表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/139

第99話:帝都の守護者

謹慎が解け、三番隊組長として復帰した新八。

彼が率いる部隊はもはや旧来の新選組ではありませんでした。

それは「帝都の守護者」としての新たな姿です。

 数週間後、謹慎が解かれ、俺は新選組三番隊組長としての任に復帰した。土方さんとの間に生まれた溝は、まだ完全には埋まっていない。だが、京の街は、俺たちの個人的な感情で揺らぐほど、甘くはなかった。


「三番隊、出動だ!先斗町で不逞浪士が騒いでいるとの知らせだ!」


 俺の号令一下、黒の隊服に身を包んだ隊士たちが、一斉に駆け出す。その動きに一切の無駄はない。俺が現代知識を元に考案した、近接戦闘術と集団戦術を徹底的に叩き込んだ、精鋭中の精鋭たちだ。


「目標は、土佐藩を脱藩した浪士の一団。相手は酒に酔っているが、油断するな。あくまで目的は鎮圧だ。むやみに命を奪うなよ!」


「「「応ッ!!」」」


 力強い返事が、屯所の庭に響き渡る。俺たちは、夜の闇に染まる京の街へと繰り出した。


 先斗町の狭い路地裏は、酒と血の匂いが入り混じり、異様な熱気に包まれていた。数人の浪士が、刀を振り回し、店や通行人に絡んでいる。典型的な、尊攘思想にかぶれた連中の暴発だ。


「そこまでだ!」


 俺が声を張り上げると、浪士たちが一斉にこちらを振り返った。その目は、憎しみと狂信で濁っている。


「出たな、幕府の狗、新選組め!」

「天誅!」


 浪士たちが、我先にと斬りかかってくる。だが、俺の隊士たちは、慌てる素振りも見せない。


「第一分隊、前へ!盾で防御!」


 指示通り、最前列の隊士たちが、特殊な素材で作らせた軽量の盾を構え、浪士たちの斬撃を受け止める。その隙に、第二分隊が、短い槍で浪士たちの体勢を崩す。


「捕縛!」


 俺の合図で、最後尾に控えていた隊士たちが、一斉に飛び出し、体勢を崩した浪士たちを捕縛用の縄で絡め取っていく。ものの数分で、あれだけ息巻いていた浪士たちは、誰一人として命を落とすことなく、無力化されていた。


 これが、俺の目指す「帝都の守護者」としての新選組の姿だ。圧倒的な力で、無用な血を流さずに京の治安を守る。それは、俺が未来から来た人間だからこそ、強く意識していることだった。


 屯所に戻り、後処理を済ませると、俺は監察方の山崎烝を自室に呼び出した。


「ご苦労さまでした、永倉さん」

「山崎こそ。例の件、どうなっている?」


 俺が尋ねたのは、もちろん亀山社中と陸援隊の動向だ。山崎は、俺が最も信頼する監察であり、俺の秘密の活動を知る、数少ない協力者の一人だった。


「はい。亀山社中は、先日、グラバー商会との間で、薩摩藩名義での蒸気船の購入契約を締結。近く、五島列島沖で、初の交易を行う予定とのことです」

「そうか。順調だな。陸援隊の方は?」

「こちらも。永倉さんから提供されたミニエー銃の扱いに、当初は戸惑っていたようですが、中岡慎太郎の指導の下、習熟度は飛躍的に向上している模様です。先日、愛宕山で行われた射撃訓練では、驚くべき命中率を記録したとか」


 山崎の報告に、俺は満足げに頷いた。俺が蒔いた種は、着実に芽吹き、育ち始めている。


 だが、問題は、これらの情報を、どうやって土方さんたちに伝えるかだ。下手に隠せば、俺への疑念を深めるだけだろう。かといって、正直に全てを話すわけにもいかない。


「山崎。亀山社中については、『薩摩が、幕府に対抗しうる海軍力を手に入れようとしている』という形で、少し大袈裟に報告してくれ。坂本龍馬の名は出すな。あくまで、薩摩の動きとして、だ」

「承知いたしました。陸援隊については?」

「『各地の脱藩浪士が、中岡慎太郎という男の下に集結し、不穏な動きを見せている』とだけ伝えろ。」

「よろしいのですか?それでは、永倉さんの手腕が疑われることにもなりかねませんが」


 山崎が、心配そうな顔で俺を見る。


「構わん。俺の評判よりも、今は彼らの活動を軌道に乗せることが最優先だ。新選組の目が、彼らの本質に向かないようにすることが、俺の役目だ」


 俺は、山崎にそう念を押した。これは、綱渡りのような情報操作だ。一つ間違えれば、俺だけでなく、坂本さんや中岡、そして彼らに関わる全ての人々を、危険に晒すことになる。


(だが、やるしかない)


 俺は、表向きは新選組の忠実な組長として、京の治安維持に全力を尽くす。尊攘派の過激な動きは、徹底的に抑え込む。それは、市民の安全を守るという、新選組本来の使命を果たすためであると同時に、陸援隊や亀山社中が、過激なテロ組織と同一視されるのを防ぐための、布石でもあった。


 彼らの目的は、破壊ではない。創造だ。新しい日本を創るための、産みの苦しみ。それを、ただの騒乱として終わらせてはならない。


 そんな俺の二重生活を、静かに見つめる目が一つあった。


 ある夜、巡察を終えて屯所に戻ると、一人の男が、俺の部屋の前で待っていた。


「斎藤……」


 新選組最強の剣士と謳われる、無口な男。斎藤一だった。


「……少し、いいかい」


 斎藤さんは、珍しく、彼の方から口を開いた。部屋に入ると、彼は俺の向かいに座り、じっと俺の目を見つめてきた。その、全てを見透かすような瞳に、俺は少しだけ、身構えた。


「最近の永倉さんは、少し、変わった」

「……そう見えるか?」

「ああ。以前のあんたは、もっと猪突猛進だった。だが、今は、まるで、二手三手先を読んでいるかのような動きをする」


 斎藤さんの言葉に、俺は心臓が跳ねるのを感じた。


「……考えすぎだ。俺は、俺のやるべきことをやっているだけだ」

「そうか。……先日の、先斗町での一件。見事な手際だった。だが、あれは、以前のあんたの戦い方じゃない」


 斎藤さんは、言葉を続ける。


「あんたは、隊士たちに、極力、人を殺させないようにしている。まるで、未来を知っているかのように、無駄な血が流れるのを、恐れているようだ」


 その言葉は、俺の心の最も深い部分を、鋭く抉った。


(この男には、敵わないな……)


 斎藤一。史実では、新選組の中でも特に謎の多い人物だ。彼の出自や、その後の足取りには、諸説ある。だが、一つだけ確かなことがある。彼は、誰よりも深く、物事の本質を見抜く目を持っていた。


「……斎藤。あんたは、この先、新選組がどうなると思う?」


 俺は、問い返すことで、彼の真意を探ろうとした。


「……さあな。だが、このままでは、長くは続かないだろう。時代の大きな流れには、逆らえん」

「もし、その流れを、俺たちが作れるとしたら?」


 俺の言葉に、斎藤さんの目が、わずかに見開かれた。


「……どういう意味だ?」

「幕府でもなく、薩長でもない。俺たちが、この国の新しい道を示すんだ。俺は、そのために動いている」


 俺は、覚悟を決めて、斎藤さんに告げた。全てを話すことはできない。だが、俺の覚悟だけは、伝えておきたかった。


 斎藤さんは、しばらくの間、黙って俺の顔を見つめていた。そして、やがて、ふっと、かすかに口元を緩めた。


「……面白い。あんたが、そこまで言うのなら、俺は、あんたを信じよう」

「斎藤……」

「だが、忘れるな。俺は、新選組の斎藤一だ。あんたが、もし新選組を裏切るようなことがあれば、その時は、俺があんたを斬る」


 その言葉は、彼の揺るぎない信念の表れだった。だが、俺には、それが、彼なりの信頼の証のように感じられた。


「ああ。分かっている。その時は、甘んじて、あんたの刃を受けよう」


 俺は、まっすぐに斎藤さんの目を見つめ返した。


 その夜、俺と斎藤さんの間に、言葉にはできない、確かな絆が生まれた。


 表の顔と裏の顔。帝都の守護者としての顔と、未来を創る革命家としての顔。その二つの顔を持つ俺の、唯一の理解者。


 斎藤一という存在は、俺にとって、これから先の戦いを乗り越えていく上で、何よりも心強い支えとなるだろう。


 俺は、窓の外に広がる京の夜景を見つめながら、決意を新たにした。


(俺の戦いは、まだ始まったばかりだ)


 帝都の守護者として、京の平和を守り抜く。そして、その水面下で、新しい時代の礎を築く。


 それは、誰にも理解されない、孤独な戦いかもしれない。だが、俺には、信じてくれる仲間がいる。遠い長崎で、京の郊外で、そして、すぐ隣で。


 俺は、もう一人ではなかった。


「時代の流れを、俺たちが作る」

新八の言葉に、斎藤一は何を感じ取ったのか。

新選組最強の剣士であり、諜報のプロでもある彼に見抜かれた新八の変化。

しかし、それは敵対ではなく、新たな共鳴を生む予兆かもしれません。

山崎烝を通じた情報操作、そして斎藤との対話。

新八の孤独な戦いに、微かな光が差し込み始めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
唐突な「俺たた」台詞に、連載終了かと身構えましたが まだ続くのですよね? 文書はしっかりているのにパラグラフ間の繋がりや整合性がちぐはぐで読み辛いのですが、 プロットは面白いので続きを楽しみにしてい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ