なんでここに
マリウスさんの後に付いて歩き、数分経った頃、広場のような場所に出た。
「着いた。ここだよ」
そこには、手に弓や剣、槍、斧など、様々な武器を持った男女が数十人立っていた。
エルフの戦士だろうか?
しかし、エルフって弓以外も使うんだな。
「彼らが此度のゴブリン討伐に向かう勇敢なる戦士達だ」
マリウスさんが真剣な声音で言う。
「ユウ、改めて言おう。私はこのエルヴィンの戦士長を務めるマリウスだ。宜しく頼むよ」
―――マリウスさんは戦士長だったのか。
俺の尋問に来る辺り、それなりの地位に居るだろうなとは思っていたけど、戦士長か。
イケメンでしかも強いとか反則すぎる。
「さて、諸君。こちらが、クリス様より遣わされた人族のユウだ。此度の戦いの仲間だ。無碍に扱う事は許さんぞ」
今までの爽やかボイスとは打って変わって、硬い声音で俺の紹介をする。
っと、俺に自己紹介するように、マリウスさんが目で言ってくる。
「初めまして。ユウと申します。マリウスさんが言ったようにクリス様の依頼で此方に来ました。以後宜しくお願いします」
エルフ達の反応は…無反応が大多数。驚いたような顔をしてるのが数人、疑いの目を向けてくるのが数人って所か。
まぁ、エルフは人嫌いって設定だし、こういう反応は普通だよな。
おや?さっきのあの子が居る。あの子も戦士だったのか。
彼女も疑いの目をする内の一人だ。
一応戦士長のマリウスさんの言の手前、信用できないとか何かを言うような輩は居ないか。
「かの忌々しいゴブリンは森の精霊を集めて良からぬ事を企んでいるようだ。早急に対処する必要がある。よって、少し予定より早いが、明日奴を討伐する事とする。各自休息を取り、明日に備えよ!」
そう言って、戦士達を解散させた。
しかし、明日か…いやに早いな。まぁ、俺も早い方がいいんだけど。
「という訳で、ユウ。君には悪いが、明日出る事になる。君は私の家で休みたまえ。」
「分かりました。ところでマリウスさん」
「ん?なんだい?」
「この村には俺以外の…冒険者みたいなのは居ないんですか?」
―――俺以外のプレイヤーが居ないとなると色々と不味い。
しかも、一緒に行くという事が決まってしまった。
流石に、この状況では逃げられない。
「冒険者?…いや、彼等はこの森に来た事は無いと思うよ。ここは少し辺鄙な場所にあってね……それに森の周囲を結界で覆っているから、並みの者ではそもそも森の中へは入れないんだ」
―――プレイヤーは俺以外居ないという事か…不味いな…
まぁ、武器とかを買えば…金も出せないんだっけな…貸して貰えばどうにでもなるか。
「君のような者が居れねばね、それにも依頼するんだけど。他の者には怒られるかもしれないが、精霊にも手を出された以上、なりふり構っていられないと思うんでね」
「でも、その森の結界を抜けてくるって事は…」
「そう、あのゴブリンはかなり危険な相手という事になるね。まぁ、戦士達も強いし、ユウが加勢してくれるから大丈夫さ」
そう明るい声で返してくる。
わざと明るい声を出していると思えるのは気のせいか?戦士長というエルフでも警戒する相手って事だろうな。
実際には、王と付く割に雑魚だけど。
「私の家はこっちだ。暗くなっているから君には歩き難いかもしれないけど、逸れないように注意してくれ」
そう言って、歩きだす。態々俺に注意を促すとか本当にイケメンだ。
エルフは夜目が効くというし、彼らにはなんともないんだろう。
広場の脇を通り抜け、一本の大きな木の前に辿りつく。
よくよく見れば木の幹に扉がある。……まさか、どこぞのファンタジーのように木の中に家があるとか?
「さぁ、こっちだよ」
そう言って木の方に歩きだし、扉を開いた。
マジで木の中が住居なのかよ…
「あぁ、この形の家が珍しいのかな?実はこれは樹を繰り抜いて作った訳じゃないんだ」
俺の不思議そうな顔を察したのか、マリウスさんが微笑みながら言う。
「元々は普通の木造の家だったんだけどね。とある魔法の影響で一本の樹のようになってしまったんだよ。君がクリス様が居た空き地から見た高い木というのはこの家の事なんだよ」
……………マジかよ…
一体どんな魔法だったんだ?…いや、そういう設定か。
「さぁ、入ってくれ。そうそう、私の家にようこそ。ユウ」
そして、俺は樹の家の中に入って行った。
――――中は普通だな。
ちゃんと壁はあるし、窓もある。
変なのは外側だけか…?
そんな事を考えていると、何処かで聞いたような声がした。
「えっ…なんでここに…」
「ん?」
聞き覚えがあると思ったら、家の奥の方に俺を縛って連れてきたエルフの少女が居た。
「やぁ、ただいま。リース。明日の準備は大丈夫かい?」
「リース?」
「あれ?まだ名前を知らなかったのかい?紹介しよう。彼女の名前はリース。私の娘であり、勇敢なエルフの戦士でもある。明日の戦いにも参加するから、仲良くしてくれよ?」
―――なんてことだ。あの可愛い子はこのイケメンの娘だったのか…道理で可愛い訳だぜ。イケメンの娘がこんなに美人という事はやはりイケメンの血か。恐るべしイケメン……
「…父の言う通り、私の名前はリースという。以後宜しく頼む」
そんな益体のない事を考えていると、件のリースから声がかかった。
マリウスさんは構想段階では、ゲインという名の筋肉ガチガチのゴリマッチョなオッサンでした。どうしてこうなった。