幕間・闇に潜むモノ
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「ミルズからの連絡が途絶えただと?」
「はい。三日前の報告を最後に音信不通です」
「確か…奴は東の大森海に赴いていたはずだったな?」
「はい。最後の報告では『首尾よく骨竜を入手した。少々実地試験を行った後、本部に帰還する』との事でした」
「ふむ…実験というと、やはり骨竜の能力試験というところか…?」
「確か…あの森には森精人に信仰されている竜が居るとの事でしたが…」
「成程、あの野郎……しくじったか?実地試験と言いながら、骨竜諸共に滅ぼされたってのか?」
「…この事は、あの方にも報告した方が良いでしょうか?」
「いや、今は少々忙しい時期だ。あの御方の耳に入れるのは止めた方が良いだろう。後で私が報告する。それまで、この事は他言無用だ」
「了解致しました」
報告を終えた部下が下がった後、"会議"の一人が呟く。
「―――しかし、強大な緑竜の屍を使った骨竜を打ち負かす程の力を持つとは…少々予想外だったな。それとも、余計な横槍が入ったって可能性もあるな?…何にせよ調査に行かせた方がいいんじゃねぇの?」
「やはり、今回の事に目途が付いたら様子を見に行くべきか…」
呟いた言葉は闇に溶けていく。
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餌の匂いがする。
彼は薄く眼を開く。
闇に細い瞳孔を持つ赤い眼が輝く。
久方ぶりのニンゲンが段々と近づいてくる。
慎重に、だが確実に此方に進んでくるモノが居る。
今居る場から彼等を普通ならば見る事は出来ない。他のモノにも見えないだろう。
しかし、彼は特別だった。この場に居るモノの中で唯一、"外"を見る事が出来る。
彼は小さく喉を鳴らす。
それは、彼の機嫌が良い時に鳴らす音。その音を敏感に察知し、他のモノも眼を覚ます。
起こすつもりはなかったのに…僅かではあるが失敗してしまった。
彼はやや反省する。しかし、この後の事は他のモノに勘づかれる訳にはいかない。
何より彼には"外"を見る"眼"は有っても、"力"が無い。
彼の目的を果たすためには、他のモノの"力"が要る。
例え、ニンゲン自体を自ら呼び込み、自身の存在を消すためであっても。
思い通りの状況に彼は再度機嫌良く喉を鳴らす。
ここまでは計画通り。しかし、彼らの"力"は未知数。
無事に彼等を倒す事が出来るのか?それは分からない。
しかし、憂さ晴らしにはなるだろう。
死ぬ死なないは問題ではない。このままでは自分はそう遠くない日に滅びる運命にある。
要は楽しめればいいのだ。
彼は眼を閉じる。この考えを他のモノに悟られてはならない。
彼は侵入者を心待ちにしながら眠りに就く。
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もうどれだけ走っただろうか。
幾度となく転び、ゴツゴツとした壁に肌を打ち付けながらも懸命に走ってきた。
当てなんてものはない。
そもそも、この洞窟がどこに通じているのかも分からなかった。
疲れ切った身体に鞭を打ち走る。
しかし、もう二度と、あんな場所に戻るのはごめんだった。
生きながら食われていく人々。
耳障りだと言われ頭を食い千切られた子供。
次の食事までの繋ぎという理由で半死半生で無理矢理生かされている人々。
人を人と思わない畜生に放り込まれた場所は正に地獄だった。
あの血に塗れた惨状を思い出すと気が狂いそうになる。
だが、こんな所で諦める訳にはいかない。
今私が背負っているものは私だけの命ではない。
文字通りその身を犠牲にして必死で化け物共の隙を作り、私を逃がしてくれた。
私が為さなければならない事は唯一つ。
彼らを助けられる者を見つけ、協力してくれるよう頼む事。
それは途方もない事だという事は理解している。
誰が好き好んで、赤の他人のために命を懸けられるのか。
もし、この頼みを聞いてくれるものが居るならば、その存在は勇者と呼ばれる者だと思う。
しかし、そのような勇者を見つける事など、億分の一にも満たないだろう。
誰彼構わず助ける者など存在しない。
勇者が起こし、勇者を祭るこの国では…
A「ミルズがやられたようだな」
B「ククッ…奴は我ら四天王の中で最弱…四天王の面汚しよ…」
C「でも、アイツいい奴だったよな。遠く離れて暮らす両親に給料の大部分を送金してたらしいし」
D「部下からの信頼も厚かったし、何より真面目だった」
ABCD「(´;ω;`)ブワッ」
まで考えた。




