存在しない父
本当に更新遅れました。三日坊主ってやつです。怒ってあげてください。
本部に行く途中、流石にシグレも情報漏洩を防ぐために俺に目隠しをしてきた。俺はシグレの背中にピタリとくっついて、ペンギンのようにペタペタ歩いていた。それで公共交通機関を使用するのだから、周りの目が見なくとも苦しいほどに分かった。そんな恥ずかしく、やりきれない気持ちを抱きながら歩いていた。すると、シグレが歩みをやめた。着いたのかと思い、耳を澄ませるとビルのオフィスのように人の話し声が交錯している。
「アキヅキ株式会社の者です。地下倉庫にお荷物を運びに来ました」
シグレの声だった。何か受付のような人と話しているらしい。本部の場所は機密事項だから、目隠しをしている人間が人目につきそうなところにいるのはどうなのかと心配が募ってきた。しかし、そんな俺の不安を横にシグレは受付の人と話している。
「中身はドライアイスです」
何やらわけの分からない隠語で話すので暇になってしまった。推理好きの人ならこの隠語は何を意味するのか、なんかを考えると思うが俺は面倒くさく、暇になってしまった。耳をオフィスがあるだろう方向に傾けた。
「今日の取引は…」
「分かった。旅行は来月にしようか…」
「なんでだよ!こっちの生活も考えてくれよ!…」
色々、まさに十人十色という言葉が似合うくらい多色の会話が飛び交っている。
「この写真とあいつ…似てるなぁ」
「まさかぁ。こんなとこにいるわけないですよw」
二十代くらいの二人の若い男らしき人の会話が聞こえてきた。目隠しをしていて誰のことを指して話しているのかは分からないが、なんだか自分たちの事を喋っているのではないかと不安になった。やはり、人というのは五感の中でも大部分を務める視覚が失われるとこれ程までに、不安を感じるものなのだと分かった。
「よし!行くか!」
シグレが肩を叩いてきた。地味に痛いのでいつもなら腹が立つが、不安に襲われている中に友人の温かい手を感じると嬉しくなった。その後、俺はエレベーターらしきもので地下倉庫という名の、「秘密探偵本部」に着いた。
「目隠し、外していいぞ」
そう言われ、目隠しを外すと前には視界を埋め尽くすほど機械が置かれていた。その中でも一際、奥の方に目立ったものがあった。俺がその機械に見惚れていると、
「どうだ。すごいだろ」
シグレが最新の玩具を自慢する子供のように話しかけてきた。
「これが、データバンク?」
俺は幼気に聞いた。
「その通り!我ら秘密探偵が誇る、何でも知ることのできるデータバンクだ!」
シグレは自慢げに言った。
「速く調べよう!どうやって使うんだ?」
俺がデータバンクへと近づこうとすると、
「何をしてるんですか。勝手に触ってはいけませんよ」
後ろの方から上品な言葉遣いの男の声が聞こえた。振り向くと身長はかなり高く、軽く190は超えてそうな眼鏡をかけた男が立っていた。
「ん!ユキカゼじゃ〜ん。久しぶりー。元気してたー?」
シグレがそのユキカゼと思われる男に話しかけた。
「貴方、データバンクを使用するには事前に許可が必要なのを忘れたんですか?それに、そちらの方にも多く機密事項を話していると見れますがどうですか?」
真剣な眼差しがこちらに向いてきてドキッとした。かなり洞察力が高いらしく、隣にいるシグレも少し動揺している様子であった。
「ま、まぁね?うん。どうせ、ね?忘れるでしょ?ね?ね?だから大丈夫!取り敢えずデータバンク使わせて!」
秘密探偵を名乗る者だから決して動揺することはないだろうと期待していたが、素人の俺が横目で見ていても分かるくらい冷や汗をかいていた。これではデータバンクを使用するのは絶望的かと思われた。
「そうですか。ならいいんです。私の勘違いなら」
「うん?」
思わず声が漏れてしまった。あまりにも分かりやすい動揺に騙されるような人では無さそうなので、何か鎌をかけられてるのではと思った。しかし、そんな自分の警戒心とは対照的にすんなりと使用許可が降りたらしい。
「あいつ、昔からあんな感じでチョロいんだよ」
「シグレといい、あの人といい、本当に秘密探偵って信用していいのか?」
俺は思わず疑心を抱いてしまった。
「まぁまぁ。このデータバンクの情報量を見ればそんな疑いも綺麗さっぱり無くなるぜ」
そう言ってシグレはキーボードをカチャカチャと音を立てながら検索していった。しばらくすると、シグレが声を上げた。
「んーおかしい。何も出てこない。この写真、本当に撮られたものか?造ったとかじゃないよな?」
シグレは真面目な口調で聞いてきた。
「あぁ。確かそれは俺が今の親に拾われた時に一緒に置かれてたものだったらしいから本当に撮られたものだと思う。」
「確かに、わざわざ偽造した写真を置く必要なんかないもんな」
シグレは首をかしげている。
「なーにしてんのー?」
そこに突然、高らかな男の声と共に肩を叩かれた。振り向くと、白髪の目の細い男が俺に顔を近づけていた。その細い目は、何か俺の心の奥底を覗き込むような感じでなんだか気持ち悪かった。
「なんだ。キサラギか。お前、毎回足音無しに近づいてくんなよ。驚くだろ」
「ハハ、ごめんごめん。何を調べてるのか気になってさ」
そう言うと俺を見つめて、
「君!いい瞳をしているね!なんだか既視感があるよ!昔、この組織にもそんな人がいたなぁ。今は何をしてるのかさえ分からないけれど」
戸惑っている俺に構わず話を続ける素振りを見てかなりのマイペースな人だと分かった。
「それより見てくれ。この写真、検索しても引っかからないんだ。おかしくないか?」
そう言ってシグレはキサラギに写真を渡した。キサラギは真剣な眼差しで見つめている。
「この人は誰?」
キサラギは写真の中の父を指さした。
「俺の父です。今、消息を絶っていて…」
そう言いかけたところでキサラギが口を開いた。
「なるほど。何かの事件に巻き込まれた可能性が高いね。それも、かなり大きな組織がその事件を隠蔽しようとしている可能性がある」
「「何かの事件??」」
俺とシグレは揃えて首を傾げた。
「あぁ、僕の目で見て偽物じゃないということは分かっているしこのデータバンクで引っかからないということは、そっちの方向だろう」
なんだか得体の知れない不安に襲われた。まさか、俺の父親が何かの事件に巻き込まれていて何者かがそれらを隠蔽しようとしている、と。
「確かに、キサラギの目で見て本物って言うなら間違いなさそうだな。その線で調べていくのはアリだな」
どうやらシグレは乗り気のようで瞳が輝いていた。
「じゃあ早速、ここらじゃ有名な情報屋を知っているから尋ねてみるか!」
そう言ってキサラギは俺たち二人の腕を引っ張って外へと向かった。いつの間にか調査の主導権がキサラギに渡っているようで驚いたのと同時に、俺の心の中では何か薄黒いものが渦巻いていた。