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プロローグ

「お帰りなさい」

 テーブルについて、色鮮やかなフルーツタルトをフォークで削るようにちまちまと食べていた女が、顔を上げて榊に向かってそう言った。

「………」

 榊は無言で椅子にドカリと座り、女の前にある皿からタルトを引っ掴んで、2口ほどで食べてしまった。

 タルトを削ろうとした女の握るフォークが空を切って、かつんと音を立てながら皿にぶつかった。

 わたしのたると、と女の口が動いたが、それが音となって男の耳に入る事は無かった。

 数秒、女は呆然と空になった皿を見つめていたが、ふと何かに気付いたのか顔を上げて、訝しげな表情で榊を見る。

「……どうしたんですか? その顔……今回の敵に榊さんに傷をつけられるような実力者はいなかったような気が」

「黙れ」

 そう言われ、女は口を閉じた。

 榊が機嫌を損ねている事は明白なので、女はそれ以上何の追及もしない方が良いだろうと考えたのだった。

 本当はタルトを盗られた恨み言を2、3、女は言うつもりだったのだが、それを言ったら殺されていただろう。

「……2区の白兎とやり合った」

 何の会話もなく数分が経過し、空になってしまった皿を洗おうと席を立ちかけた女に向かって榊は唐突に口を開く。

「白兎……赤の女王の兵隊ですか……確かに、彼は強いらしいですね」

 女は椅子に座り直し、噂通りの実力なら榊に傷を付ける事も可能だろう、と考えた。

 榊は誰よりも強いだろう、と女は考えているものの、それでも無敵であるとは思っていなかった。

「……妙な女を連れていた。金髪で碧眼……純血の女だ」

「純血、ですか。上から堕ちてきたんですかね? 金髪で碧眼となると、かなりいいところの出なのでは?」

 空中島の犯罪者とかでしょうか? と女は推測したが、黙っていた。

「……その女の事、調べておけ」

「了解しました」

 そう言い、女は席を立つ。

 皿を持って数歩歩いたところで、女は足を止め、振りかえらずに榊に問うた。

「ところでその純血の女の情報、他に何かありませんか?」

 特に何も無くても調べる事はたやすいが、女は念の為聞いておくことにしたのだった。

「白兎にアリスと呼ばれていた。それで十分だろう」

 返された言葉に女は目を見開く。

 女の手に持たれている皿に置かれたフォークがカチャリと音を立てた。

「アリス……ですか。分かりました」

 動揺を隠しながら女はそう言って台所に向かう。

 必要以上の洗剤を使って皿を洗いながら女は考える、きっとただの偶然で、同じ名前の別人なのだろう、と。

 すでに席から降ろされているとはいえ、元円卓の子がこんな所に堕ちてくるはずがない、と。



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