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008 俺の今の状況って、割とヤバいんだよ。

★視点-主人公

 筋肉ダルマの脳天を斧でかち割った俺は、そういえば襲われてる馬車があったな、と思い出してさっきの場所に戻ってきた。

 こんな森ばっかな場所だってのに、方向を見失うことはなかった。

 俺を殺し、俺に殺された二人。ダブラとメギ、そのどちらも方向感覚的なスキルを持っていた。

 元々森地形を好んで狩場とする盗賊団だったからな。

 その構成員が森の中で迷うようではお話にならん。

 だから俺は簡単にさっきの空地に戻って来れた。

 戻って来れたが……

 これはどういう状況だ?

 現状の俺よりも遥かに格上な気配を漂わせている三人が、一斉に奇妙な表情でこちらをポカーンと見ているではないか。

 さっき対峙していた三人だな。

 なんか微妙なバランスを保って睨み合ってたから無視してそのまま存在を忘れたけど……

 その対峙の態勢もいつの間にか解かれ、三人ともこっちをガン見してやがる。

 まぁ、こりゃあれだな。

 対峙している三人のうちの一人には見覚えがある。

 ガフェルだ。

 狼の髭盗賊団の団長。

 Bランクの頂点にして伝説の盗賊。

 元傭兵で、たった一人で狼の髭盗賊団をゼロから築き上げ、ついに連邦の方の盗賊業界では知らぬものがいないほどの伝説にまで仕立て上げた、悪い意味での傑物。

 拷問で殺した女の死に顔しか覚えていないダブラの記憶でも、わからせたメスガキのアヘ顔しか覚えていないメギの記憶でも、ガフェルは異様な存在感を放ち、最も印象深い人間の座に鎮座していた。

 絶対的な恐怖による、絶対的な権威として。

 最も「やべぇ」やつとして。


 となるとガフェルと対峙しているこの二人は……考えるまでもなく、襲われている馬車の護衛的存在であることがわかるわけだ。

 

 うん? 待てよ?

 こっちの二人……赤髪の男とロン毛のメイド……

 よく見たらこの二人もBランクではないか!

 一人一人の気配はガフェルより少しは弱いが、現状の俺よりは遥かに強い。

 こりゃ……やっぱり俺自身の能力のようだな……

 見ただけで相手の力量がわかる。俺より格上の相手でも大体どれくらいかは察せる。

 しかもある程度距離が離れていてもわかる。

 ダブラでもメギでもこんな芸当はできない。

 出来るはずがない。

 こんなことができたらどこでも索敵役として重宝されるはずだ。冒険者として大成できたなら盗賊になんぞなっていない。

 つまりこれは俺自身の能力、転生特典の一つと考えるべきか……

 それにしてもすげぇ。

 Bランクを二人抱えてるとは、この襲われている馬車の連中、ただの商人とかではないな……

 そもそもBランクって、この世界ではかなりすげぇんだよ。

 異世界系のラノベ主人公が無双しながら簡単にSランクにまで成り上がるのをよく見ていると、ついBランクなんて大したことないと思ってしまうかもしれないが……

 この世界におけるBランクは、一つの「最強」だ。

「一般人の常識の範囲内での最強」。

 Bランクを超える、それはつまり、人間の常識の限界を超える、ということだ。

 AランクとSランク、それは一般的な常識を持つ「常人」から「化け物呼ばわり」される対象だ。

 俺も化け物呼ばわりされたけど、それは俺が化け物みたいに強かったからではなく、死んだのに生き返ったからだ。

 純粋の実力という意味では、俺はまだ「化け物」には程遠い。

 だから、普通の人間が「正しい常識」で測って辛うじて理解できるという意味では、Bランクが一つの「最強」である。

 商人の間でも貴族の間でも、Bランクの実力者を抱えることが一種のステータスになっている。

 まぁ、Aランクは国にすら縛られず、自分の意思でしか行動しない自由すぎる連中だからな……

 一商家や貴族家ごときが普通に動かせる存在ではないのだ。

 

「例外」もあるが。

 ダブラもメギも知っている。

 帝国の地下世界(アウトロー業界)では、金次第でどんな依頼も受けてくれるAランクが存在していることを。

 噂程度だが、暗殺者ギルドを通して依頼を受け、とある貴族の道楽のために女を攫ったそうだ。

 女を助けようと行動する家族まで、皆殺しにしたというではないか。

 ひでぇ話だ。

 そういうクソ野郎は、どの世界にもいるんだよな……

 もし将来あったら殺そう。

 うんまぁそれはいいとして……

 えっと……なんの話だっけ?

 あぁ、Bランクはすごいって話だったな。

 そんなすごいBランクを二人も護衛として抱えてるなんて……この襲われてる馬車の連中、そこそこ力のある貴族か、かなりの大店(おおだな)ということになる。

 というかそんなBランク二人をたった一人で凌ぐガフェルがすげぇ……

 殺されたらかなり強くなるだろうね……

 元々もう少しAになれそうだったから、そこに俺のCランク二人分を加算すると、ワンチャン壁を突破してAランクになれたりしない?

 しないかな?


 …………

 沈黙である。

 クッソ気まずい沈黙である。

 この凍てつく空気の中で、誰も最初に喋ろうとはしなかった。

 もしかしてみんな「誰かが最初に喋るだろ」とか思ってる?

 よくないなぁそういうの……

 まぁ俺もだけど……

 

 まぁいいや。

 誰かがこの沈黙の空気を壊さないといけないのなら、俺がやろう。

 減るもんでもないしな。

 前世の俺なら絶対にできなかったことだろ。

 やっぱ力があると、違うな。

 自信と余裕が持てる。

 だからこんなこともできるようになった……


「……こんにちは?」

 ってへたくそ!!!

 なんだよこんにちはって……

 もう少しマシな切り出しあったろ!

 マシなのってなんだ?

 いい天気ですねとか?

 アホか!

 でもまぁ……

 こんなもんだよな……

 いくら自信と余裕があったからって、ろくに人と関わって来なかった社交弱者が、いきなり社交なんてできるようになるわけがない。

 順当ではある。

 

「……どうも?」

 俺の「挨拶?」に最初に反応を示したのは赤髪の男だった。

 ほら引いてるし!

 引かれた!

 顔は笑ってるがこの笑顔は間違いなく気まずい時のやつだ!

 見てればわかるもん!

「俺たちは、その……助かった……でいいのかな?」

 赤髪の男はいまいち状況が掴めない表情のまま頭を掻いている。

 でもすぐに何かを吹っ切れたようで、顔に浮かぶ笑顔が眩しいくらいに明るいものになっていく。

「俺はボルフだ。助けてくれてありがとうな。」


「カレンです。奥様とお嬢様の命をお救いいただき、ありがとうございます。」

 隣の綺麗なロンゲメイドも、俺に一礼し、感謝の言葉を述べた。

 おおぉ……これがカーテシーというやつか……

 初めて生で見たな……

 (くち)でスカートを(くわ)えるエッチなカーテシーはそういう漫画でたくさん見たが。

 このクルビューティーって感じの美女メイドにやらせたらきっと様になるだろうな……


 奥様とお嬢様は……馬車の隣に立ってるあの二人か……

 一応ドレスと言えるけど、どちらかというと質素な格好をしている。

 娘の方は……小さいな……

 母の後ろに隠れている。

 十五? いや、もう少し下か……?


「おい、一応俺もまだいるんだがな……」

 ガフェルが「カチャン」と二本のサーベルをぶつけて大きな音を鳴らした。


「ああぁ、忘れてないよ……ガフェル。」

 ガフェルに向き直る。

 よく見るとガフェルのはそんなにガタイがいい方ではない。

 むしろ細く見える。

 でもこの世界の力とは筋肉だけがモノを言うわけではない。

 魔力もだ。

 十分な魔力があれば前世の俺みたいなヒョロガリでも拳で石を割るくらいはできる、そんな世の中だ。

 むしろ魔力がないといくら肉体を鍛えても限界がある。

 まぁ、魔力があるからってそれに胡座をかいて肉体の鍛錬を疎かにしてたら余計弱くなるけどな。

 ダブラとメギのように。

 あの二人Cランクになってから全然進んでないのよ……

「それで? どうするんだ? 俺としてはそのサーベルでもう一回殺してくれても全然いいというか、むしろ大歓迎なんだが……」

 ガフェルに向かって両手を広げる。

「嫌そうだな?」


「まぁ、先にあんなもんを見せられるとな……」

 ガフェルは片方のサーベルを軽く持ち上げて自分の肩に乗せる。

「お前まじでなんなんだ? 殺しても死なないどころか、殺す度に強くなってるじゃねぇか……その力、ダブラとメギのものだな……さっき使ってるところずっと見てたぞ……」

「訳のわからん力だ……御伽話でもこんなの聞いたことないぜ……」

 

「まぁそうだろうな……」

 何せ俺がゼロから設定を考えたからな……

「俺も頭のおかしい力だと思う。」

 思わず苦笑いしてしまう。

「こんなの押し付けられて喜ぶ奴なんてほんっとう俺くらいなもんだよ! 普通の高校生陽キャとかにあげてみろ! 一日で潰れるぞ! こんなトラウマもんを何度も何度も!」

 クスッと笑う女の声は聞こえた気がする。

 綺麗なイケボ……さっきの女神様か……

 よくもやってくれやがったな……

 刃物で殺されるのめっちゃ痛かったんだぞ……

 まぁ力は手に入ったからいいけど……

 

「何訳のわからんこと言ってんだ……」

 俺が少しぼーっとしている間にガフェルは一歩下がって、いつでも逃げられるように魔力を練り上げているようだ。

「お前さんは一体何をやったら死ぬんだ? 下手に殺したらまた強くなって襲ってくるだろうし……いや、そもそも下手に殺そうとせずに、生きたまま動けなくして、自殺ができないように監禁する方がいいよな……今勝てるうちに……」

 あぁもうぉ……そこに気づいちゃうの……?

 逃げようと魔力を足にこめ続けていたガフェルが急に強気な表情になった。

 俺の弱点を見つけたとでも思ってるんだろ……

 ガフェルがニヤニヤしながら俺に近づき、指で俺の顎を持ち上げる。

「いや、封印するのもありか? 前にどっかの貴族の馬車から魔道具を手に入れたんだよ……人間の体を部分的に石化できるやつ……アレ、頭が石化されても意識はハッキリと保たれるらしいぞ……しかも何百年経とうと発狂すらできないって代物だ……」

 

 うっわ……

 キッモ……まじでこう言うのやめてほしいんだけど……

 てか何そのニッチなエロゲに出てきそうな魔道具……普通に羨ましいなおい……

 いや石化性癖は割と普遍だからニッチではないのか……

 あああ違う今この状況でそれはどうでもいいの!

「おや怖い怖い……」

 一応降参するように両手を上げ、意味深げな笑顔を顔に浮かべて余裕ぶってみる。

「一応言っどくと、それは悪手だよ。」

 まぁ……このチートスキル考えだのは俺だからな……

 もちろん生きたまま行動不能、封印、状態変化……みたいな罠に落ちいる可能性も考えたよ?

 いわゆるエロトラップが実は最もエグいし酷いからな……

 そのためにかけていた保険機能が、「行動不能、封印、状態変化などの異常状態に落ちいて二十四時間経つと自動的に死亡し、復活時にその耐性を獲得する」というものだったが……

 問題はその機能が生きてるかどうかだ。

 チートスキルの設定を考えたのは俺だが、そのチートスキルを本物にして、俺にインストールしたのは神様だからな。

 つまり神様が俺のチートスキルの実際の制作者……

 俺の設定のどれを反映して、どれを反映しないか、はたまた新しい俺にも知らない設定を追加するか……全部が神様の自由だ。

 俺はただの神様のおもちゃ、操られ人形、エロゲのヒロイン……

 まぁ体が女にされてる時点でその辺りは大体察しがついたが……

 つまり何が言いたいかってっと……

 (プレイヤー)様が俺の「バッドエンド」を回収するために、俺のチートスキルから保険機能を外してある可能性も全然ある、ってことだ。

 俺の今の状況って、割とヤバいんだよ。

 

 まぁたとえ保険機能が本当に外されてるとしても、俺にできることはある。

 相手は俺よりはるかに強い相手だ。普通のCランクが二人束になっても敵わないのがBランク、そしてガフェルはその中でも最もAに近いトップクラス。

 現状の力をうまく使って、俺がわざと相手の刃先に自らぶつけるような立ち回りをすれば、殺されるくらいのことは出来るはずだ。

 要は相手に手加減のチャンスを与えなければいい。

 勝つことができなくとも、これくらいできなくてどうする。

 でも、リスクある状況は回避するに越したことはない。

 保険が存在するかも分からないこの状況では、「存在する」に賭けるわけにはいかない。

 下手すりゃ上半分くらいが石の男性用健康器具にされてしまうかもしれないってのに、賭けに出れるほどのギャンブラーじゃない。

 「保険」が実在しないつもりで対処するしかない。

 となるとどうするか……

 

「確かに石化封印は手だが……本当にいいのか?」

 まぁ、下手に策を凝らすより、こういう時は勘に従うのがベストだ。

 ニヤリと口元を歪ませた俺は乱暴にガフェルの手をはたき落とし、逆にぐいっと一歩前に出て胸ぐらを掴んでやる。

「俺を物にして、手元に置いて、そんなことして夜ぐっすり眠れるとでも思ってるんじゃねぇだろうな……」

「俺は何をされても死なない、それがどういうことか、ちゃんとわかってる?」

「俺に時間もチャンスもいくらでもあるってことだ。」

 まぁ、俺の精神が堕ちてなければの話だが……

「俺はずっとお前の隙を窺ってる……ここから先何十年もの間、お前か、それとも他の誰かが、一瞬でも俺の管理を怠ったら……その瞬間、お前の人生は終わりだ。」

「俺の牙がお前の喉に届く。地の果てまで追い詰めて、今までやられたこと全部やり返して、(むご)ったらしくぶっ殺してやる……」

 あぁぁぁ……またあの変なテンションが上がってきた……

 自分の目が血走ってるのがなんとなく勘でわかる。

 でもちょうどいい、今はただそれがありがたい……

 偉大なるアドレナリン様に思う存分あやかろうではないか……

「お前を指の先から少しずつ切り刻んで、肉を削ぎ落としてやる……」

「お前のハラワタを引き摺り出して、口から突っ込んで、ケツの穴から引っ張り出してやる……」

 

「俺がそれまでに味わった全ての地獄を、のしをつけて返してやる。」


 

 

 


 

 

 



 

主人公のステータス

★スキル

 -アイテムボックスプラス

 -ただ死ぬだけのチート

 -女神の加護?(趣味)

 -魔力による身体強化(二流)

 -剣の扱い(二流)

 -戦技(三流)

 -気配遮断(二流)

 -影移動(二流)

 -短剣の扱い(三流)


★殺されて手に入れた力

 -優秀な人間成人男性剣士*1

 -優秀な人間成人男性盗賊*1


★殺害以外の死で手に入れた力

 なし


★持ち物

 -普通の短剣

 -あまり中身がない財布

 -金メッキのペンダント

 -鈍器みたいなボロい両手斧---New!


★服装

 -なし


等級の目安

下等->普通->優秀->絶世->英雄->埒外

E D /C B /A S

新手/中坚/强者

三下->三流->二流->一流->超一流->マスター

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