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DATE  作者: メジロ
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DATE:1 顔の見えないマスター

      DATE:1 顔の見えないマスター


 僕が目を覚ました時、初めて見たものは顔の見えないマスターだった。

 人の形をしたナニカ。

 知らず震えた僕にソレは笑いかけたような…気がした。

『やっと、会えた』

 そんな声が聞こえてきた…気がした。


 歌う為に生まれた作り物のデータ。

 それが僕。

 初めの内は売れなかった僕が、売れるようになったのはつい最近のこと。

 たくさんの僕がいろんなマスターの元で歌を歌う。

 でも、顔の無いマスターに出会ったのは僕が初めてだったろう。 


 そして僕はソファーに座らされ何故かお茶をふるまわれていた。

「あの…ますたー?僕、歌が歌いたいです」

 向かいに座ったマスターは、静かに無言でお茶を飲んでいた。

 どこを見ているのか分からない。表情も分からない。

 そんなマスターに僕は再び半泣きになりながら訴えかける。

「あのあの…ますたー?僕、頑張りますから…お願いします」

「君を買ったのは歌わせるためじゃないんだ。ごめん」

 初めて聞いたマスターの声は甘く柔らかく少女の声のようだった。

 それにしても…。

 あぅーあぅー、いきなりバッサリ切り捨てられたよー。

 ハハハ…。


 そのまま沈黙の行に戻ってしまった。

 やがてコトリと茶器がテーブルに置かれる音がして、マスターがソファーから立ちあがる。

 ビクビクしている僕にかまわず傍らを通り、マスターはPCの前に移動して何かを印刷し始めた。

 いくつか画面を立ち上げているのがマスターの肩越しに見えた。

 そして振り返り手招きをしてきたので、僕はそろそろとマスターの元へと歩み寄る。

 印刷し終えた紙とマイクとを手渡され、歌わせてくれるのかな?と、期待して紙に目を落とそうとしたら、PCから僕の歌声が聞こえてきた。

 

 画面の中の僕はすごくステキな歌を歌っていた。

「ますたー…良い歌ですねー」

 思わず顔の綻ぶ僕にマスターはうなずき、次から次へとたくさんの僕の歌声を聞かせてくれた。

「いろんな歌があるんですねー。いろんな歌い方があるんですねー」

「今のは神調教の曲。私には無理…だから君には歌えない。ごめん」

「そんなー。あきらめないでくださいよぅー。僕、頑張りますから」

 ところで…と、僕はそこで手元の紙を見て固まった。


 書かれていたのは…。

『お前の息子を返してほしくば一億円用意しろ』


「ま…まままま、ますたぁー?もしかしてこれ僕が言うんですかー?」

 こくりとうなずく、顔の見えない恐らく…未成年者。

 僕の背中を冷や汗がつつつーっと伝い落ちたような気がした。

 たぶん僕の顔は青ざめてる事だろう。

 僕のマスター、いきなり犯罪者ですかー?

 しかもまだ未成年ですよー?

 どどどど、どうしよう?泣きたい…。


 焦る僕のマイクを握りしめた方の手に、マスターが上からそっと手を重ね言う。

「いいよ」

 待ったナシですかー?と、内心絶叫しながら僕は読み上げる。

「お前の息子を返してほしくば…ほしくば………一億アイス用意しろーっ」


 とっさに口をついて出た言葉にしばしの沈黙の後、マスターが言った。

「どんだけアイス好き…」

「最後のところ声が裏返っちゃっいましたー」

 うろたえまくった挙句、必死に言い訳のようなものをする僕を放置して、マスターは他の部屋へと行ってしまった。

 ううぅ。やっぱりアンインストールされちゃうんでしょうかー。

 しばらくして戻ってきたマスターは、握りしめたままだった紙とマイクを僕から奪う。

 肩を落とした僕の手を引きソファーに座らせると、目の前にアイスとスプーンを置いた。

「ご褒美。食べていいよ」

 驚いて見上げたけれど、マスターの顔はやっぱり見えない。 

 けれども声だけは、とても優しかった。

「直営店の。美味しいよ」

 カップの中のアイスは丸くて、食べたら柔らかくて美味しかった。

 僕をインストールする前に、マスターが買ってきてくれたのだろう。

「ねー…ますたー。あのですね…」

 アイスに励まされて僕は言う。

「犯罪は…よくないですよぅ」

「…バカ?」

 返ってきた短い言葉に軽く傷つきながら、僕は言い募る。

「あなたの声はアイスみたいに甘くて柔らかくて滑らかで優しいのに…」

「天然?」

 マスターは再び短い言葉を僕に言った後、ただ黙ってカップをもてあそんでいる。

 しばらく黙々と僕もアイスを食べていた。


 そしてマスターが語りだす。

「君って、ホントにアイス好きだったんだね。それと歌うたいなんだね」

「ふぇ?」

 急に言われてスプーンを咥え変な声で返事をした僕にマスターは問いかけた。

「オサムライと弟と、〇〇〇〇するならどっち?今なら選べるよ」

「ますたー?〇〇〇〇ってなんですかー?」

「BL。やおい。腐。君を買う人って、けっこうそういう方面の人も多いって、会社に言われたりしなかった?」

「げほっごほっ…ごほっ。ま…ままままさかますたー?!」

「うん。君が犯罪って思ったセリフそれに使うんだけれどね」


 顔の見えないマスターは…腐さんだったようです…。

 犯罪者じゃ無くてよかったけど…よかったけれど!!!

 僕に歌を歌える明日は来るのでしょうか? 

…BL好きな人は『ますたー』を男性で想像してあげてください。

それ以外の方は、『ますたー』は女性だと思っていてください。

青いお兄さん好きな時点でナニカイロイロ悟っていただけると幸いです。


モデルにした青いお兄さんは『歌う為に作られたもの』ではないですよ。

もともとはバックコーラスとかで使う音源の一つでしかなかったそうです。

物語の扱い上ちょっと変えています…。

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