かつての勇者たちに再結成依頼が届くが、断らせてくれ。
「はあ!?40年ぶりに勇者パーティーを再結成してほしい?」
「はい、どうかお力を貸していただけないでしょうか…!」
王家の使者が訪ねてきたかと思うと、とんでもないことを言い出した。
「いや、60を過ぎた老体に無茶言わんでくださいよ」
「ですが、あなた方が以前倒した魔王の子どもが地下の奥深く眠っていて、そやつが目を覚ましたのです…!」
「俺らは俺らで、ちゃんと魔王を倒したじゃないですか。次世代の勇者への神託は告げられていないのですか?」
「……告げられました」
「じゃあ、新しい勇者くんいるじゃないですか!その子たちに行かせてくださいよ…!」
以前勇者だったからといって、今更勇者の力が使えるわけがない。
だいたい新世代の勇者が現れているなら、何も問題ないじゃないか。
なんで、元勇者パーティーの俺らに行かせたがる?
「その、新しい勇者が、平民でして…」
「俺は男爵家の四男だったし、他の奴らはほとんど平民でしたよ?たいして変わらないじゃないですか」
現に今まさに俺は平民なわけだし。
元勇者の肩書きなんて使えないぐらいには、ただの60過ぎのジジイだ。
報奨金をこの40年ちまちま使って生きてきただけで、裕福ではない。
「選ばれたことで、その、大変ご立派な態度と言いますか。……不遜と言いますか、…貴族のみなさまの反感を買っていると言いますか」
なんとも言いにくそうに言葉を紡いでいく使者に、少しだけ同情しそうになった。
ああ…、選ばれたことで勘違いしちゃったか。
あくまでも、勇者は選ばれただけだ。
伝説の勇者の剣を唯一触れる人間になるだけで、本人がすごいとかではない。
身体強化は自分でやるしかないし、仲間との連携だって自分たち次第だ。
それだけで偉くなれたら、俺も俺の元仲間たちも今頃貴族位をもらうなり、特別待遇を受けていないとおかしい。
でも、そうなっていないのが現実だ。
贅沢しなければ一生暮らせる分の報奨金をもらえたが、それだけだ。
そこを冷静に見ないとキツいものがある。
この国で偉いのは間違いなく王家だし、その次は貴族なのだから、そこから不満が漏れているのは、まああまりよろしい状況ではないのだろう。
「お気の毒様です」
俺が一言そう言うと、使者は顔を歪めてしばらく黙ったまま佇んでいたのに、その目からボロボロ涙が零れ始めた。
あーあ、今の勇者、何しでかしているんだよ。
「…もう、本当にめちゃくちゃなんです」
「それはご苦労様です」
「元勇者様たちの名が上がるくらい、しっちゃかめっちゃかなんです…!」
「ええ、そうなんでしょうね。でも、もう身体的にお応えできません」
「…はい、わかっております」
わかってて来るしかなかったのか。
さすがの俺でも、今度こそ同情した。
「使者様、お急ぎですか?お茶でも飲んでゆっくりして行かれたら?また疲弊空間に戻られる前に、少し休んで行ってくださいよ」
部屋に招き入れようとすると、使者の嗚咽が止まらなくなった。
「元勇者様は、こんなに、人格者なのに…っ!あいつら、ときたら…!」
お茶をご馳走するだけで人格者とは、相当威張り倒しているんだろうか…。
使者は気を許したのか、愚痴という愚痴を吐けるだけ吐いて帰って行った。
俺も一応、元仲間たちに連絡を取ったけれど、全員断っていたようだった。
それもそうだ、かつて死にものぐるいで頑張ったから今の生活があるのだ。
若い頃のように、もう一度戦えは無理がある。
せめて指導役にどうかという通達もあとから来たが、それも丁重にお断りした。
勇者の剣は、指導なくとも握ってしまえば、『わかってしまう』ものだ。
それは王家だって知っているはずだし、本音を言うなら不遜勇者たちに関わりたくなかった。
使者が再結成してほしいと頼みに来てから、数年後。
新世代勇者パーティーが魔王を倒したという朗報が、街中に広がった。
俺は元仲間たちと久々に集まって、酒を酌み交わした。
「なんだ、結局はうまくいったじゃないか」とみんなで安堵しながら呑んだ酒は旨かった。
だが、半月もしないうちに、また同じ使者が現れた。
「……勇者様たちは、お亡くなりになりました」
「は?」
「帰還祝賀会が王宮で開かれ、たくさんの貴族の方々がお集まりになっていたのですが…」
そこで区切ると、重い口を再び開いた。
「酒に溺れた勇者御一行は、王女殿下ならびに他の数人の令嬢を辱めたことがわかり、今までの行いも含めて処刑されました」
絶句とはこのことを言うのかもしれない。
でも、なんでその報告が関係ない俺のところに…?
「このことを踏まえ、以前の勇者パーティーの皆様が大変立派に勤め上げただけでなく、報奨金のみだったのにもかかわらず文句もなかったことが、王からも貴族からも再評価されまして、此度の勇者たちに与えられるはずだった報奨金を、追加で前世代の勇者様たちにお渡しする運びとなりました」
使者の目が輝いていて、俺は顔を引き攣らせないようにするのが精一杯だった。
「お断りします」
そんな怖い金、貰ってたまるか。
「俺たちって、身の程を弁えていたんだな…」
次に集まった時の酒はなかなか進まなかったが、追加の報奨金をもらったやつが1人いて、そいつは自分の育った孤児院に全額寄付したと言うから、少しだけ盛り上がった。
いい仲間たちでパーティーを組めていたんだなと、俺はしみじみしたのだった。
了
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