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探偵シグレ

朝起きると朝日が家々の間から真っ直ぐ差し込んでいた。1階に降りると母が朝食の準備をしてくれてた。

「あんた、今日はしっかり食べておきなさい!実家の味を噛みしめるのよ!」

母は少し寂しそうだった。父が居ないのに疑問を抱き、母に聞いてみた。

「あれ?父さんは?」

母は少し笑って、

「あの人はあんたが出ていくのを見ると泣いちゃうのよ。前もあんたが地元を離れて働くっていう時も見送りに来なかったでしょ。あの人、強がってるけど涙腺脆いのよ。」

まさかあのTHE漢のような父がそんなに涙脆かったとは…と衝撃を受けながらも朝食を食べ終わり、支度をした。

「それじゃあ、行ってくる」

母はいってらっしゃいと返してきた。案外泣かずに別れられるものだなと思いながらも例の探偵事務所を目指した。行くまでに繁華街の狭い路地を多く通る必要があり、かなり入り組んでいて複雑だった。路地を抜け、少し開けた通りに出たと思うと、前方の左側にポツンと置かれた年季の入った看板にシグレ探偵事務所と書いてあった。かなりの腕前の探偵とは聞いていたものの、こう見てみると不安になってきた。勇気を出して恐る恐るキィキィと音を奏でるドアを開けると、中に人が一人座っていた。座っていると言っても、回転式のイスに座ったまま寝ているようであった。

「すいませーん」

勇気を出して声をかけてみた。部屋は沈黙を貫いている。返事がない。まさかと思い、揺さぶってみると…

「うるせぇーー!!」

部屋に怒号が鳴り響いた。

「人の快眠を邪魔すんな!」

そう言って殴りかかってきた。俺は咄嗟の判断でそれを避けると、殴りかかってきた人物はその勢いで奥の書類などが積み重なった山に突っ込んでしまった。

「あの、大丈夫ですか?」

そう尋ねるとグスグスとすすり泣くような声が聞こえてきた。

「5日間寝ずに浮気の証拠を調査したら、依頼者からは報酬は全く支払われず逃げられ、まとめた書類の山も倒してしまった。なんてふうんなんだ…ヒック…」

(これは酔ってるな…)

そう思いながらも慰めの言葉をかけた。

「それは大変でしたね!ここらへんでは有名な探偵ですから、依頼者が後を絶たなくて大変なんですよね!」

「依頼者減ってるんだよ…」

これはしくじったと思った。どう声を掛けるか、と迷っていた時…

「何か用?依頼なら面白そうなら聞くよ」

面白そうな依頼とは何かと思ったがとりあえず話してみることにした。

「僕の父を探してください!僕が小さいころに行方不明になっていて、もしかすると生きてるかもしれないんです!」

「ほう…それは面白そうだな…」

依頼を聞いてもらえそうなことに少し口角が上がってしまった。そして俺は俺の生い立ち、母と父の関係などを事細かく説明した。

「なるほど、なるほど。つまり君の父を見つければいいということか…」

少し間が空いた。

「良いだろう。引き受けよう」

「本当ですか!?ありがとうございま…」

僕の言葉を遮るように探偵は言った。

「ただし!条件がある!」

「なんですか?」

僕はよっぽどの事じゃない限り断るつもりは無かった。

「これから俺の奴隷として働け」

これはよっぽどのことだ!そう思った。

「失礼しました〜」

帰ろうとするとグイッと引っ張られた。振り返ると探偵が鬼のような形相で、

「お前に拒否権なんかないんだよ?ここで死ぬか、奴隷として働くか選べ」

これはとんでもないものを頼ってしまったと思ったが、背に腹は代えられないということで承諾してしまった。

「よーし!今日からよろしくな!」

探偵はさっきの鬼の形相とは対照的な天使のような笑みを浮かべていた。こいつ、悪魔だと内心思いながらも気になることを聞いてみた。

「探偵さん、とは呼びづらいので名前教えてください!」

「本名ではないけどな。教えてやるよ。本名だといざという時困るからな。聞く準備はいいか!」

いちいち前置きを入れてくる探偵に腹を立てながらも、内心ドキドキしていた。

「俺の名はシグレ!シグレだ!よろしく!」

かなりの厨二病のようなネーミングセンスに吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。

「それはそうと、お前の名前も教えろ。こっちだけ教えたら不公平だろ!」

シグレは少し恥ずかしかったのか、拗ねているような感じであった。

「僕の名前は!なんと!なんと!」

僕はシグレを真似て、ためてみた。

「あっ、そういうのいいから、うん」

他人事になると冷めるシグレに殺意が湧きながらも続けた。

「カズキ!数学の数に希望の希でカズキ!よろしくぅ!」

「ふーん。良い名前だね。あと、うるさいから騒ぐのやめてね?」

僕は心に決めた。この男をいつか必ず殺ると。

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