表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/141

第125話:戦うヒロインの覚醒

道場を後にした新八と佐那。

守られるだけの存在から、共に歩む同志へ。

夕暮れの神田川沿いを歩く二人の間に、新たな空気が流れます。

 玄武館の門を出て、俺たちは神田川沿いの土手を歩いていた。

 夕日が川面を黄金色に染め、川面を渡る風が心地よく頬を撫でる。

 隣を歩く佐那の足取りは軽く、袴の裾がリズミカルに揺れている。だが、その横顔には、先ほどの涙の跡はなく、代わりに凛とした決意の色が浮かんでいた。


「……新八さん」

 佐那が静かに口を開いた。

「先ほど、泥を被ると仰いましたね。具体的には、何をなさるおつもりなのですか?」

 その問いかけに、俺は足を止めた。

 彼女はもう、ただ守られるだけの存在ではない。共に戦うと誓った同志だ。ならば、隠し立てをする必要はない。


「俺がやろうとしているのは、この国の『形』を変えることだ」

 俺は川面を見つめながら言った。

「今の幕府は、将軍を頂点とした武士の組織だ。だが、これからは違う。身分に関係なく、能力のある者が国を動かす仕組みを作る。将軍でさえも、その仕組みの中の一つの『役職』になる」

「……将軍様が、役職に?」

「ああ。徳川家茂という個人が、その才覚によって国の指導者に選ばれる。そういう時代を作るんだ」


 佐那は少し考え込むように眉を寄せたが、すぐに納得したように頷いた。

「それは……険しい道ですね。古くからの特権にしがみつく武士たちが、黙ってはいないでしょう」

「その通りだ。だからこそ、敵が多い。薩長のような外敵だけでなく、幕府内部にも敵を作るかもしれない」


 俺は佐那に向き直った。

「それでも、やるしかないんだ。そうしなければ、この国は異国に食い荒らされ、内戦で血の海になる。……俺は、そんな未来を見たくない」

 俺の脳裏には、史実の戊辰戦争、そしてその後の混乱が焼き付いている。

 会津の悲劇、函館の戦い、そして多くの仲間たちの死。

 それを回避するためなら、俺はどんな汚名でも被る覚悟だ。


「……孤独ですね」

 佐那がポツリと言った。

「え?」

「あなたは、誰にも理解されない未来さきを見て、一人で戦おうとしている。周りには仲間がいるようで、本当の意味であなたの見ている景色を共有できる人はいない……そうではありませんか?」


 ドキリとした。

 彼女の言う通りだ。

 近藤さんも土方さんも、俺の言葉を信じてはくれるが、俺が「未来から来た」という真実までは知らない。家茂や勝海舟も、俺の知識には驚嘆するが、その根源にある孤独までは理解できないだろう。

 俺は、常に「異邦人」なのだ。


 だが、佐那は違った。

 彼女は、俺の言葉の奥にある「孤独」を見抜いていた。

「私にできることはありますか?」

 佐那が、真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。

「剣の腕なら、少しは自信があります。あなたの背中を守ることくらいなら、できるはずです」

「佐那さん……」

「それに、私は女です。男の人たちが気づかないような、細やかな変化や、人の心の機微にも敏感です。……あなたの『目』になれるかもしれません」


 その言葉に、俺はハッとした。

 そうだ。俺に足りないもの。それは、政治や軍事といった「大きな視点」ではなく、もっと身近な、人々の感情や生活といった「小さな視点」かもしれない。

 そして何より、俺自身が人間として壊れてしまわないための「支え」が必要なのだ。


「……君は、強いな」

 俺は思わず微笑んだ。

「いいえ、弱いです。あなたがいないと、泣いてしまうくらいに」

 佐那は少し顔を赤らめたが、すぐに真剣な表情に戻った。

「でも、あなたのためなら、強くなれます。……鬼にでも、修羅にでもなります」


 その瞬間、俺の中で彼女の像が完全に書き換わった。

 可憐な道場の娘ではない。

 歴史の荒波に立ち向かう、一人の戦士。

 そして、俺の魂の半身。


「ありがとう、佐那さん」

 俺は彼女の手を取り、強く握りしめた。

「君がいてくれるなら、俺はどんな敵とも戦える。……君は、俺の『心の剣』だ」

「心の、剣……」

 佐那はその言葉を噛み締めるように繰り返した。

 そして、パッと花が咲くような笑顔を見せた。

「はい! お任せください。錆びつかぬよう、毎日磨いておきますから!」


 その笑顔に、俺は救われた気がした。

 重圧で押しつぶされそうだった心が、ふっと軽くなる。

 俺は、彼女の手を引いて歩き出した。

「行こう。まずは、江戸の情報を集めたい。君の顔の広さを貸してほしいんだ」

「はい、喜んで。……どこへ参りましょうか?」

「そうだな……まずは、勝先生のところへ。あそこには、面白い連中が集まっているからな」


 俺たちは、夕暮れの神田川沿いを並んで歩いた。

 二人の影が、長く伸びて重なり合う。

 それはまるで、これから訪れる激動の時代を、二人三脚で歩んでいく未来を暗示しているかのようだった。


 数日後。

 俺は再び、江戸城の奥御殿にいた。

 目の前には、将軍・徳川家茂。

 そして、その傍らには和宮。

 だが、今日の俺は一人ではない。心の中に、佐那という確かな支えがある。


「……永倉。今日は顔色がよいな」

 家茂が不思議そうに言った。

「何か、良いことでもあったか?」

「はっ。……強力な援軍を得まして」

「援軍? 薩摩か? それともフランスか?」

 家茂が身を乗り出す。

 俺はニヤリと笑った。

「いえ。もっと頼りになる、一人の女性です」


 家茂はきょとんとしたが、和宮が扇子の陰でクスクスと笑った。

「まあ、上様。野暮なことを聞いてはいけませんよ。……永倉、そのかたを大切になさい」

「はい、肝に銘じます」


 俺は居住まいを正し、手元の資料を広げた。

「さて、本日は『国家魔改造計画』の核心部分……財政と経済についてお話しいたします」

「うむ。聞かせてもらおう」

 家茂の表情が引き締まる。


 俺は深呼吸をした。

 ここからが本番だ。

 佐那との約束を守るためにも、そしてこの国の未来のためにも、俺は持てる知識の全てをこの若き将軍に叩き込む。

 偽りの夜明けを、本物の夜明けに変えるために。


 俺の声が、奥御殿に朗々と響き渡った。


佐那の覚悟を受け止め、新八は孤独な戦いから解放されました。

心強いパートナーを得て、再び江戸城へ。

家茂への「国家魔改造計画」講義にも一層熱が入ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ