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どうせなら楽しく生きたい。

作者: 村上泉

勢いとノリで書いてしまった…。

 はぁー。



 私は大きな溜め息を吐いた。


「やってらんないよー。」


 独り言を呟いてみる。

今、私、岡田悠里おかだゆうりは校舎裏の非常階段に座っている。

後少しで、昼休みが終わってしまうが、もうちょっとここに座っていたい。

はぁー本当に疲れた。


 黒くて長い綺麗な髪を加工せず、後ろに流し、ほどよく化粧をしているが、もともと顔立ちが整っていて、男子から絶大な人気を誇る我が校のマドンナこと、外川愛実そとかわあいみ

彼女が私の溜め息の原因だ。



「涼太先輩に彼女いるか調べて来てー」

だの、

「春樹君の趣味を調べてー」

だの、

「神崎君のお弁当は誰が作ってるのか、調べてー」

だの…もう疲れた。

勘弁してほしい。


 愛実は、自分の容姿のせいか、自分に寄ってこない相手にものすごく関心を持つ。

そして、その相手についての情報を私に集めさせるのだ。



 そもそも、なんで私がこんな役回りになったのかというと、初めはただの恋バナだった。

愛実の恋愛相談にのり、愛実の恋を応援するために情報を教えていたりしたら、私が情報屋みたいな扱いを受けるようになってしまった。


 本当はめんどくさい上に、愛実の言い方には腹が立つ。

それに集めて来てくれというのは、たいていは複数人同時にで、何股かける気なんだよ、といつも思う。

それでも、愛実が誰か一人大切な人ができれば変わるんじゃないがなーと思ってしまうから、いやいやながらも協力してしまう。




 予鈴がなり、重い腰を上げた。

放課後は、涼太先輩の彼女について調べなければ、と思うと、溜め息が止まらなくなりそうだ、と思った。



 あくびを、噛み締めながら、なんとか授業を終え、憂鬱な気分で上の階への階段を登った。

向かうのは、「3ーA」。

涼太先輩のクラスだ。


 教室の中を覗くと、何人かの生徒が残っていた。

その中に、大所帯の所があって、そこの中心にいるのが涼太先輩だ。



 関川涼太せきかわりょうた先輩は、髪を茶色に染めていて、一言で言えば、「チャラい」。

でも、顔立ちは整っていて、話も面白いので人気者。

でも、私は彼が嫌いだ。


 私は教室にさり気なく入る。

ちなみにこの学校は人数が多いので、他学年の教室に入ってもあまり気付かれない。



「あっ、悠里じゃん!」


 と、突然自分の名前を呼ばれ、驚いて振り向くとそこには、えみり先輩がいた。



「えみり先輩!」


 と、私は目的の人物を見つけ笑顔になった。


 えみり先輩とは、委員会で親しくなり愛実のわがまま(情報収集)のたんびにお世話になっている。

可愛くて、大好きな先輩だ。



「なになに、今度は誰についての情報ー?」


 と、えみり先輩はいつものことなので慣れた口調で言った。


「いつもすいません。今回は涼太先輩について、なんですけど…」


 と、私は謝ってからそう言う。


「あー、涼太ね。あの子が好きそうなタイプだもんねー、あいつ。」


 と、えみり先輩は嫌そうに言った。

えみり先輩は私が愛実と一緒にいるのに反対で、あんまり愛実に良い印象を持っていないようだ。

まぁ、こんな情報収集に協力してもらっているのだから仕方ないと言えば仕方ないのだけれども。


「で、どんな情報が必要なのかしら?お嬢さん。」


 と、えみり先輩がふざけ口調で言うので私もそのノリに乗る。


「ええ。想い人がいらっしゃるのかどうかについてお聞きしたくて…」


 わざと声を高くして目線を下にしながら言うと、えみり先輩が、爆笑しながら、「あんた、その役かなりハマってるよ!!」と言ってから、


「今はいないよ。つい最近別れたみたい。」

 

 という答えが返ってきた。


「そうなんですか。ありがとうございました。」


言うと、


「いえいえ、お安い御用よ。今度アイス食べにいこーね」


と、えみり先輩が言ってくれて、「はい!」と元気よく答えて教室を出た。

なんだか、一瞬誰かの視線を感じたが気のせいだろう。


 とりあえず、ターゲット1の情報はゲット、と。

ちなみにターゲット1とは、もちろん涼太先輩のことだ。

今のところターゲットは4人いる。

今情報収集した、3年の涼太先輩。

そして、同じく3年の生徒会長の海里先輩。

2年のサッカー部の春樹君。

同じクラスの神崎君。


 本当に気の多いことだ。

正直彼女には呆れている。

頭の中はお花畑なんじゃないか、というほど恋愛脳で、私にお弁当や、お菓子を作らせて相手に渡して「これ、私が、作ったの。どう?」と言って小首を傾げた時はもう、なんも言えなくなってしまった。

そんなんだから、男子に人気があっても女子には人気が、ない。

でも、私は彼女を嫌いになれないのだから、困ったものだ。


 私は鞄を取りに行くために教室に戻った。

教室には、まだ人が残っていた。

色素が薄く染めていると勘違いされがちの茶色の猫毛で、女の私なんかより肌が綺麗で、母親似の顔は女の子みたいに綺麗な男の子。

雪だ。

雪はヘッドホンをしたまま窓の外をぼんやり見つめていた。


 私は、自分の机から鞄をとって雪に

「ばいばい」と言ってから、教室を出ようとしたが、


「ねえ」


と、雪に声をかけられ立ち止まった。


「どこ行ってたの?」


「ちょっとね」


「また、あいつに振り回されてるの?」


と、雪は言ったあいつとは、愛実のことだろう。

私は曖昧に笑って首を振った。


「嘘つき…」


と、雪は拗ねたようにそっぽをむいてしまう。

これは、後がめんどくさそうだなと、思い機嫌を直してもらおうと、


「雪っっ、あっ間違えた神崎君!」


 名前を呼ぼうとして失敗した。

さらに雪の機嫌が悪くなったのを感じた。


「今は誰もいない」


 暗に名前で呼べと言っているようだ。


「雪」


と、呼ぶと、雪はいつもの無表情を崩して笑った。


「悠里!!」


 と、雪は楽しそうに私の名前を呼ぶ。


 そう、愛実のターゲットである神崎君こと、神崎雪と、私は幼なじみなのである。

でも、雪が愛実のターゲットになってからはみんなのいるところでは名字で呼ぶようになった。

なんだか、愛実に知られるとめんどくさそうだったからだ。

愛実は鈍いから気付いていないけど。


「じゃあ、悠里、帰ろっか!」


 と、雪は言った。

どうやら、私を待っていたようだ。

でもまだ帰れない。


「ごめん、後一個だけやらなきゃいけないことがあるからそれ終わってからになっちゃうから先帰ってて?」


「うん!待ってる」


 どうやら雪は人の話を聞いていないようだ。

めんどくさいので、とりあえず「うん」と言って、私は生徒会室へと向かった。


 


「失礼します」


 と、私は生徒会室のドアを開いた。

会長がいないといいなーという思いが伝わったのか、会長はおらず副会長だけだった。


「類先輩」


 と、私は副会長ー大沢類おおさわるい先輩に紙の束を渡す。

これは、今年の文化祭についてのアンケートをまとめたものだ。


「ごめんね、こんなの手伝わせちゃって。」


 と、類先輩は言ったが、割と面白い結果が出て楽しかった。


「いえ、私は暇なので大丈夫ですよ。それにやってて楽しかったし」


 類先輩が優しく笑った。

あぁ、この笑顔にハート打ち抜かれる女の子の気持ち分かったわ。

類先輩はとても良い先輩で、前助けてもらったことがあって、仲良くなった。

私は、彼のことを兄のように思っているし、その話をしたら類先輩も、妹のように可愛がってあげると、言ってくれた。(冗談だろうけどね)

だから、私は類先輩から雑用を頼まれるのは嫌じゃない。


「そろそろ終わるし、一緒に帰ろうか。」


 と、先輩が書類をまとめるような手つきをした。


「すいません。人を、待たせているので」


 と、私が言うと手が止まった。

それから、


「そっか、残念だね。相手は女の子?」


 と、聞いてきた。


「いえ」

 

 と、言うと、先輩は変な顔をして


「変な男に引っかからないように。」


 と、言ったので面白くて笑ってしまった。

これじゃあ、兄じゃなくて、父みたいだ。


「先輩のような男の人は?」


 と、ふざけて聞くと、


「そんな質の悪い男はだめです。」


 先輩が真顔で言ってきたのでまた笑ってしまった。

 

 そこで、ドアが開き、会長が入ってきたことに気付く。

さっきまで笑っていた顔を無表情に戻す。


「じゃあ、失礼しますね」

 

 と、類先輩に言って会長にも会釈をして生徒会室を出た。


ドアの向こうから


「気をつけて帰りなよー」


 という類先輩の声が聞こえてきて、元気よく


「はーい、類先輩ー」


 と答えると、ドアの向こうから笑い声が聞こえた。

少し恥ずかしく思いながら教室に戻り、雪と一緒に家に帰った。





 家で、愛実に涼太先輩のことを報告。

雪と一緒に帰ったことについては言わない。 

そもそも身内(幼なじみ)の情報はなんでも知りすぎているし、なんだか申し訳ない気持ちになるので教える時は本人に了解をとってからにしている。 

その日は、明日なにか起きることも知らずにぐっすりと眠った。



 次の日、事件は起こった。

愛実は涼太先輩に彼女がいないことが分かるとすぐに告白しに行った。

そこまではよくあるパターンなので別にどうでもいい。

しかし、今回はなんと移動教室中に私と一緒にいる時に廊下ですれ違った涼太先輩にその場で呼び止めそのまま告白したのだ。


「先輩のことが、ずっと前から好きでした。付き合ってください。」


 一世一代の告白みたいな言い方だが、こんな告白を何度もしたことのあるであろう彼女を見て、さらにそんな彼女を見るクラスの女子を見て、「女って怖いなー」とつくづく思った。


 愛実のすることは見ている分には面白いので、傍観していると、涼太先輩から視線を感じた。

恐る恐る視線をあげると先輩と目が合う。


「うん、いいよ。付き合おっか」


 と、愛実に言ってから、


「そしたら、君は俺の情報屋もやってくれるのかな?」


 と、私の方を見て言った。

バレてた。

怖い。

それに、私だってやりたくてやってたわけじゃない。

この人のこの目が嫌い。

なんでも見透かしているようなこの目が嫌い。


「嫌い」


 つい、小さく本音が漏れた。

すると、強く、腕をつかまれて引っ張られた。

そのまま、涼太先輩はどこかに歩いて行った。




 そこはいつも私が愚痴をつぶやく非常階段。



「卑怯者。」


 そこに着いて突然涼太先輩に言われた。

びっくりした。

でも、確かにその通りだと思った。


「本人に言えないからここで、愚痴をこぼしてたの知ってたよ。」


「なんで…?」


「だって、俺ここでずっと聞いてたもん」


 その言葉を聞いた瞬間背筋が急に冷えた。 


「不満を抱きながらも続けていた情報屋ごっこ。君と、あの子の関係は何?」


 私は黙ってしまう。

緊張のせいか、または他の理由で私は心臓を押さえた。


「私は、あの子に、愛実に幸せになって欲しいだけです。」


「そっか、それだけしか言わないんだね。」


 涼太先輩のちょっと非難めいた声。

「ずるいね。」と、付け加えられた。

涼太先輩の言葉は私の胸に突き刺さる。


 涼太先輩に一緒にいるのが嫌で、とにかくここから逃げ出してしまおうかと思っていた時に、後ろから抱きしめられた。


「それでも、俺は君が好きなんだけどね」


 びっくりして後ろを振り向くと、涼太先輩の顔がすごく近くにあった。


「なん…」


 なんで?と言おうとしたが最後まで言えなかった。

涼太先輩の唇に私の唇が塞がれてしまっていたからだ。


「まだ、秘密」


 と、涼太先輩が私の耳元で囁いて、ふと類先輩との会話を思い出した。

こういう男を「質の悪い男」というんだな、と思った。




 




その後、愛実は、サッカー部の春樹君に告白され、涼太先輩とのことはなんでもなかったかのように春樹君と付き合い始めたらしい。


 ここ最近の涼太先輩は、私のストーカーもどきで、今も私の横に座りながら、


「俺が振られたことになってるらしいんだよなー、おもしれぇーよな」


 と、言いながら、お菓子を食べている。

私は横からそのお菓子を摘まんで食べているが、その私の手を掴んで、涼太先輩は意地悪そうに笑って言った。


「これが、愛実ちゃんにとっての幸せなのかな?」


 と。

そんなの知ったこっちゃない。

と、思ったので私は黙っていた。


「やっぱり黙った。」


 涼太先輩はまたあの目をしていた。

やっぱりあの目は嫌いだ。


「それでも、俺は君が好きなんだけどね」


 あの日から何回か聞いた言葉。

いまいち嬉しくない。


「悠里は俺のこと好き?」


 顔が近い。

離れろ。

涼太先輩の肩を押して距離をとりながら、


「嫌い」


 と、答えた。


「あっそ」


 と言いながらも、涼太先輩はまた距離を縮めていく。


 強引にキスされて、舌を噛んでやろうかと思ったが、後が怖かったのでやめといた。


「いつか、悠里から求めるようになるよ」


 なんて、涼太先輩が変なことを言ったので、やっぱり舌を噛んどけは良かったなーと思った。




 






最後まで読んで頂きありがとうございました。

気が向いたら連載にできたらなーと思っています。

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