仮面の男
砲撃と叫びが戦場に鈍く響く。美しかった草原には草花が一面広がっていたが、今やえぐれた地面がぐちゃぐちゃにむき出しとなってその面影さえない。残ったのは爆破の熱に炭化した木々と点在としていた家々の残骸。瓦礫と化した教会にはこの元気な声で先生と親しんでいた子供たちの躯と、教会で牧師をしていた男が子供を守ろうと覆いかぶさった結果の飛び散った体の部位。残った胸部を見ると懐には長年大事にしていたであろうボロボロの聖書が収められていた。
そしてそこに半分に割れた仮面をかぶった男がを体のあちこちから血を吹き出し、重い教会の扉を開ける。息は絶えかけ、意識はもうろうとしている。男は牧師の胸部を乱暴に、一瞬ためらって子供の遺体を退かすと、隠し扉と下へ続く階段が現れる。一瞬意識を失い転がり落ちるように下へ降りる。
限界が近い体を引きづり、先に見えるろうそくをともしたくらいの光に向かうと、やはりそこにも人がいる。しかし、それは生きていること示しているわけではない。上より更なる惨状、惨劇。それは仮面の男をその場に跪かせるのに充分であった。
襲撃から守ろうと剣を取り勇敢に立ち向かった男の最後。四肢のうち右腕と左足、そして両目をえぐられ、下あごはない。、それでも後ろにいる人を守ろうと立ち向かっていき最後に頭をかち割られ、中身を食われた、もう人として形を残していると言うに言えない姿。そして、その後ろの子供は首から下は無残に食われ骨と臓物が飛び散り、首から上は女児と顔のいい男児はおもちゃとして、その他は無残に捨て置かれている。
仮面の男は立ち尽くそうとした人だった残骸の顔に手を添える。幾度も流した涙にはない、感情が巡る。悲しみ、後悔、怒り、恨み、そして、懺悔。ここは現実か虚実か、うそのような現実に打ちのめされた仮面の男は、つぶされた喉を震わせかすれた声で、めちゃくちゃな感情をその小さな、小さな声でつぶやく。人にはわからない言語、その一部は勇者と言っていた。
彼はこの地よりはるか東に位置する有象無象の魔の巣窟、地から天空までもが生者を嫌う者たちの王国。魔導の頂点。第十三代魔導王国。すなわち魔王。