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005  肉体の反射というのはままならないものだ。

★視点-主人公

 あっ……

 冷めた。

 なんか冷めたわ。

 さっきまで制御できずに湧き上がる、ヤバイ薬でもキメたみたいなテンションが嘘のように冷めていく。

 堪え(こらえ)られなかった笑いも止まった。

 特に何か前触れがあるわけでもなく、突然に。

 力に馴染めなかったが故に込み上がってくる万能感も、ダブラの記憶と経験を体が吸収したおかげで収まったし……

 むしろ代わりに喪失感を感じる……

 ため息が出そう……

 やべぇな。側から見れば明らかにヤベェ奴である。

 急にやってくるテンションは急にさっていく。

 通り雨みたいに。

 これが情緒不安定ってやつなのだろうか……

 まぁいいや。

 そんなの俺本人が気にしてどうすんだ。

 

「マジでなんなんだ……」

 俺を囲ってる連中のうち、一人の細い男が、二本のダガーを持って戦闘体制を取る。

 へぇ……そこそこ隙が少ない構えだ……本当にこの連中、野盗のくせに優秀だな……

 てかこいつの声……

 ああぁ、先ほどの、ダブラが俺を絞め殺すのを止めに入った、生きのいいメスガキをわからせるのが性癖な人だ……

「こいつ、ダブラに締め殺されたよな……てか死体がまだそこに転がってるよな……なのになんでこいつ、俺たちの前に立ってんだ?」


「さぁな、これがまともな人間にできる所業じゃないってことだけは確かだ。」

 もう一人、片手剣と盾……(たる)(ふた)みたいな小さいやつ、なんだっけ?バックラー? を持った男が一歩前に出て構える。

 これと言った特徴もなく、そこら辺にいそうなおっさんって感じのなりをしてやがるな……

「もしかしたら、人に化けた何かしらの魔物やもしれん……」


「おいおいご挨拶だな! 俺はちゃんと普通の人間のつもりだぜ!」


「ほざけ。普通の人間が生き返ってたまるか! 貴様はなんだ? マンイーターだとでも言うのか!」


「は? マンイー……は?」

 なんだそれ?

 マンイーター? 俺が?

 マンイーターって、確かサメのことじゃなかったか?


「はっ! マンイーターだろうがなんだろうが知ったことか! 要はもう一回叩き割っちまえばいいってだけの話だろ?」

 三人目の、ダブラと同格の強さを持つ、リーダー格であろう男が前に出た。

 いかにも盗賊って感じの筋肉ダルマ。

 でっかい斧を持っているな……

 バトルアックス? バルディッシュ?

「復活したからって、いい気になってんじゃぁないぜ……何度だってぶった斬ってミンチにしてやるよ化け物!」


 はは、完全に化け物扱いだ。

 どうやらこの世界で蘇生魔術といったものは普及していないようだ。

 

 筋肉ダルマが雄叫びを上げながら俺に向かって突進してくる。

「るぁぁぁ!」

 俺の脳天に、高く振りかぶられた斧の斬撃は降ってくる。

 はや……くもないけど遅くもないな。

 一応反応できるスピードだけど、油断すれば避けきれないくらいの速さはある。

 でも……まぁ流石の俺でもここで油断したりはしない。

 当然避ける。


 俺の目の前、もう少しで鼻が切られそうなところを斧が横切ったが、まぁ避けられた。

 斧が地面を勢いよく切り裂き、ものすごい轟音が響き渡る。

 んで石の破片があたりに飛び散る。

 あいたっ……

 いたたたたた……弾ける石の破片が太ももにあたっちゃった……

 肩にも……

 ああそういや俺今結構ヤバい状態なんだよな……

 手ぶらで武器を持ってないし、防具どころか裸で布一枚つけてないし……

 だからこんな小石のかけらでも痛いんだよ……

 防具は……まぁ流石にこの状況で服を着る余裕はないから一旦保留として……

 武器は欲しいな……

 俺の死体……とダブラの死体がある方に目をやる。

 やっぱりある。

 ダブラ腰に、剣が差してある。

 ひとまずそいつをもらおう。

 魔力を両足にこめ、力強く地面を蹴って剣のある方に飛びかかる。

 

「させるかよ!」

 隣から急に人影が現れた。

 細いダガー男だ。

 喉、そして腰……腎臓のあたりか……

 俺の急所を狙って、ダガーの刺突攻撃が毒蛇のように襲いかかる。

 ここで避けないで食らっておけば死ぬんじゃねぇ?

 このいかにも身軽そうな男に一回殺されて力を手に入れれば、俺もだいぶ身軽に動けるようになる。

 そういえば昔から盗賊という存在に憧れを抱いていたな……

 ファンタジーなRPGゲームで盗賊という職業がある時は必ず選んでいたな……

 自らの姿を隠し、気配を隠し、敵に気づかれずに近づき、不意打ちで致命の一撃を与える。

 最高にかっこいいだろ?

 まぁそれは建前で……

 単に俺みたいな、誰とも関わり合いになんてなりたくない、いつも自分を隠したいと願う社交弱者にはあまりにも魅力的な力だったというだけだが……

 というかさっきからなんなんだ?

 ダガーの攻撃が襲いかかってくるって時に、俺は何を呑気なこと考えてんだ?

 いやまぁ死なないから実際呑気なんだけど……

 でもそういう話じゃない。

 ダガー男はダブラと同格で幹部クラスだ。

 そこそこ強いしそこそこ早い。

 そんな奴の、死角からの全力の攻撃。

 一秒もかからずに俺に届くはずだ。

 なのにこの一秒未満の間に俺はこれだけのこと思考を回している。

 これは異常だ。思考加速のような状態になっているとしか思えん。

 これはあれか?生死の合間では時間が遅く感じるとかいう、漫画でよく見るあれなのか?

 あと走馬灯を見る時も、思考が加速されて、死に際のわずか数秒で一生を振り返るというし……

 まぁいいや。せっかくの走馬灯状態だ。利用させてもらおう。

 避けるかどうか、それが問題だ。

 現状を考えるに、避けないのが一番の選択肢のように思える。

 まぁこのまま死んどけばダガー男の力が手に入る。そうすると俺の身体能力と魔力は盗賊団の幹部クラス二人分が合わさったものとなり、何より「隠密」的な身を隠す手段が手に入る。

 これで、この場にいる俺を囲ってる敵どもを圧倒できる。

 でも……間違いなく痛い。

 首を絞められて殺されるのと、刃物ブッ刺されて殺されるのとでは訳が違う。

 後者の方が圧倒的に痛いし長引く。

 それにこいつら絶対死体蹴りするだろうし……

 刺されてから死ぬまで、良くて十数秒、下手したら数十秒の間は、地獄の苦痛を味わうことになるだろうねぇ……

 それこそ、分娩レベルの激痛かもしれない。

 神経がどれくらいで壊死するか、血を流してどれくらいで意識がブラックアウトするか、息ができない状態で脳がどれだけ持つかにもよるけど……

 こんな激痛地獄、十数秒どころか、一秒だって人が壊れるレベルだ。

 それを俺が……病院で採血するのも怖がる俺が……

 さっきの妙なハイテンションが冷めたばかりなせいか、生命体としての、痛みに対する原始的な恐怖がじわじわと蘇ってくる。

 怖い。

 ああぁ……考えてるうちにこの思考加速状態も終わりそうだし、ダガー男のダガーがもう目の前まできてる!

 陽の光を反射して煌めく白刃が、俺の喉を切り裂き、腎臓を貫く光景を想像する。

 ダメだ。

 そんなの耐えられない。

 ここは避けよう。

 幸いこの謎の思考加速状態がまだ少し残ってる。

 今ならまだ間に合う。

 まだ避けられる。

 避けたら体勢を立て直して、改めてダブラの剣を拾いに行こう。

 剣さえあれば、現状の力だけでもこの場を切り抜けられるかもしれない……

「だーめ」

 急に、頭の中に、声が響く。

「逃さないよ……」

 透き通った、落ち着いた、少し気だるげな、イケボって言えるくらい低くて渋い、けどどこまでも綺麗な、女性の声。


 一人お気に入りの人形とおままごとをする女の子。

 クラスの気になる男子にえっちなちょっかいをかけるギャル。

 捕まえたネズミをいたぶり、もて遊ぶ猫。

 そんなシチュエーションを頭に浮かばせる、甘くて危険な囁き(ささやき)


 なんだ? 誰だ?

 というか……体がうこかねぇんだが!?

 やべぇ、なんだこれ、ビクともしねぇ……

 まるでヤクザにコンクリートでドラム缶に詰められたかのように……

 これってまさか……

「せっかくだからここでもう一回死んじゃおっか!❤️」

 ああ目の前に刃がきてるきてる!

 あああやばいヤバイヤバイこれ絶対痛い奴やん!

 昔病院で身体検査する時の採血を思い出す。

 痛いのが怖くて先生が腕に針を刺すところが見れなかったっけ……

 てかせっかくだからってなんやねん……

 ふざけんなよ、なにがせっかくだよ……

「うふふ……ふふふふ……」

 全く楽しそうに笑いやがる……

 まぁいいや。

 どのみち俺にできることはないんだ。

 こういうのを「神の思し召し」っていうんだろうね……

 だって、多分マジもんの神であろう存在が、俺に「死ね」って言ってんだから……

 一介のど底辺クソ陰キャ凡人である俺が、神に逆らえるべくもない。

 あぁ?

 なんで神だとわかるかって?

 そりゃお前、このタイミングでこんなテレパシーみたいな方法で話しかけてくるやつ、尚且つ俺のチートスキルを知ってる、それでいて俺が死んでも復活することを知ってそりゃもう楽しそうに俺を殺しにかかる奴なんて、俺をTSさせてこの世界に送り込んだ「神」的な何かしかありえねぇだろ!

 いつも俺に操られてエロトラップに飛び込むエロゲのヒロインも、こんな気持ちだったのかな……

 逆らえないのなら、受け入れるしかない。

 先の見えない退屈で虚しい生活に中で少しでも気持ちを楽にするコツは思考停止、脳死して流されること。まさに俺みたいな自制心もなければ根性もないど底辺陰キャの得意とするところだ。


 それに、実のところ、この方が良かったのかもしれない。

 力を欲してるのは俺だ。

 このチートスキルの詳しい設定を考えたのも俺だ。

 ずっと望んでいた、憧れていた真の自由を掴むために、力を手に入れる。

 そのためならなんだってする。

 いくらでも生き返れるんだ。

 死ぬくらいなんだってんだ。

 そう決めたのは俺だった。

 でも、「俺が決めたこと」なんってものは全く当てにならないし、少しでも壁にぶつかると簡単に砕け散ってしまう。

 俺には自制心も根性もないからな。

 決めたことを果たせない。

 肝心な時に逃げてしまう。

 俺にとっては通常運転だ。


 だから、誰かが……

 誰かが俺の背中を押さないと。

 誰かが俺のケツを蹴っ飛ばさないと。

 俺は先に進めない。

 

 せっかく女神様がその役を買って出てくれたんだ。

 ありがたく蹴飛ばされるとしよう。

 

 いい加減、腹をくぐるか……

 そう決めた俺は、一切の抵抗を止めた。


 白く眩い刃が、俺の肌に触れる。

 皮膚を切り裂き、肉に埋もれていく。

 そこから痛みがじわじわと広がっていく。

 ここで、思考加速状態終わる。


 先に届いたのは、のどを狙った一撃。

「ぐっ……ご……がっ……」

 痛い。

 痛い痛い痛い……

 喉が切り裂かれた。

 体が条件反射的に悲鳴を上げようとするが、切り裂かれた喉ではそれもできない。

 ただくぐもった汚い呻き声が出るだけだった。

 肉体の反射というのはままならないものだ。

 気管が切り裂かれて呼吸ができなくなると、体が勝手に呼吸をしようとする。

 吸おうとしても吐こうとしても、空気が傷口から漏れるだけ。

 そして傷口に空気が流れるたびに、まるで生傷に塩でも塗り込んだみたいに、猛烈に痛くなる。

 その痛みで傷口周りの筋肉が痙攣して、さらに痛くなる。

 傷口から噴水みたいにドバドバと血が噴き出る。その血が出る時の衝撃も痛みを助長していやがる。

 クソが……

 死ぬ程いてぇよ……

 なのに意識がまだはっきりしてんだよな……

 

 ああぁ……目の前が暗くなった……!

 いい知らせだ……血が流れてもう少して失血死する!

 十秒くらいは地獄が続くんじゃないかと思ったが……全然十秒もいかなかったな……

 もうすぐだ……ぐえぇっ!


 次の、腎臓を狙った一撃が届いた。

 イッテェ……

 もう十分痛いしこれ以上痛くなっても大して変わらんと思ってたけど……

 そんなことなかった。

 いきなりすぎて刺された感じがしなかった。

 ただ、熱い。

 赤く燃えてる溶けそうな鉄の塊を当てられてるみたいな……

 火傷みたいな痛み。

 でもそれよりもはるかに強烈。

 回復術士に赤く焼けた鉄の棒を下の穴から突っ込まれたフレアとかは、まさにこんな気分だったのかもな……

 そこから先はもう地獄。

 多分この先、地獄という言葉が何度も何度も出てくるだろう。

 またかよと、地獄の二文字が安っぽく見えるくらいには。

 でも、それしかこの苦しみを形容できる言葉がない。

 俺の語彙力で、より相応しい形容詞を見繕う(みつくろう)ことなんてできない。

 

 早く終わって欲しいと思うほど、時間の流れは遅く感じる。

 このせいぜい数秒間の時間が、まるで永遠のように感じた。

 

 傷口からも口からも血が溢れる。

 俺の体が、無力に倒れる。


 また一回、俺の人生が終わりを迎えた。

「……は?」

 死に際に、そんな声が聞こえる。

 ダガー男の声だ。

 驚きが隠せない。

 多分向こうもこの一撃で殺すつもりじゃなかったんだろ。

 せめて剣は取らせないと、牽制につもりで繰り出した一撃が、まさかクリティカルヒットするとは……

 そりゃ驚くよな……


 でも、驚くには、まだ早いぜ……

 こっから先は俺のターンだ。

主人公のステータス

★スキル

 -アイテムボックスプラス

 -ただ死ぬだけのチート

 -女神の加護?(趣味)

 -魔力による身体強化(二流)

 -剣の扱い(二流)

 -戦技(三流)


★殺されて手に入れた力

 -優秀な人間成人男性剣士*1


★殺害以外の死で手に入れた力

 なし


★持ち物

 なし


★服装

 なし


等級の目安

下等->普通->優秀->絶世->英雄->埒外

E D /C B /A S

新手/中坚/强者

三下->三流->二流->一流->超一流->マスター

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