クリスマス
「子供の心でいれば、サンタクロースはやってくるよね」と。そんな戯言を妻に言っている、30歳を過ぎたおっさん。
大学生の頃の話。半同棲中だった、みゆきとクリスマスプレゼントの話をしていた。「俺は格好いい鞄でいいよ。みゆきはフライパンでいいやろ?」とふざけて言っていた。みゆきは「もうー」と言ってふてくされた。
音楽が好きなみゆきは「お正月、お年玉で音楽プレイヤー買おうかな」とか呟いていた。トシは何気なく聞いた。「もし、その音楽プレイヤー買うとしたら、何色がいい?」と聞いて、「白色がいいかな」と答えた。みゆきは「岡田君、彼女のユキちゃんに高級ブランドのアクセサリーあげるんだって、2万円ぐらいして奮発するらしいよ」とトシに告げた。トシは「そうなんだ、ふーん」と聞き流したのであった。
クリスマスイブ。前日、トシは家の用事で実家に帰っていた。イブの夜、梅田のショッピングモールで待ち合わせの約束をした。トシは先に出向き、プレゼントを買い、包装してもらい、鞄にしまった。そして、約束の時間に折り合った。
トシは好みの鞄を、ショッピングモールでみゆきに買ってもらった。みゆきは「私のプレゼントは?」と聞いた。トシは「買ってあるよ。フライパン」と言葉を返した。みゆきは「もー、ホントにそれなん?」と言い、嫌そうな顔をしていた。
みゆきの家に到着し、クラッカーなどを鳴らし、小さなパーティーを2人で楽しんだ。
「私のプレゼントは?私のプレゼントは?」とトシに聞こえるように、テンションを上げていた。トシは机の上に、鞄にしまってあったプレゼントを差し出した。「はい、フライパン2つ」。
みゆきは小さな2つの箱を見て驚いた。中を開けるとプレゼントの1つは白色の音楽プレイヤー、もう1つは高級ブランドのアクセサリーだった。みゆきは「ありがとう」と言い、満面の笑みを浮かべていた。
あれから10年の時が経った。どこかで聞いたことのある、恋人はサンタクロース。今日妻は、仕事から帰って来て「ボーナスが出たよ、クリスマスプレゼント何が欲しい?1つだけだからね」と。そんな、師走のどこにでもあるような夫婦の話。サンタは妻に代わっていた。あなたにもサンタクロースが訪れますように。