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色欲 Ⅵ

5話は重弘茉莉さまの「怪異と乙女とチェーンソー」に掲載されております。

併せて御覧ください。



 八王子の夜を白いセダンが闇を裂くように疾走する。


 運転席にいるのはチェシャ猫。


 ジュリが助手席で自分の武器を点検していたが、チェシャ猫の荒い運転に慌てて窓に手をついた。


 八王子の街は深夜でも明るく、歩道のあちこちには客引きをする居酒屋の店員やホストが繁華街を離れていても姿が見える。


 その数人が暴走するセダンから悲鳴をあげて逃げていった。


 チェシャ猫が歩道のすぐギリギリまでタイヤ痕を撒き散らす。



「兄さんとアリスなら大丈夫よね」


「ジョン……怪我したみたいだけど、大丈夫……”白雪”のキットがある……今頃怪我治ってるはず……」


「白雪?その人もコードネームの人なのね。応急キットってことなのかしら」


「悪魔の傷……しか効かないけど……すぐ効く」


「便利なのね」



 さすがはICPOから派遣されていることはある、とジュリは納得した。


 科学と医療の最先端技術でもあるのだろうか。


 そう考える間もなく、セダンがまたも歩道に乗り上げかけて有名な宗教団体の看板を吹っ飛ばす。


 ジュリは今度は前に手をついて衝撃をこらえた。


 この暴走ぶりに、ジュリはあまり考えたくない基本的な疑問にたどり着く。



「チェシャ猫、常識として聞くけど、国際免許はあるのよね?」


「免許……?持ってない」



 年下だが外国なら高校生でも免許を持っているだろう、と思ったがジュリの予想は残念なことに外れたらしい。



「待って、運転代わるわ!いえ、代わって!!」


「もう遅い……着く」



 前のめりに急停車したセダンは小石を吹き飛ばしながら、横滑りに停車する。


 ジュリは車の塗装などの箇所があちこち不安ではあったが、今の優先事項は兄とアリスだ。


 チェーンソーを片手に降りると、チェシャ猫もモーニングスターを持って重そうなゴシックファッションに似つかわしくない軽やかさで運転席から降りてきた。



「ジュリは正面から……私は上からいく……気をつけて」


「上?わかったわ、任せて。チェシャ猫も気をつけて」



 モーニングスターを一振りすると、チェシャ猫は二階の窓を叩き割って窓枠に引っ掛けると厚底靴のまま壁をよじ登り始める。


 ジュリは何度目かの呆れた気持ちのまま、首を振った。


 モーニングスターを簡単に振り回す膂力もさることながら、体重を無視するかのように外壁をロッククライミングしていく力も非常識だ。


 ジュリはチェーンソーのスイッチを入れて、聞き慣れた回転する刃の音を連れて正面から踏み込んだ。


 踏み込んですぐ、怪しい気配がジュリを包み込む。


 横から殺到してきた殺気に、ジュリのチェーンソーが即座に牙を剥いた。


 それは女の服を着ていたが、顔は醜悪に曲がり白い唾液が滴っている。


 チェーンソーに体を砕かれながらも、その手はジュリを鋭利な爪で狙っていた。


 素早くスナップをきかせながら一歩後退してその手を回避すると、ジュリは回転するチェーンソーをねじ込む。


 黒い液体が散って、ジュリは本能的にそれを避けた。


 そのままチェーンソーを振り切ると、敵の首がゴロリと落ちてチェーンソーに絡んでいた髪がちぎれ飛ぶ。



「たいしたお出迎えね。早く兄さんたちを出してあげなきゃ」



 チェシャ猫はどうしているだろうか、ジュリは少し考えてからその思考を捨てた。


 最初の出会いでのハプニングバトルでも、実力は目にしたのだ。


 サキュバスにむしろ哀れみすら感じながらも、ジュリは階段を駆け上がりながらも自ら容赦なく敵を屠っていく。




 最上階に外から到達したチェシャ猫は、モーニングスターで出会い頭にサキュバスの頭を叩き割った。


 黒い果実のような頭から、毒のある血潮が飛ぶ。


 破裂させた頭から鎖を手繰り寄せると、遠心力のまま背後に回ろうとする悪魔の四肢に棘の鉄球をめり込ませた。


 アリスの存在は光る宝石のように居場所が視えている。


 長く、永く組んできたパートナーの存在を見間違うはずもない。


 閉まっているエレベーターのドアを手でこじ開けると、鉄のドアにへこみができてチェシャ猫はためらいもなく飛び降りる。


 一閃。


 エレベーターの真上で鉄の箱を攻撃しているサキュバスを薙ぎ払う。


 汚れた液体を避けて、それが溶解していくのを見送ることなく、チェシャ猫はモーニングスターを力いっぱい叩きつけた。


 派手な音が響いて、モーニングスターがエレベーターの上部に大きな穴を開ける。


 ぶち開けた穴からは見慣れたいつもの相棒と、即席の仲間戦力であるジョンの驚いた顔が見えた。



「遅いわけ!っていうかなんで上からきたの?」


「いや、っていうか、穴があくもんなのか?」


「……お待たせ。動力は……多分ジュリが回復する……」



 アリスはやはり白雪の応急キットを使ったようで、ジョンの怪我は跡形もない。


 それぞれ殺戮の天使たちは白雪からキットを貰っている。


 一番多用しているのはシンデレラの組だが、仕事が憑依悪魔なのだから仕方ないというべきか。



「多分って、あんた打ち合わせたわけ!?」


「通じてる……はず……」


「はず、じゃないわけ!!今外で戦ってるのはジュリだけなわけ!?こっちは良いからさっさと援護にいきなさい!」



 エレベーターは、ちょうど階と階の間で停止していた。


 これではドアをこじあけたところで、外には出られない。


 チェシャ猫はジョンを見つめた。


 滅多にそんなことを言ったことはないのだが、今回は同じ天使ではなくても貴重な戦力であり、加護がないという意味ではジュリ同様、非凡な才の主だ。



「アリスを……お願い……」


「ああ、こっちこそジュリを頼むよ」


「お願いなんてされなくても、どっちも足なんかひっぱらないわけ!」



 チェシャ猫はモーニングスターを開けた穴とは別の方角に、内側から貫通させるとビルに侵入した時と同様にエレベーターの上へ舞い戻る。


 ジョンはその間、ゴシックスカートから覗く足から慎み深く視線を避けた。


 相棒アリスの無事は確認した。


 次はジュリと連携して四人ではびこるサキュバスを一掃させる。


 チェシャ猫はモーニングスターの鎖を鳴らしながら最上階へ移動すると、階下へと闇の中に躍り込んでいった。


どんどんバトルが盛り上がってきました。そろそろ終盤。それぞれの主人公たちをどうぞ最後までよろしくお願いします!

続きは重弘茉莉さまのサイトへ、ブクマかレビューからもいけますのでどうぞ!!

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