004 おさまんねぇんだよなおい!
ここまで読んでくれた人いるかな?
★視点-主人公
うげっ……
やっと終わった……
首にまだ感触が残ってやがる……
息が吸えるのって、こんなにありがたいことだったんだな……
思わずスーーと息を深く吸い込む……仕草をする。
実際吸い込んだわけではないのだが。
そもそも俺は今息が吸える状態ではない。
死んで、魂だけになった、物理的には存在しない「霊体状態」なんだから。
でも生前の感覚がまだちょっと残ってるから無意識に息を吸う動きというか、動作をしただけ。
生前の感覚が残ってるせいで締め殺された感触もちょっと残ってやがる……
あああぁクソ気持ち悪い……
よくもやってくれたな野郎……
まぁいい。俺の欲しい物は手に入った。
結果オーライ。これでいい。
気にいらねぇ野郎は後でぶっ殺せばいいだけの話だ。
とりあえず生き返ろ……
チートスキルのおかげで今の俺は復活待ちの待機状態。
適当な場所を選べばその場で生き返れる。
俺の目の前には、かつで俺だったものは地面に転がっている。
前回の俺の死体だ。
ひっでぇ顔してやがる……
うん。アヘ顔だな。
顔色が黒に近い紫であることを除けば、ほぼアヘ顔だ。
エロ漫画でイかされまくってるヒロインたちは、みんなこんな死に顔をしていたのか……
こんな顔をして地面に無様に転がってる女の子の死体が自分であるという事実を意識すると、実に奇妙な感覚を覚える。
なんだがおかしくて笑いたくなってくる。
「へへっ、一丁上がりっと……」
……あぁん?
気持ちの悪い声が聞こえて頭を上げてみると、ダブラの野郎が俺の足を持ち上げてパンツを脱がそうとしていやがる。
まぁ俺にとっては前回の死体なんてもうただの肉だからどうなっても別にいいんだけど……
ダブラ。てめぇは気にいらねぇから殺す。
周りでそりゃもう楽しそうに見物してやがるテメェらもだ。
待ってろ……今すぐぶっ殺してやるからなベイビーども……
うん?
なんだろ?
魂だけの状態だからか……
妙に冷静だな俺。
肉体がないせいでアドレナリンもドーパミンも俺を影響できないからだろうか……
ずっと望んでいた力が手に入って、普段お俺なら舞い上がって喜んで、大声で「よっしゃ!!!!!!」とか叫びながらガッツポーズをしていてもおかしくないのに……
今の俺は冷静にものを考えている。
まぁいいや。
感情も復活して肉体ができたら勝手に戻ってくるだろ。
今は復活が先決だ。
さてっと……
とりあえず霊体状態でダブラの後ろに移動する。
位置はこの辺りでいっか……
手ェ伸ばせばダブラの頭に届く。
ちょうどいい距離だ。
そして……お待ちかねの復活!
一瞬にして肉体が戻ってきた。
視覚も嗅覚も聴覚も触覚も全てが遠いものだったのが一気に近ついてくる。
真実味がなかった感覚が一気に鮮明になってくる。
それに伴って湧き上がる鼓動、興奮、喜び、怒り……
アドレナリンもドーパミンもエンドルフィンも来る来る来る!
あ、やばいかもこれ。
俺、ちゃんと理性を保てるかな……?
とりあえずダブラの野郎の髪を掴んでやる。
「おい待てよこら」
「うぐっ、イッテェななんだ…………よ?」
これからお楽しみってところで邪魔が入ったダブラは明らかに不機嫌な声を出して振り返ってくる。
んで俺を見てポカンと目を見開く。
口も開いたままだ。
……間抜けズラもここまで来ると滑稽だな。
「なっ……は? どうなって……」
俺を見たダブラは再び振り返って自分が乗っている俺の死体を確認する。
んで振り返ってまた俺を見る。
信じられない目でまた死体の方を見る。
はは、驚いてる驚いてる……
まぁいいや。
テメェの心中なんて知ったこっちゃねぇんだ。
お前の力はもう手に入れた。
だからお前は用済みだ。
とりあえず死ね。
ダブラの髪を掴んでる手に、力を込める。
そして、思いっきり、ひねる。
ボキッ!!!!!!!!
「うわっ! すんげー音出た!」
首の骨が折れる音と手に伝わる感触がやばすぎて思わず後ずさったではないか……
首を折られたダブラの体が、無力に倒れる。
は? これで?
もう終わりなのか?
ていうか今ので首折れた?
「人の首ってこんなに脆かったのかよ……っぷはは、ははははは……」
後ずさりながらこんなことを呟く。
そして思わず口角が歪んで笑ってしまう。
本当に思わずだ。
テンションが高すぎてやばい。
昔からこういうところあるんだよな、俺……
緊張したり、テンションが高かったりすると笑いたくなってしまう。笑うのを堪えられない。
そのせいで畏まった割と笑っちゃまずいような場面でも噴き出してしまったりと、今までは結構な苦労をした。
こういうのを失笑恐怖症と言うらしいな。
笑ってはいけない場面でも笑ってしまう病気だとか。
それに加えて今の俺は一回死んだばかり、その上一回人を殺したばかりだ。
そりゃテンションもおかしくなるよな……
これが笑わずにいられるか……
「はははははは……へへへへへへへ……」
そして何より、そのただでさえおかしいテンションをさらにおかしくするのは、喜びの感情だ。
そう、ずっと欲しかったものを手に入れた、ようやく悲願を果たした、そんな喜びの感情。
腹の底から湧き上がってくる万能感。
力だ。
俺は、ようやく……力を手に入れた。
筋力というか、あらゆる身体能力の明らかな伸びを感じる。
あまりにも俺の本来の身体能力が貧相だったせいで、「強くなった」感がやばい。
いきなり力の制御に困るほどに強くなった。
でも大丈夫だ。この問題はすぐに解決される。
ほぉらキタキタ来た!
頭と体に、記憶と経験が宿った!
剣術……などというお上品な代物ではなく、ただの剣を扱う経験値……長い盗賊生活の実戦によりそこそこ洗練された我流の剣。
ダブラの……剣の扱い、そして長い荒くれ者生活経験した実戦の数々。その記憶と経験値が、俺に体に宿る。
体が覚えている。力の扱い方を。
まるで十年以上戦う生活に身を置き続けたベテランのように。
これでいきなり増えた力を扱える。
あと魔力だな。
腹の辺りが暖かくなって、その暖かい流れがすぐに全身を駆け巡る。
これが魔力か……素晴らしい……
念じるだけで思った通りに体のどこにでも行くな……
この魔力を使えば、身体機能をさらに強化したり、急所を防御したりできるな。
魔力による肉体強化。
ダブラが知ってる唯一の魔力の使い道だ。
こいつ魔法が使えねぇんだよ……帝国出身のくせして……
いや、帝国出身だからこそ魔法が使えなかったのか……
でもいくつか「戦技」は使えるな……
ノース公国の方で旅をしてた時期もあったそうだぜ。
まぁ、小物のキャラエピソードなんて興味ないけど。
でもこの世界の国や社会についての一般常識は普通にありがたい。
魔力量は……ダブラ本人は「そこそこある」という認識をしているが、何せ彼一人しか参照がないから実際はどうだか……
魔力感知が鈍いダブラは他人の魔力の程を感じ取れなかったからな……
うん? まだ何か入ってくるな……
なんだ?
ダブラが女を犯す経験、女を調教する経験、女を拷問する経験、女を最終的にバラす経験……
……って最終的にはバラすんかい!!そういやさっきもそんなこと言ってたな、俺を串刺しにしてアジトに飾ってやるとかなんとか……
どんな性癖してんだよ! いらんわそんなもん!
性癖が根本的に相容れねぇんだよ……こういうの生理的に無理……
げっ、気持ち悪くなってきた……
あああ削除だ削除!
ふぅ……自分で要らんもんを削除できてよかった……
危うく脳が穢されるところだった……
何でもかんでも貰えばいいってもんじゃないんだよな……
とまぁ、こんな感じで俺は俺を殺したダブラの力を手に入れたわけだ。
これが俺のチートスキル。
死ぬことによって力を手に入れ、死ねば死ぬほど強くなる力……
ステータス画面では「ただ死ぬだけのチート」と表示されているこのスキルは、俺が考えたスキルだ。
うん、昔俺が一時期ラノベ作家になりたくて、自分で異世界転生小説を書きたい! ってなったときに考えた、主人公のチートスキル。
我ながらめんどくさいスキルを考えついたものだ。
いざ自分で使ってみるとマジでクッソめんどくせぇんだよな……
死ぬのは痛いし苦しいし……
普通の人間が生涯に一度しか経験しなくていいような地獄の苦しみを、俺は何回も何十回も何百回も経験しなければならない。
しかも「痛覚無効」みたいな、痛みや苦しみを和らげる系のスキルが取得不可と来た。
でも、まぁ。いいさ。
力を手に入れるための、正当な代償だと思えば、受け入れられる。
努力に人生を捧げて報われないよりはマシだ。
あああぁ……いいぜ……サイッコウにハイになってきだぜはっははははは!!!!!
ウキウキに収穫を数えていると、さっきの締め殺された嫌な感覚の余韻もいつの間に綺麗さっぱり消えていた。
「ふふふ……うふふふ……ヘヘヘへへ……あははははは……」
ってかまだ笑ってるし!
おさまんねぇんだよなおい!
今の俺は、片手を膝について、もう片方の手で顔を覆って、前屈みになってゲラゲラと笑っている。
笑いすぎてプルプルピクピクしている。
なんっつー厨二病くさいポーズだ……
アニメや漫画でよく見たな、こんな風に片手で顔を覆って笑うの。
ただのカッコつけというか、厨二心をくすぐるための演出だろって、現実でこんな風に笑う奴なんていねぇだろって思ってたけど……
現に俺がこうなってるんだよな……
なんでだろ?
別に意図的にやったわけじゃないけどいつの間にかこうなってたんだよな……
まぁいいや、てか周りは今どうなって……
ダブラの首をへし折ってから今まで約一分ちょっとくらいじゃないかって感じだけど……
誰も仕掛けてこないね?
まぁそりゃそうだ。
いきなりこんな、絞め殺したはずの女が急に生き返って、しかもなんの前触れもなく強くなって仲間の首をへし折った、なんて訳の分からんことが目の前で起きてんだ。
常識ではどうやだって説明できないことに遭遇したとき、人はまず呆ける。
一分くらい反応できなくて当然だ。
むしろ反応できてしまったこいつらがすごい。
この一分で我に返って行動を起こし、俺に対して包囲警戒体制に入りやがった。
よく訓練されている。
ただの盗賊にあるまじき軍事的素養だ。
さすがは伝説の盗賊団、狼の髭……
軍人崩れ、騎士崩れ、傭兵崩ればかりを狙って集めてきただけのことはあるな。(ダブラ情報)
俺を囲ってるのは……二十人近くはいるな……でもほとんどが俺より弱い、俺と同格かそれ以上のやつは……三人か。
なんでだろ?なんとなく相手の強さがわかるな。
ダブラのへっぽこ魔力感知では、こんなことまでは感じ取れないはずなんだが……
まさか、経験からくる戦場の勘ってやつか?
たかが盗賊が、こんなこともできるのかよ……
この世界は色々とレベルが高いな。
主人公のステータス
★スキル
-アイテムボックスプラス
-ただ死ぬだけのチート
-女神の加護?(趣味)
-魔力による身体強化(二流)---New!
-剣の扱い(二流)---New!
-戦技(三流)---New!
★殺されて手に入れた力
-優秀な人間成人男性剣士*1---New!
★殺害以外の死で手に入れた力
なし
★持ち物
なし
★服装
なし
等級の目安
下等->普通->優秀->絶世->英雄->埒外
E D /C B /A S
新手/中坚/强者
三下->三流->二流->一流->超一流->マスター