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烏間

私はこの学校の教諭として新しく赴任してきた。

しかしそれは、偶然ではなかったのだ。

私には家族、友人、知人にも知られていない秘密がある。

始めはただ、興味を持ち、趣味の一つとして手を付けたに過ぎなかった。


しかしこの趣味を続けていくにつれて、同じ志をもった同士達が公には知られていないが、密かにサークルという形で集まれる場を作っていたのだ。


しかも、彼らだけで作った訳ではなかった。

彼らの裏に、より高次元の達人が指揮を取っていたのだ。


私は、より深遠なる高みを仰ぎ見るに、自分がどこまで行けるのか、趣味というよりかは信仰に近いものを感じていた。

仕事では生徒たちから慕われるように努力をしているという訳ではなかったが、私が趣味としてしてきたものは精神的に優れた修行となっており、自然と生徒たちから尊敬の念や、信頼というものを実感できるものとなっていた。


そんな中、私は新しく配属される学校の敷地内で、ある一人の男子生徒が目に入ったのだ。

彼は他の生徒たちとは違っていた。


普通の人が見れば、ただ変哲のないありふれた生徒の1人に見えるだろう。

しかし、長年培ってきた私の目には彼の背後にあるオーラが他の者たちとは違う何かを見たのだ。


言い換えるなら、ダイアモンドの原石。磨けば輝き出す、そのようなものだった。


これまでにも何人か生命力を感じる生徒は居たが、彼のはそれとはまた違っていたのだ。

何というか、様々な色が混ざり合っていて、それで一目見て周りから浮いているオーラの持ち主だったのだ。


私は初めて彼を見たその日の後、例のサークルに久々に行ってきたが、丁度その時、創立者とも言える、あのバックに付いていたであろう達人が立ち寄っていたのだ。


私は挨拶をしようとその人に声を掛けようとしたが、その人は突然私の方に向き直って、待っていたとばかりに自ずから歩み寄ってきてくれたのだ。


「ああ、待っていたよ。君が来るのをね。」


まるで私がこの日にここに来るのを知っていたかのようにそう答えられた。


「君も、仕事と両立してやって行けてることに感謝するよ。これからも精進するといい。」


「それに―――、君はもう会ってるかもしれないね、未来の継承者に。」


私はその言葉を聞いた瞬間、あの生徒のことだと直感で分かった。


「はい、一目見ただけで素質があると感じた者が居ります。」


「そう、君もだいぶ成長している、喜ばしい事だ。さて、そろそろ弟子でも取ってみてはどうかな?」


「私がですか!?いえ、私にはまだそのような力など・・・」


「君は人に物を教えるのが上手いではないか。それに弟子といっても、まずは相手の心が決めることだ。決まった訳ではない。」


私はその言葉を聞いて、彼との出会いは予め予定されたことなのではないのかと思えた。

そう、私が新しい場所、あの学校に配属になって、あの生徒と会えたことは偶然では無かったかのように思えたのだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

職員室のドアを開け、教頭先生のいる机までやってきた。


「教頭先生、お話しがあるのですが。」


教頭先生は、視線をこちらに移し、眼鏡を手で上げながら尋ねてきた。


「何ですかね。」


「実は新しく部活動を作りたいのですが。」


「ほう、新しい部活動ですか。まあ丁度良く空いてる部室もあることにはありますよ。うちは体育会系がそこそこありますが


、文科系のはさっぱりで。」


さらっと部活動の欄を見たことがあるのでそことなく知ってはいたが、確か文科系は音楽部と茶道部、それに美術部ぐら


いしかなかった。

前はまだいくつか残っていたという話を他の先生方から聞いたことがあるが、どうやら潰れてしまったようだ。


「しかし、人数を集めなくてはいけませんよ。ちなみに何の部活動なんですか?」


もっともらしい返事を聞いて、私は昨日の夜考えた台詞を口にした。


「オカルト研究部ですよ。」


すると教頭先生は、また珍しいものを・・・といった風の感じで目を見開いた。


「オカルト研究部・・・」


***********************************


オカルト研究部と銘打って入るものの、その裏ではもちろん魔術の学習に充てられるだけの書籍と道具を揃えていた。

アブラメリンの書、ソロモン王の鍵、ゴエティア、モーセ第六・第七の書、精霊魔法、四大喚起魔法、ピカトリクス、ネクロノミコン等々。


オカルトの部分でも、指摘されれば隠れ蓑となれるので、UFO、UMA、心霊、超能力開発などを表に出そうと画策していた。

その手の話題に興味関心を持ってくれる生徒の中からも、本業である魔術師育成の足掛かりになれると踏んでのことだ。


そうした中で、蒼くんはどれが相性が良いだろうか。お友達も入ってくることは喜ばしいが、適正もそうだが忍耐も必要になってくる。

そんなことを考えながら、烏間は部室の鍵を手に持ち、部室の前まで来た。


鍵を開けて中を見てみると、すっかり寂しくなっている部室が埃をうっすらと舞っていた。


「まずは掃除からか。」


烏間は掃除に取り掛かりながら、魔術―――もとい、オカルト研究部の内装を考え出していった。


ダミーとしてのオカルトの部分を前面に出しながら、垂幕の奥に秘密部屋として魔導書を置くのがいいだろう。


後は儀式用の祭壇。机、椅子、ゴブレット、ワンド、キャンドル。


これからが楽しみだ。


「学校でのこうした活動は、人生で大きな思い出として残るんだよなあ」


青春の真っただ中、心苦しいとまでは言わないが友達や先生、学校外での遊びなどたくさんの経験を積むであろう学校生活。


魔術といわれる一般生活とはかけ離れている世界で、子どもたちの精神に働きかける内容は良い面ばかりではない。


しかし、精神面での成長も確かに認められるところがある。


そんなことを考えながら、順調な滑り出しを見せていた。




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