重ねた温もり
第3話!いやー、思ったより時間が掛かってしまいました。でもその分内容に反映したつもりではいるので是非楽しんで頂けたら幸いです!
夜の終わらない世界、夜都。人1人居ない街の中央に位置する城、その天守閣に幸人と夜々は座している。一段高い上座には夜々、その正面の下座には幸人という構図だった。先ほど城門前にてお預けをくらった幸人は身を乗り出す勢いで夜々へ問を跳ばす。
「さぁ、答えて貰うからな!さっきは言いたい事だけ言ってさっさと1人で行きやがって、挙句にお前が置いて行くせいで城内で迷ったぞ!で、まずは神様についてだ。俺の聞き間違いじゃなきゃ夜々自身が神様っていう内容に聞こえたけど?」
夜々はその問に戸惑いなくと答える、その姿はどこかうかれている様に見える。
「聞き間違いではありません、私は正真正銘神様です。最初に夜都乃神月々(ヤトノカミツキヅキ)と名乗りましたよね?ほら、ちゃんと神と言ってますよ。それにこの世界や幸人さんを連れて来た事、どれを取っても神の力といえば納得できませんか?」
いや、普通気付かないだろ。独特な名前だとは思っても書いて見せられた訳じゃないんだから、漢字なんて分かるはずがないだろ。でもまぁ、神かどうかと言えば認めるしかないか、否定するにもその材料が今のところまったく無いし。てか妙に嬉しそうに見えるの気のせいか?
「まぁ分かった、とりあえず夜々が神様だって話は信じるよ。じゃあ次は世界との戦争について説明してくれ」
「説明しろと言われましても、ある世界を一緒に滅ぼす手段が戦争と言う他ないのですが」
夜々は自身の銀髪を指で弄びながら話す、しかしその上辺だけの内容では幸人の納得は得られない。ここまで根気良く付き合ったつもりであった幸人、なんとなく気付き始めた夜々の雑な性格に隠す事無く溜息を吐く。そんな様子を見て何を思ったのか夜々は急に焦り始める。
「たっ、溜息なんかやめてください!そうだ、こんな話しなんか止めて遊びませんか!?御手玉に花札や双六、体を動かすなら蹴鞠もあります。さぁどれで遊びますか!?」
幸人は夜々の態度が急変した事に疑問を感じはしても、質問の答えを聞き出すのを優先する。
「遊びなんか今はどうでもいいだろ、それよりもっと詳しい話をだな」
雪との話しを聞かずに急ぐ様に話す夜々、その表情には焦りと必死さが伺える。
「香当てとかはいかがですか?数種類の香を使い匂いだけで香の元を当てる遊びなのですけど、単純ながら意外と難しくてそこがまた面白いんです。それが嫌なら貝合わせとかも楽しいですよ?私の自慢の綺麗な貝を見せてあげますよ!」
夜々は何でこんなに必死なんだ?今はそんないつでも出来る事より重要なことがあるだろ。もしかして俺馬鹿にされてる?
「はぁ、話す気が無いのか?だったら俺は少し眠らせてもらうぞ?今日はいろいろとあり過ぎて流石に疲れた。適当な部屋借りるからな、話す気になったら起こしてくれ」
質問に答えようとする様子が見えない夜々にとりあえずの見切りをつけた幸人、睡眠をとる為の場所を探しに部屋を出ようと動き出す。しかし振り向き歩き出した幸人は突如背中から訪れた衝撃で前へと倒れてしまった。
「いってぇな。なんなんだよって、、、夜々なんのつもりだよ。急に飛びついたら危ないだろうが」
倒れた体制で首だけを後ろに向けた幸人が見たのは背中に抱きつく夜々の姿、長い銀髪に隠れて表情は見えないが文句を言えども返答は帰って来ない。
「夜々とりあえず退いてくれ、この体勢は床にアバラがあたって痛い。、、、おい、聞こえてるか?痛いから退いてくれ」
退くように話しかけても反応を返さない夜々、幸人がこの状況とアバラの痛みに少し苛立ち始めていると背中に小さな振動を感じる。再度背中に注目をすると夜々が震えているのが分かり、小さな呟き声が耳に届いた。
「ひと、、し、い、」
「夜々どうしたんだよ?急にこんな事して、もっとはっきり話してくれないと分からないぞ?」
夜々の異変に気付き苛立っていた気持ちもどこかに消え、夜々を気遣う幸人。どうにか体勢を起こし、座り込むも今度は胸へと抱き付く夜々。それでも小さく聞き取り辛い声が続く。
「わたしを、、りに、、、で」
夜々は本当にどうしたんだ?急に遊びに誘ってきたと思ったら抱きついて、落ち込んで。俺が何かしたかな?昔から女心は分かんないんだよなぁ。そういえば彼女にもよく怒られたなぁ、幸人は女心が分からな過ぎって俺は男なんだから分かる筈がないだろ。
幸人が自分に落ち度があったかを模索していると夜々の声がはっきりとした物に変わりその必死な言葉が、必死な想いが部屋の中で響いた。
「私を1人にしないでっ!」
、、、1人にしないで?俺は眠るのに部屋を出ようとしただけだぞ?いったいどういう、、
幸人の思考が纏まる事を待たずに夜々の想いが続く。
「もう1人は嫌なんです!置いて行かないで、私を置いて行かないで!」
「夜々、別に俺は、、、」
ただ眠るのにと口にしようとした幸人だったが言葉は続かなかった。幸人の声に反応し顔を上げた夜々の瞳からは涙が流れ、その光景が幸人の言葉をせき止める。
あの時と同じだ。彼女の涙を見たときと同じで体が動かない、言葉が出ない。俺は重ねてるのか?彼女と、まだ出会って間もない夜々を。性別以外に共通点なんか無い筈なのにどうして。
金縛りの様に動けずにいる幸人、頭の中では何故、どうしてと思考が渦巻く。
自分で自分が分からない。なぜ体が動かない?どうして声が出ない?なんでこんなに心が締め付けられる?、、やめてくれ、、、やめてくれ、やめてくれやめてくれ!、、もう泣かないでくれっ!!
体が動かず声も出なくても激しく荒れる自身の心に押し潰されそうになる、しかしそんな最中、頬に暖かく柔らかな感触を幸人は感じた。
「どうして幸人さんが泣いているのですか?」
「、、、え?」
幸人は先ほどまでどうやっても出なかった声が発せられた事より、自身が涙を流している事より、目の前の光景に驚いた。先ほどまで泣いて想いを叫んでいた筈の夜々が幸人の眼を真っ直ぐに見上げている。未だに目元には涙の後は消えはしないがその赤い瞳が心配そうに幸人を見詰める。
「どこか痛いのですか?それとも私が我侭を言い過ぎて嫌になってしまったのですか?」
恐る恐るという様に幸人を心配する言葉にに、思わず夜々を抱きしめる。幸人自身どうしてそうしたのかは分からない、それでも今は少しでも近くに居たいと思えての行動だった。幸人の突然の行動に夜々は困惑する。
「わっ。ど、どうしたんですか急に?そんなに抱きしめられるとあの、恥かしいのですが、、、」
頬を赤く染め後半きえいりそうに言う夜々、幸人はその仕草に愛おしさを感じ思わず抱きしめる力を強めてしまう。
「いつっ、幸人さんそんなに強くしたら痛いです」
「あっ、ご、ごめん、、、」
夜々の声に正気を取り戻した幸人、慌てて腕の力を緩めはしたが抱きしめるのを止める事はしなかった。
「、、あの、離さないのですか?」
「ごめん、あったばかりの男にこんな事されて嫌だろうけど。今だけ、今だけはこのままでいさせてくれ。ごめん、本当にごめん、、、」
「少し恥かしいですけど、全然嫌ではないですからそんなに謝らないでください、、、、ふふ」
「変なこと言っている自覚はあるけど、別に笑わなくていいじゃないか」
夜々の小さな笑い声に羞恥を憶える幸人、その言葉を夜々は否定し涙が残る目元を手の甲で拭った。
「いえ、別にその事を笑ったわけではないんです。今日初対面の私達がお互いに泣いて抱き合っている、なんだかこの状況が面白く憶えて。幸人さん私はここに居ますから少し眠られてはどうですか?」
「そうだな、もともと眠ろうとしていた訳だし。まぁそれも夜々に止められちゃったけどな」
「もう、そんな事を言うなら私この場所から退いてしまいますよ?」
拗ねた振りをして応える夜々とのやりとりに幸人は懐かしい居心地の良さを感じる、そのせいか心が安堵し眠気が増てくる。
「冗談だよ、全然気にしてない、、、なんか本当に眠くなってきたな」
「ふふ、私も冗談です。今日はもうこのまま休んでください、私も少し眠いです」
「じゃあ遠慮無く寝させてもらうよ、、おやすみ夜々、、、」
「はい、おやすみなさいです幸人さん」
幸人は瞳を閉じるとすぐに寝息をたて始めた、夜々はその様子を眺めながら横で眠る男の頭を優しく撫でつけた。
「何故か落ち着きますねぇ、これが庇護良くなのでしょうか?こんなに早く寝てしまって、本当に疲れていたのですね」
夜々は体勢を変え幸人の腕を枕とした。
「初めてやりましたがなかなかに気持ちいものですねぇ、それにしても気持ち良さそうに寝て、本当に私まで眠くなってきました。、、いいですよね?、、今だけはこの温もりに溺れても、、、、」
その部屋には2人の寝息が流れ、暖かく優しい空気で満たされている。夜は終わらずとも時間は流れるこの世界夜都、目覚めの時までは安らかにと夜都の主が想いを抱いて静かな時は流れていった。
どうですか?楽しんでいただけました?もし楽しんでいただけたならあざーっす!!つまらなかったって人も是非何処が駄目だったのコメント宜しくです!!