの相手がいた。昨日はその女の子と、この部屋で深夜までワールドカップを見ていたらしい。机の上にはチューハイの空き缶と食べかけのピザがそのままになっている。

 それから、他愛ない話をいくらかした後、トイレに行ってくると言い彼は席を立った。結局昨日彼女とどうなったのかは聞けず終いだった。しばらくして、洗面所から歯を磨く音が聞こえてくる。


 戻ってきた彼は黙って私の横に座った。目も合わせずに唇を重ねる。いつもの始まり方だった。触れられているところに集中し、わざと甘い声を出す。この時間だけ彼は私のものになる。

 


***



 「そういえば、そっちこそどうなってるの?そのバイト先の先輩と。」ベランダでたばこをふかしながら彼が尋ねる。

 「うん。この前、バイトのみんなで飲み会があったんだけど、ずっと私の隣にいるんだよねー。」制服がしわにならないように丁寧に着ながら答える。たばこの匂いの言い訳に、親にはまたカラオケに行ったと嘘をつかなくちゃいけない。

 「さっさと付き合っちまえよ。」私の気も知らないで、笑いながら彼は言う。

 「そうだねー。」私も笑いながら返事にならない返事を返した。

 実際には、バイト先の先輩なんていなかった。彼に嫉妬してほしいがために作った幻だった。意味がないことはわかってる。

 「もう俺のとこへは来ない?」にやにや笑いながら言う彼に、私は何も言い返すことができなかった。私は彼とどうなりたいのだろう。

 口にはさっきの彼の味がまだ残っている。

 しょっぱい。


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