可愛いメリーさん
……Pulululu……Pulululu
安いワンルームマンションの一室。502号室に電話の音が鳴り響く。
時刻は深夜2時。一人暮らしのため、部屋には俺一人。
ふっ……怖くない。怖くないさっ! 別に、昼に友達と話した怪談の『メリーさん』を思い出したりなんかしてないさっ!
〜〜〜
「夜に、電話がかかってくるんだ。電話に出ると女の子が、
『私、メリーさん。今、あなたの家の前に居るの』
って言ってくる。再び電話がかかってくる。
次は玄関。その次は部屋の前。そして次には……
『あなたの後ろに居るの』」
〜〜〜
思い出しちまったぜ畜生ぉぉぉぉ!
前言撤回っ! 怖いっ! マジ怖いっ!
「……落ち着け、俺。どうせアイツのいたずらだ。出なかったら学校で笑われる」
……よし。いくぞっ!
まだ鳴りつづける電話の受話器に手をかけ、そして、
ガチャッ!
「もしもし? こんな時間にイタ電か? お前も暇だなぁ〜」
『…………ごめんなさい』
ガチャッ!
電話を切られたが……さて、
「誰だ? 今の女の子」
知らない声だった。少なくとも友達ではないし、親戚でもない。ということは……
……Pulululu……Pulululu
再び鳴り出す電話。今度は躊躇わずに出る。
「もしもし?」
『私、メリーさん』
先程と同じ女の子の声。
それにしてもメリーか……親戚に居たかな? うーん……ん?
メリーさん? メリーさんって、あの怪談の?
……いや、人違いの可能性もあるだろう。あって欲しい!
『今、あなたの家に向かってるの』
やっぱりあのメリーさんだぁぁぁぁ!!
え、なに? もう近くまで来てたりすんのっ!?
「あ、あの……今、どの辺りですか?」
『今……』
どこだ? どこに居るんだ?
『……草津』
「遠っ!?」
ここ東京だぞ? もっと言えば23区内だぞ?
ガチャッ!
「あ、切れた」
こっちの質問に律儀に答えてくれたのは意外だった。
それにしても草津か。まだ時間はあるし、今の内に寝――
……Pulululu……Pulululu
いや、ない。この速さはない。メリーさんではないはずだ!
ガチャッ!
『私、メリーさん。今、○×駅に居るの』
「も、最寄り駅ぃぃぃぃ!?」
速い。速過ぎる。駅伝選手もビックリな速さだ。
ガチャッ!
ヤバい。この速さだと、すぐに家まで来てしまう。
……Pulululu……Pulululu
「くっ……もう来たか」
覚悟を決めて電話に出る。
ガチャッ!
『私、メリーふぁん。ごっくん』
あれ? 今、何かを飲み込む音が……
『今、コンビニに居るの! はむっ!』
「腹ごしらえ!?」
しかも、なんかご機嫌なんですけどっ!!
つか、遅っ!? コンビニって駅から徒歩一分だぞ!
ガチャッ!
メリーさん、思ってたのと全然違うんだけど。意外と可愛いんだけど。
……Pulululu
ガチャッ!
もう怖くないのでワンコールで取る。
『う〜ら〜め〜し〜や〜』
「…………」
『…………』
ガチャッ!
「何がしたかったの!?」
あまりに唐突で反応できなかった。
俺の恐怖心が薄れたのでも感じ取ったんだろうか。
……Pululu
ガチャッ!
『私、メリーさん』
「何事もなかったかのように仕切り直した!?」
『今、あなたの家の……あれ? 違う。ここ山本さん家だ』
ガチャッ!
「なんか間違ってるぅぅぅぅ!!」
しかも誰だよ! この近所に山本さん居ないよ!
……Pululu
ガチャッ!
『私、メリーさん』
「用件は?」
『今、どこに居るの?』
「遂に疑問形っ!? 普通に自宅だよ!」
『いえ、私がです……』
「知らないよ!」
ガチャッ!
メリーさん、完璧に迷子じゃん。大丈夫かな?
あれ? なんで俺がメリーさんの心配してるんだろう?
……Pululu
ガチャッ!
『私、メリーさん』
「どうした?」
『迷子なう』
「何故にツイート形式っ!?」
しかも予想通りに迷子だった。
『……よし。わかった』
ガチャッ!
「何がだよぉぉぉぉ!!」
何がわかったんだ? 今の通話の間に何があった?
……Pululu
ガチャッ!
『私、メリーさん』
「それ、そろそろしつこくない?」
『今、あなたの……はぁ、家があるマンションの……はぁ、ふぅ階段を、上がって……るの』
ガチャッ!
「メッチャ疲れてんじゃんっ!!」
電話しながら階段を上がるからだよ!
あぁ、もう可哀相だから麦茶でも入れておいてあげよう。
……Pululu
ガチャッ!
『私、メリーさん』
「あくまで形式美を貫くか」
『今、あなたの家の前に……着きましたぁ〜〜〜!!』
ガチャッ!
「何で実況風っ!?」
くっ……迂闊にも少し感動してしまった。
……Pululu
とうとう、俺の後ろに来るのか。まだ居ないなぁ。
ガチャッ!
『私、メリーさん』
まだ、俺の背後に気配はない。もしかしたら、実はもう居るのかもしれない。
心してメリーさんの言葉を聞く。
『鍵が、開きません』
「…………は?」
今なんと?
『鍵が開きません。開けて下さい』
「…………」
予想斜め遥か上な要求に、俺は無言で玄関へ向かい――
ガチャリッ!
――鍵を開ける。そしてドアを開けると、
「私、メリーさん」
可愛いらしい少女が居て、
「今、あなたの目の前に居ます!」
そう言って、満面の笑みを浮かべた。
「あぁ〜、とりあえず……あれだ」
笑顔が眩し過ぎて直視できない俺は視線を逸らし、
「麦茶でも、飲んでいく?」
そう問い掛けるのが精一杯だった。
どうも、カルタです!
メリーさん可愛いっ! なんていう感想を持っていただければ光栄です。
最後まで読んでくれた方、少しでも楽しんでくれた方、ありがとうございました!
感想・指摘もお待ちしてます。