002 だから、あの白い少女は、助からない。
★こんな風に視点を切り替えますよ~
★視点-盗賊に襲われてるとある貴婦人
「洗い物を外に出すと、雨が降る。雨が降ってほしくて洗い物を外に出す場合を除いて」
「何事であれ、失敗する可能性があるものはいずれ失敗する。」
多分どこかの本で読んだであろう言葉を思い出す。
いつ、どの本で読んだのかは思い出せないけど、今の状況にぴったりな言葉。
最悪だ。
考えうる限りの最悪が起きた。
罠であることは見越していた。
だから今残ってる護衛で一番強いメイドのカレン、地元の冒険者で一番強いボルフさんを連れてきた。
二人ともBランクの実力者だ。
冒険者ギルドのランク付けはSからEまであるけど、Bは上から三番目……
実質人類が辿り着ける限界と言われているAランクのたった一つ下、といえばBランクの凄さをお分かりいただけるだろうか。
Sランクは全世界でたった一人しか存在しない人外とまで言われる最強。
Aランクは国家戦力級、なりふり構わず暴れればたった一人で国すらも痛がるほどの損害を出せる化け物。
上の二つに比べたら、Bは人間の常識の範囲内での最強者と言ってもいいでしょう。
そんな強者を二人も連れているのに、敵わない。
これが狼の髭……
これがガフェル……
「ほぉれほぉれ……まだ抵抗するか? これ以上は俺も手加減ができないぜ……美人は殺さない主義なんだ……」
「クソ……なんて野郎だ……」
「奥様とお嬢様には、指一本触れさせません!」
ボルフさんは剣を叩き落とされて傷口を押さえている。
カレンの方はまだそこまで深手ではないのですが、それも相手が「美人だから」と加減をしてくれた結果でしょう。それでも彼女は服を切り裂かれ、広範囲に肌が露出している。
女の子が露出してはいけない部分まで外に出ている。
いやらしいやり方……
「ほぉ……中々に生きがいいじゃねぇか……こういうのは嫌いじゃないぜ……」
伝説の盗賊、ガフェルは手に持っている2本のサーベルを軽く振って、ニヤリと口角を上げた。
「でもな、嬢ちゃん。あんたじゃあ俺には勝てない。それはあんたが、痛いほどわかってるはずだ。Bランクと言ってもピンギリだ。Bランク同士でも格の違いってもんがある。それがわからない嬢ちゃんでもないだろ?」
「まぁなんだ……俺は女には優しいんだ。奥様とお嬢様を守りたいんだろ? 今すぐその胸を隠してる手をどいて、俺に媚のひとつでも売れば、考えてやってもいいんだぜ……」
「伝説の盗賊団、狼の髭……連邦の方を中心にして活動をしているのにその残虐非道な噂が帝国のこんなところにまで届いている。そんな連中の言うことを信じろと?」
カレンは片手で胸元を隠し、もう片手は太ももにベルトで括り付けてあるダガーの柄に当てている。
痛ましい……
カレンが酷い有様だ。
切り裂かれた服はもはや服とは呼べず、隠すべきところが殆ど隠せていない。
全身が埃と生傷だらけ。
こんなになるまで戦って……私たちを守るために……
私はなんと無力なのでしょう……
今の私に、何かできることはあるだろうか……
せめて覚悟くらいは、決めておこう。
こんな弱い「ただの女」にできることなんて、これくらいしかないのだから……
「なんだ……そんな噂まで広まってんのか……まぁどうでもいいや。信じようが信じまいが関係ない。どのみち嬢ちゃんには他のできることなんてないんだ。」
ガフェルは片手を持ち上げてサーベルの鋒をカレンに向ける。
「自ら従う気がないのなら、力でねじ伏せて無理やり従わせる……俺は残虐非道な狼の髭だもんな……チャンスをあげたのに無碍にされて俺は今ご立腹なんだよ……お前を動けなくして、目の前で奥様もお嬢様もヒィヒィ言わせてやるよ!!」
「出来ることならあるさ……」
カレンの顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
すごいね、カレンは。
これほどまでに追い詰められているのに、まだこんなふうに笑えるなんて……
大胆不敵なかっこいい笑み。
シルビアにそっくり……
でもその目には、何かを諦めたような、狂気の色が窺える。
「私は何がなんでも奥様とお嬢様を守る。それが叶わなくとも……刺し違えてでも、一生消えない傷跡を残してやることくらいは出来る!」
魔力感知が鈍い人にも感じられるであろうほどの、高まる魔力。
今にも暴走しそうな、危険な高鳴り。
カレンは昔からこういうところがある。
闇が深いと言うか、時々ゾッとするような憎悪と狂気を、彼女から感じることがある。
カレンだけじゃない。フィータもノーレも、闇が深い。
我が家に現存する護衛と使用人は、シルビアが拾ってきたのが殆ど。
大事な存在を無くした、生きる意味を無くした、目が死んでいる。
そういう人を、シルビアは拾ってくる。
こういう、少しでも希望を、温かいものを与えられてしまうと、それを二度と手放せなくなってしまう人を。
「腕も技術もいくらでもあとで教え込めばいい。大事なのは、アドラー家に対する愛と忠誠心だけだ。」
「人生のトン底にいる時、一筋の光がさす。新たな希望が、新たな大事な人が、新たな守るべきものが、一度はそれを失ってしまったものの前に再び現れるのだ」
「彼女たちにとってアドラー家は、命に代えてでも守りたいものとなるだろう。私のように。」
あの時ピンと来なかった言葉も今ならよくわかる
「命に代えてでも守る」って、こう言うことなんだ。
「媚びの一つでも売れば考えてやる」と言ってはいるけど、そんな言葉信じられるわけがない。
カレンが生きたまま屈服すると、彼女の絶望に歪んだ顔を見るために、あえて彼女の目の前で約束を破り、私とフィーノを嬲ることも十分考えられる。
あのガフェルなら、やるだろう。
だったら自分は生きていないほうがいい。自分が死ねばガフェルの楽しみが一つ減る。
健気なメイドの目の前で大事な奥様とお嬢様をめちゃくちゃにする楽しみが。
その上、一生消えない傷跡の一つでも残してやれれば万々歳……とでも考えているのでしょう……
……みんな覚悟が決まりすぎなんですよ、うちの子は。
思わず目元が熱くなる。
もしこの窮地を切り抜けられたら、お説教ですからね、カレン。
そんな妄想とも言える思考に縋ってしまう。
「ヒュ――じゃじゃ馬~」
カレンの決死の思いに対して口笛を吹くガフェル。顔にこそチャラい笑顔を浮かべているが、その目に油断の色はない。むしろ真剣になっていく。
顎を引き、目の前の相手を視界の中央に据える。
武器を握る手に力がこもる。
カレンを、警戒している。
見た目ほど余裕ではない証拠だ。
もうすぐAランクになれるのではと噂されているが、ガフェルはまたBランクのうち。
Bランクの中でも中の上と言える二人に同時に攻められ、それでも凌ぐとは、もうじきAランクになる噂は本当らしい。
それでも、まだなっていない。
Aランクになったなら、Bランク二人など一蹴できるはずだ。
でも実際はどうだ?
カレンとボルフの二人がかりで、ガフェルと拮抗できた。
少しずつ押されて、かなり粘って負けた。
余裕そうに見えるガフェルも、傷は負ったし、体力も消耗している。
もし油断すれば、それこそカレンの言う通りに、最後は勝てても、「一生消えない傷跡」を残されることになるだろう。
「おい、俺を忘れてもらっては困るぜ……」
もう一つの魔力の気配がが立ち昇る。
ボルフさん……
全身が血まみれで、片腕が力もなくブラブラしている赤髪の男……
子供に大人気な、「みんなの兄貴」……
ポルンの冒険者ギルドに在籍する最強の地元冒険者。
カレンのようなメイドとは違って金で雇っただけの護衛。
そんな彼がどうして?
本当に気のいい男で、普段からどんな些細なことでも話しかければ熱心に協力してくれる人ではあったけど……
それとこれとは別の話で、流石にこんな場面で命をかける理由も義理も彼にはないはず。
なのに……
「俺は、ずっと逃げたり隠れたりしてきた。森の中で修行するには、分をわきまえるってことが大事でよ……」
彼はまだ動ける手で腰のポーチから潰れたチーズのかけらを取り出して口の中に放り込む。
ぺって包み紙を吐き出し、チーズを飲み込むと、立ち昇る魔力の気配がさらに危険なものとなっていく。
気配が一瞬縮んだように感じたが、そうではない。
凝縮されたのだ。
深い水底で静かに燃える青い炎のように。
「今の自分じゃあ勝てないやべぇ気配の魔物は逃げて隠れてやり過ごす、そうしないとあの子の仇を打つ前に死んじまうからな」
「やってるうちに強くなって、あの子の仇を取ることもできたけどよ……なんか違うんだよ……」
「自分が、何かを見失ってるような気がしてずっとモヤモヤしてたんだ」
「それがなんなのか……今さっきテメェの汚ねぇ面を見て思い出したよ……!」
凝縮され、燻っている魔力の気配が一気に弾ける。
まるで火山が噴火するように。
「俺が冒険者を目指したのも! 俺が力を求めたのも! テメェみたいなクソが気に食わなかったからだってな!!!」
「ははっ、面白くなってきたじゃねぇか!」
ガフェルの目には興奮の光が見える。
恐ろしいまでの魔力の気配が吹き荒れ、警戒体制から一気に戦闘体制に切り替える。
三つの魔力の塊はぶつかり合い、風はないはずなのに、まるで嵐に打たれて揺れる、今にも沈みそうな小舟に乗っているような錯覚を覚える。
「最後の悪あがきか……いいぜ、見せてもらおうじゃねぇか!」
場が白熱する。これから戦い起きる。三人のBランクによる、他者の介入を許さない、命懸けの戦いが。
そんな時だった。
「ぷはははは……おい、見たか? ダブラなやつ、唾を吐きかけられて、しかも頭に……拳を、ははは……」
「なかなか肝が据わった女じゃねぇか……こりゃ楽しめそうだ……クソ、ダブラ、俺と変われ!」
「ヒューー(口笛)」
「よかったなダブラ、美少女の唾だぞ!ははははは」
いつのまにか、そこに、白い少女がいた。
いつ、どこから出てきたのかはわからない。
多分隣の草むらから出てきた通りすがりだろう。
こんな時にここを通るとは運がない可哀想な子……
白い髪が、白い肌が、全てが輝いてるように見える、綺麗な子……
こんな綺麗な子が、こんなところにいれば……
どうなるかなんて想像するまでもない。
「おお……なんだなんだ? いつのまにか女が一人増えてるじゃねぇか……こんなところを通るとは運がないやつだ」
隣を一瞥したガフェルがニヤリと笑う。
「……」
カレンは何も言わずに魔力を練り続けている。
武器を握りしめる手にはさらなる力がこもり、眉間に寄せる皺も深くなった。
でも気配に乱れはない。
目に一瞬浮かぶ哀れみと悲しみが、すぐに冷静と集中の色に塗り替えられる。
今は下手に動いてはいけないと、彼女はわかっている。
「クソがぁ……!!」
ボルフは白い少女の方を見て、悔しそうに歯を鳴らし、憤怒で気配が僅かに乱れた。
その乱れで隙ができたように見えたから、ガフェルが一瞬動きそうになるが、すぐにボルフの気配が何故か一段と跳ね上がって隙がなくなったから、動けずに隙を窺うことしかできないでいる。
「助けてやらないのか? その哀れな女を……このままだとダブラがやっちまうぞ……」
ニヤリと下品な笑みを顔に浮かべているガフェル。
軽口を叩いてはいるが、目がカレンとボルフをしっかり捉えている。
今の場面は拮抗している。
張り詰めた糸のよう。
カレンとボルフは手傷を負っているが、ガフェルも万全ではない。
どちらも相手の隙を窺っている。
この状況、明らかに……
先に動いた方が不利になる。
だからガフェルはこうやって相手の注意を散らそうとする。
だからカレンとボルフはそこから動けず、ガフェルから目を離すわけにはいかない。
だから、あの白い少女は、助からない。
彼女を助けられる人なんて、誰一人としていないのだから。
主人公のステータス
★スキル
-アイテムボックスプラス
-ただ死ぬだけのチート
-女神の加護?(趣味)
★殺されて手に入れた力
なし
★殺害以外の死で手に入れた力
なし
★持ち物
なし
★服装
-白Tシャツ
-白パンツ
等級の目安
下等->普通->優秀->絶世->英雄->埒外
E D /C B /A S
新手/中坚/强者
三下->三流->二流->一流->超一流->マスター