暗転
「ん・・・・・・ここは・・・?」
僕は目を覚ました。
たしか、交差点で倒れたはずだ。
しかし、ここは見慣れない場所だった。
足元も暗く、一寸先も見えない。
全くの暗闇だ、これはおかしい。
だって朝、学校に行こうとして通学途中だったはずだ。
「・・・何も見えない。」
途方に暮れた。一歩でも先に進もうと思ったが、何分、なにも見えないから何があるか分からない。
何も聞こえない。身体はここから逃げ出したくて動きたがっているのに、理性がそれを抑制する。
人が居るような気配もない。
というよりも、まるで死後の世界のように全くの無だとしても納得しそうな程に、静寂と暗闇が押し寄せてくる。
「・・・・」
耳を澄ましてみても、何も聞こえない。
ここは本当にどこなんだ?
まて、まて。今自分がどういう状況になったか、整理してみよう。
こういう時は、むやみに動かず(というよりも動けないんだが)まず考えるんだ。
確か僕は、通学途中で交差点を渡ろうとしていた。
いや、その前に変な事が起こったんだ。
正確には、変な違和感というか視覚現象が起こったと言った方がいいのか?
信号機の色が赤から、赤に変わって・・・。
いや、赤から青に変わったのに、青が赤に見えた・・・?
もしかしたら、青信号だったけど、渡らなかった方が良かったのか?
そして、交差点を渡っていると向こう側から一人、歩いてきていたな。
あの人はここにはいないのか?
もし、ここで大声で叫んでみたら誰かが返事を返してくるかもしれない。
(もし、それが人間でない何かだったら・・・?)
「・・・・・・!?」
今、なぜこんな事を考えてしまったのか?
思わず思ってしまった事が、まるで他人に囁かれているみたいに感じ、悪寒を感じた。
ここまで思ったことがリアルに聞こえてくる事はこれまで一度も無かった。
結局、叫ぶどころか口を開けるのに精いっぱいだった。
冷や汗が額を伝っていそうなくらいにこの上もない恐怖を感じていた。
それもそうだ。まだ、身体を動させてもいない。
まるで、悪夢でない悪夢でも見ているようだ。
これほどまでに、何もない悪夢もあったものだな、と思える余裕が出てきている事に自分でも驚いていた。
(これが本当に悪夢だったらね。現実を見ろよ。)
「・・・・・・!!?」
今のは自分の思ったことか!?
僕はそんな事を考えた事もないぞ!
いや、うすうす勘付いているのかもしれない。
たとえ悪夢だとしても、考えてみれば悪夢を見ていることに、つまり夢の中で実際に起こったことに変わりはないのだから。
これが悪夢なら早く覚めてほしい。
僕は、途方に暮れていた・・・。