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DATE  作者: メジロ
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DATE:5.2 機械の魂と心

     DATE:5.2 機械の魂と心


 僕が3人目のマスターと出会ったのは、雪さんの額を冷やすための氷を求めて、台所への扉を開けた時だった。

 上半身裸で肩にタオルをかけ濡れた髪もそのままに、換気扇の下でシンクに身を預け缶ビール片手に煙草を吸っていた男性…。

 その男性はちょっとびっくりしたように、そしてはにかむようにして笑みを浮かべ「ども」と、かすかに頭を下げてきた。

 僕も釣られて「ども」と、頭を下げる。

 何が楽しいのか瞳をきらきらさせて笑顔で僕を見つめてくる男性に、僕はしばし見惚れてしまった。

 雪さんや彩さんとやっぱり顔が似ていて、同じ位置のホクロが見事に大人の艶っぽさを演出している。

 整った顔は男性的でありながら、滑らかそうな肌に長いまつげと、これが女性だったら通りかかる男は10人が10人振りむくであろうと思われる艶やかさだった。


 身長高っ!?190㎝くらい?わー…いい筋肉してるー。いいなー。うらやましい…。


「って、そうじゃなくて。あの!雪さんが熱出しちゃって。…氷枕とかお薬とか何かないですか?」

 彼は考え込むように少し顔をしかめた後、煙草をもみ消し缶ビールを置くと、冷蔵庫の方へ歩いて行った。

 冷凍庫を開けると棒付きアイスを2つ取りだし、1つを僕に投げてくる。

 思わずキャッチした僕に、親指を立てて「ナイスキャッチ」と、言うと、もう1本の方のビニールを破き、その口にアイスを咥えた。

 更に冷凍庫の中から水色の何かを取り出し…テーブルのお盆へと投げて積み上げて行く。

 それから冷凍庫の扉を閉めて、カップボードの前へ行き、しゃがみこんだ。

 中から緑色の十字マークのついた少し大きめの木箱を取り出し、片手に下げて立ち上がると僕の方を振り向いて言った。

「それ、持ってきて」

「あ…はい!」

 彼が指さした水色の何かが乗ったお盆を持ち、僕は彼に付いて行った。

 

 雪さんの部屋へ戻ると、雪さんの顔はまだ赤く、短い呼吸を繰り返していた。

 男性は雪さんの枕元で座ると、雪さんの額に手を当てながら言った。

「雪~。意識はあるか?」

 男性の言葉に雪さんはうっすらと目を開いた。

 だが、まだ具合が悪いのだろう、そのまま目を閉じてしまう。

 それを見た男性は持ってきた木箱の中から体温計を取り出すと、雪さんの上衣のボタンを外していき、体温計を差し入れた。

 そして僕の方を見て手を出してきたので、持ってきたお盆を渡す。

 お盆を受け取った男性は、アイスを持っている方の僕の手を見た。

「食べないの?」

「え?」

「雪が熱出すのはしょっちゅうの事だから、まぁ大丈夫だから。とりあえずそれ溶ける前に食っとけ」

「あ…、はい」

 僕がアイスのビニール袋を破くと男性が手を出してくる。

「袋、捨てるから」

「あ、ありがとうございます」

 僕がビニール袋を手渡すと、男性はここに来るまでに食べ終えていたアイスの棒と共に、ベッドのそばにあったゴミ箱に投げ入れた。


 その時「ピピピッ」と電子音が鳴り、雪さんから体温計を取り出しそれを見た男性が、ちょっと顔をしかめている。

 そして木箱からアルミに包まれた何かを出してその袋を破りながら言った。

「雪ー。聞こえてんなら、うつ伏せー」

 そう言った後、男性は今度は僕の方を見る。

「お前はあっち向いてて」

「へ?」

 僕の方を見ていた男性はちょっと首を傾げると、雪さんに視線を戻し言った。

「雪ー。こいつ見てても別にいいわけ?」

 もぞもぞとベッドの中でうつぶせになろうとしていた雪さんの動きがピタリと止まった。

 そのままふるふると首を振っている。

「嫌みたいだぞ?」

 ちょっと困ったような顔で男性は言い、ちょっと考え込んだ後、布団の下に手を入れた。

「はぁ…うっ…」

 微かに雪さんのうめき声が聞こえ、顎をのけぞらせた雪さんのうるんだ目が僕とあった。

 見た事の無い表情をした雪さんは、次の瞬間には勢いよく枕に顔を埋めてしまった。

 枕に頭を埋めたまま何かを言っているようだ…。

「ん?どしたー?」

 男性が雪さんの頭に顔を近づけ何かを聞き取った後こちらを振り向き、ものすごく見下したような目をして僕に言った。

「『ヘンタイ!』…だ、そうだ。激しく同意」

「ちょっ!待ってくださいなんで?!僕ナニカしましたか?!」

「いやぁ…俺の口からは言えねぇ…」


 視線をあらぬ方向へとさ迷わせていた男性は、ふと何かに気づいたようにぽつりと言った。

「あぁ、そっか。…雪がマスターやってんだっけ?なら、教えといた方がいーじゃん」

 まじめな顔をして男性は、僕を手招きしながら言う。

「雪が熱出したら、坐薬入れてやって。これが一番熱下がるから。それでも無理なら点滴するんで、内線で呼んで。俺の番号は〇〇〇だから」

 近づこうとしていた僕はそのまま固まった。

「えーっと、薬はコレな?」

 そう言って、木箱から紙の箱を取り出して僕に見せた。

「は…はい…」


 ヘンタイ…それは確かに言われても…。

 雪さん僕に見られるの嫌がってるってさっき言ってたのに…今度から僕にやれと言いますか…。

 

 なんとも言えない気分の僕を放置して、男性は今度はベッド下の引き出しからタオル類を取り出すと、お盆の上の水色のなにかを丁寧に一つずつ手際良く包んでいく。

 そしてそれらを雪さんの脇の下・首元に一つずつ入れていき、雪さんに布団を被せた。

「よし。こんなもんだろ」

 男性はそう言うとお盆と薬箱を持って立ち上がった。

「1時間くらいしたら様子見に来ればいい。で、お前はちょっと俺に付き合え」

「ふぇ?」


 僕と男性は雪さんの部屋を出て、いつもの部屋の向かい合わせのソファーに座った。

 目の前のテーブルには缶ビールが缶のまま置かれている。

「あの…、僕あまり飲めないって、彩さんから聞きませんでした?」

「そうか?まぁ、アルコール摂取しても問題ないよう体作ったはずなんだが…」

「えっ?」

「あ、そーいや自己紹介してなかったな。俺は運動機能とか体とか担当したリュウだ。よろしく」

 見惚れるほどの笑顔でそう言ってきた男性は缶ビールを開け、続けて言った。

「まぁ乾杯くらい付き合えよ」

「あ、はい」

 僕も急いで缶ビールを開けて、手に持った。

「かんぱーい!」

「乾杯…」

 ビールをぐびぐび呑む男性を見て、僕も恐る恐る口を付ける。

「やっぱり苦…」

 缶を両手で持ちながら、舌を出す僕を見て男性は笑う。

「大人になると、分かる味さ」


「んで、さっきもアイス投げたらキャッチ出来てたし。問題なさそうだな」

「ええと、僕、何も聞いてないんで…よくわからないんですが…」

「なに?あいつら言ってないのか…」

 口をぽかんとあけて呆然とした様子だった男性は次の瞬間、頭を抱えた。

「うあぁ~。彩~~~、話しとけよ~。余計な事には口回るくせに~~~!めんどくせーーーっ!」

「あ。えーと、雪さんから僕の人格はネット上の僕のキャラから集めた情報で作ったとは聞きました」

「あー?なんだ聞ーてんじゃん。他には?」

「それだけですね…」

「はぁっ?!うがーっ!あいつら~~~~~っ!XXXっ!〇〇〇がっ!」

 頭をかきむしりながら男性は苦悶し、何やらひとしきり罵詈雑言を叫んだ後、溜息をつきながら肩を落とすと、こちらに向き直った。

「あー、まぁいいや。俺に分かる所は話してやるよ。なんも知らされないのは頭にくるもんな~。あとの話はあいつらから聞け」

「はい!」

「始まりは俺達のオリジナルなんだけどさ。割愛するわー」

「えええっ?!いきなり割愛しないでくださいよー!」

「オリジナルが何考えてたとかは、彩に聞けよ。俺知らねーもん」

「じゃあ…うーっと、僕って何なんですか?」

「遺伝子操作とかいろいろやって、体に関しては作ったの俺。体作るだけなら今の技術でイケルんだよな。まぁ…倫理がどーとかいろいろあるけど割愛!」

「なんでも割愛する気満々ですね?!」

 にへらっと笑って、缶ビールを煽るリュウさん。


「でさ、俺が作った体に、ネットで集めた基本人格となる情報で、脳の神経回路を作ったわけ」

「うっ???ええと…?」

「まぁ、難しい事話しても分からねーだろ?これでも簡単に話してるんだが…。

 記憶する部分に電気が走って刺激することで、人間は考えたり体を動かしたりするんだが、その電気が走る道筋が回路な?

 脳に回路付けないとなんつーか、植物状態なんだよな。

 自分で呼吸とかさ、脳神経に電気走らせて回路作ると、自呼吸が始まるわけ。

 んで、ネット上の基本人格だけじゃ足りないんで、俺達の回路とか、俺達のオリジナルになった人間の脳の回路も使ったんだわ。

 作るきっかけは雪が死にそうになっててさ、雪が望んだからもあるけれど、上に許可させるのにけっこう無茶したんだ。

 オリジナルって汎用性はあるんだが、その分、情報量が半端じゃないしバランス悪ーし、無数にある回路も解明されてないもんが多くってさ。

 あんたにちょっと似てるだろ?

 彩が無理矢理そう言って認めさせてさ。

 まー、彩とか雪とか俺とか…俺達が少しずつオリジナルの回路をのっけてて、解明できてる回路もあるんで、そう簡単に死んじまったりはしないと思うけどなー。

 彩と雪はさー、あいつらあれで3代目なんだわ。けっこう弱くてな。あ。俺は2代目なー。

 彩はともかく、雪はほとんどベッドで過ごす事が多かったんだが、あんた作るって決まってから、雪が安定したんで、まー上は成果を認めてるみたいだぜ?

 ああぁっ!ビールもう無ぇ!お前呑まないんならそれ寄こせ!」

「あ、はい」

 ビールを受け取りリュウさんは嬉しそうに一口呑んだ。

「しゃべると喉渇くからさー。ビールがうまいんだよ」


 たくさん話してくれたリュウさんに、僕は質問してみることにした。

「あのー、そしたら僕は人間なんですか?」

「それ、俺たちに『人間なんですか?』って聞くようなもんじゃね?人間の生身を持っているけれど、それぞれバックアップデータを取る為のコンピュータは繋がってるからなー?どーなんだろなー?」

「うーん…」

「あ、でも彩が言ってたぜ?あんた起動させてから2日目?3日目?心ができたって。魂自体は俺達もそうだけれど、回路を作ったあたりから出来上がるらしい。これも彩が言ってたことだけどな」

「彩さんって…心とか魂データ?担当ですか???」

「…どーだろ?いちおー俺も昔、聞いてみたけどよく分かんねーんだわ。抽象的すぎて」

「抽象的…ですか?」

「あぁ。それぞれが自分の回路に関しては分かるんだけれど、人に説明すんのは難しいんだわ。彩から直接聞いた方がいいぜ?」

「ううう…。聞いても理解できない気がしますが頑張ります…」

「ハハハッ!まー頑張れ!…と、そろそろ1時間たったな。俺まだ仕事あるんで、雪の事は任せるからよろしく~。なんかあったら内線〇〇〇な?」

「えええっ?!いや…今、雪さんに会うのすごく気まずいんですが…」

「そういう時に会っとかないと、ますます会い辛くなるもんだぜ?まぁ、頑張れ」

「あぅ~…」

「じゃっ、またその内に~」

 リュウさんはビールの缶を2つ持つと扉の所で振りかえり、ものすごくイイ笑顔で手を振って部屋を出て行ってしまった。


 

 

浣腸→坐薬 に訂正…

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