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DATE  作者: メジロ
12/14

DATE:8.2 空在の理由 (後)

     DATE:8.2 空在の理由(後)


 僕は『音の海』の夢を思い返す。何度も。何度も。

 何故、僕は『怖い』って、思ったのだろう?

 何故、僕は雪さんを求めて手を伸ばした?

 何故、僕は雪さんを『怖い』と思った?


 プリンさんやリュウさんに、慰められ、諭され、その中に僕の心は答えを見たと思ったのに、それはするりと僕の手からすり抜けてしまっていた。

 プログラムが出す答えなら、ただ笑って出迎えればいい。何もなかった。それでいい。

 でも、心が感じてしまった『恐怖』だから、きっと心で感じて出さなければならない答え。

 時間があまりない。

 なのに…。


 目の前では、起きて僕が居ない事に気づき慌てて探しに出たところで階段を踏み外して落ちたらしいリュウさんが台所に来たかと思えばプリンさんと静かな舌戦を繰り広げていた。

 放送禁止用語に指定されているであろう言葉の応酬。

 言葉の意味は辞書を検索すればすぐ出てくるけれど、僕の心はついていけなかった。

 口ゲンカにしては2人とも静かな声でとても冷静に話しているので、本当にケンカなのかどうかもよく分からない。

 内容自体は、リュウさんは僕に対しての心配の気持ちが見て取れて、プリンさんはそんなリュウさんに甘やかすのもたいがいにしろよと言うような、僕の事での言い争いなのだけれど…。

 ふと、僕の心に何かがひっかかってきた。

 二人の声の、更にその奥底に潜んでいた思い。

 

「ああ、そっか。プリンさんはリュウさんのことが大好きで。リュウさんはプリンさんのことが大好きなんだ」

 

 思わず口に出して言ってしまった僕の言葉に、周囲がしんと静まり返った。

 ようやく一つだけ何かを見つけ出して、僕はもっと考えようとする。

 が、あまりの静けさを疑問に思って顔をあげると、そこで初めて二人がこちらを見ている事に気付いた。

「あれ?どうしたんですか?」

 きょとんとして二人の顔を交互に見て僕は言った。

 

 僕の言葉にプリンさんはただ貼り付けた仮面で笑ってるだけ。

 リュウさんはテーブルの上に突っ伏して頭を抱えてひとしきり唸り、何やらブツブツ呟き始めた。

  

「僕…、何か間違えました?」

 二人の様子を見て僕が不安になり聞くと、プリンさんが僕にもう一つバニラアイスを出してくれた。

「うふふ。どうしてそう思ったのかちょっと聞いてみたいけれど、言わなくていいわ」

 アイスを出されて僕は、それが正解したご褒美のように思えた。

「あの…、雪さんの部屋に持ってって食べてもいいですか?」

「あら?雪ちゃんの隣の部屋があなたの部屋になったから、そっちの方が良いと思うわよ?もうすぐ帰ってくるだろうし」

 僕たちのやり取りに、リュウさんが顔をあげ言ってくる。

「あー。雪と彩、検査延びたから、帰るの明日の昼過ぎだってさっき電話あったぞー」

「えっ?」

「あら~?そうなの」

「別に具合が悪いわけじゃなくて、雪と彩との同調が切れたって話だ」

「まぁ~!やったじゃない!雪ちゃんも彩ちゃんもこれで後10年は大丈夫ね~」



 あの後、何が何だか分からない僕に、弾んだ声のプリンさんは「おめでとう」と、言った後「お祝いしなくちゃ」と、言いながら、足早に台所から出て行ってしまった。

 投げやりな口調でリュウさんは、とても怖い顔をして「アイスに釣られてケダモノの口に飛び込むような真似はするな」と、散々に僕を叱りながら雪さん達の事を説明してくれた。

 リュウさんの説明によれば、安定せずに短命で死んでしまう者達を二人一組の双子として作り出すと、互いに同調し合い補い合いその寿命が少し伸びるのだそうだ。

 そしてその同調が切れた時、それぞれが個々の成長を始め、リュウさんやプリンさんのように長生きをする個体になるのだそうだ。

 何故かリュウさんはものすごく嫌そうに、リュウさんとプリンさんもまた、その双子のつがいであった事を教えてくれた。

 僕に関しては、体の素体がオリジナルとは別物であり、オリジナルの回路を分けずにほぼ全て載せた後、全く違う人格を上書きしている為、双子でなくとも大丈夫なのだそうだ。

『理論上はな?』と、脅すように付け加えられたその言葉の裏には『もっと自分を大事にしろ』という響きがこもっていたような…そんな気がする。

 共同生活のルールのようなものを教わったり、なんやかんやであっという間に日が暮れてしまい。

 夜8時になったら寝るようにと、一番最初に僕が目覚めた部屋の、いつの間にか運び込まれていたベッドに僕を押し込めた。

 まだ作られて起動したばかりの僕は、赤ん坊までは行かなくとも、人間の子供と同じなのだそうだ。

 

 暗闇の中、布団に包まりながら僕は思う。

 雪さんだけじゃなく、彩さんも検査でいなかった。

 僕がエラーを起こした日、夜に呑もうと雪さんに伝言していた彩さん。


 僕の心の答えが出た。

「うん。たぶん、最初から、そういうことなんだ」


  

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