語りかけるもの
一向に夢から覚めない。
あれから、どうして自分がこうなったのかを考え直してみたら、やっぱりあの男の人が関係していると考えるしかなかった。
何かを呟いていたけど、振り向いた自分も結果として原因ではないかと思ってしまった。
何かの拍子に貧血になったり、目を回したりすることはあるからだ。
もし、あのまま振り向かずに歩いていたら、このような事にはならなかったのだろうか。
自問自答を繰り返しながら、ここから抜け出す方法を考えることをいつしかしなくなっていた。
(今の状況を変えたいとは思わないのか?)
頭の中で聞こえてくるであろう声であることを確信しながら、僕は心の中で言った。
『変えたいに決まってるだろ。早く元の場所に戻りたいさ。』
そう、まず僕がしなければならないことはここから抜け出すこと。
(条件がある。これから起こることを甘んじて受けよ。)
・・・何を今さら。
こうしているのも甘んじているではないか。
というよりも恐怖で身体が動けず、することといえば考えを巡らすくらいだ。
八方手づまりとなっているこの状況を変えるには、イエスとしか言えないじゃないか。
悪夢ならば、いつしか目を覚ますだろうけど、怖い悪夢であればあるほど、すぐにでも目を覚ましたいと思うものだ。
しかし、夢の中でそのように考えることはできない。
じゃあ、これは夢じゃないと脳裏をよぎる。
『分かった!分かったから、ここから出してくれ!』
いつの間にか、恐怖からか僕は叫んでいた。
こうも長時間こうしているのも苦痛だったし、目の前の暗闇を見て、一気に感情が爆発したのだろう。
「―――――――――!!」
声は出すことができなかった。思いだけで叫んでいた。
暗闇の向こうから細いけれどもまばゆい光が見えた。
その一瞬、この悪夢から逃れることができたのかと心底安心した。
これから起こることを知らなければ。