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001 ゴブリンにでも食わしたほうがマシだ!

 あああぁ……ダメだ。

 こりゃまずい。

 非常にまずい。

 俺の貞操が危ない。

 文字通りの意味で。

 今の俺は、地面に転がされて、両足を掴まれて、今にも無理やり股を開かれてしまいそうな状況だ。

 この気持ちの悪い髭もじゃおやじによって。

 男の俺だったらとっくに殺されていたのだろう。

 女だから、しかも見目麗しい美少女だから、「やりたい」って思ってもらえているから、今俺はこうして生かされている。

 まぁそれはわかるんだが……

 でも俺は別に生かしてほしくはねぇよ……

 余計なお世話だよ……とっとと殺せよ……

 あああクソどこ触ろうとしてんだよこのキモ豚が……

 これだから人間は……

 なんでいきなり人間にばったりあっちまうのかね……

 理性のない魔物だったら考えなしに特攻すればいい。

 百パー殺してくれる。

 きっと痛いんだろうけど……

 それだけで済む。


 でも人間相手ならどうだ?

 見ての通り、こういう野盗の類は綺麗な女を見ると犯そうとする。性的に。

 痛いだけでは済まないのである。


 こんなキモいおっさんに処女を持っていかれるくらいならゴブリンにでもくれてやったほうがマシ……ああいや流石にそれは言い過ぎか……

 ゴブリンは理性のない魔物じゃない。

 人型の、下手に理性を持った魔物である。

 あんなのに捕まったら人間の男に犯されるよりも酷い目に合う。

 この世界のゴブリンはまだ見たことないけど、ゴブリンなんてどの世界も一緒だろ。


 ああクソ……

 どっちも嫌だ!

 おっさんにとかゴブリンにとかそういう話じゃない!

 そもそも犯されるなんて絶対に嫌だ!

 こちとら中身男だぞ!

 何が悲しくて異世界転移して早々野郎にぶち込まれなきゃいけねぇんだよ!

 エロゲかよ!

 まぁ昔異世界TS転生系のエロゲは散々やったけど!

 そうじゃねぇんだよ!


「へへへ……嬢ちゃん、そんなに嫌がるなよ……悪いようにゃしないからよ……気持ちいいぞぉ……」

 気持ち悪い手が俺の胸に迫って来る。


 ああクソ。こうなったらやることは一つだ。

 死ぬ気で抗え。

 さっさと殺してもらえるようにとにかく相手を怒らせるか。

 男の顔面に唾を吐きかける。

 男がキョトンとした顔で動きを止めた。

 まさか盗賊に囲まれて、大の男に馬乗りされてる細い女が、こんなことをする度胸があるなんて思っても見なかったようだ。

 俺を力で押し倒し、この馬乗りが成立してる時点で、俺は実は強かったりとか何か魔法が使えたりとかそういうのではなく、ただの細いだけの女性であることはもう分かってるはずだ。

 だからこそこの状況で泣き叫ぶこともせずに、すわった顔で絶対的強者である自分に唾を吐きかける度胸があるなんざ夢に思わなかった、といったところか。

 今がチャンスだ。

 さてどうやって怒らせようか……

 考える時間はあまりないぞ。

 なんとかこの隙に乗じて抑えられている両手で左腕だけは自由にできた。

 男が無意識に片手を離して、さっきはきかけられた唾を拭こうとしたから。

 とりあえず相手のこめがみを狙って一発左フックかましてやる。

 ああもちろん、俺みたいな細いただの女のフックなんざ、相手になんのダメージも与えることができない。

 でも、それだけで十分だったようだ。

「ぷはははは……おい、見たか? ダブラなやつ、唾を吐きかけられて、しかも頭に……拳を、ははは……」

「なかなか肝が(すわ)わった女じゃねぇか……こりゃ楽しめそうだ……クソ、ダブラ、俺と変われ!」

「ヒュ――(口笛)」

「よかったなダブラ、美少女の唾だぞ! ははははは」


 そうだ。これだ。

 これを待ってた。

 周りの野次馬からの冷やかし。

 ほぉら、ダブラとやら……仲間に笑われてるぞ……

 おや、額に血管が浮かび上がるのが見えるな……

 こんな弱い女のくせに刃向かうなんて、さぞご立腹だろう……


 ここで俺が追い打ちをかける。

「死んでも犯されてなんかやるものか……てめぇみたいな気持ち悪い男に奪われるくらいなら、処女なんざゴブリンにでも食わしたほうがマシだ! どうしてもやりたきゃ俺を殺してから屍体でやりな!」

 まぁ、ゴブリンに食わした方がマシは流石に言い過ぎだが……まぁ効果は抜群だ。


「おおぉっと……なんかすげぇ女だな……」

 周りの奴らが少し引いてるぞ……

 

「ああやばいやばいやばいなんて強気な女だ……めっちゃ気に入った……おいダブラ! マジで殺すなよ! 痛ぶる程度にしどけ! ていうかもうそこを退け! お前にこの女はあわねぇ!」

 あああダメだ、こりゃダメだ。

 せっかくダブラちゃんを怒らせることに成功したのに……

 ここで相手が変わるのはまずい……

 特にこの明らかに俺の強気な態度がお気に入りな御仁(ごじん)……

 こいつはダメだ。

「このメスガキを分からせてやりたい」って顔に書いてある。

 ここはさらにギアを上げるしかない。

 かっ飛ばすぜ……

「ははっ、なんだその間抜けズラは? 抵抗されたのがそんなに不思議か? 顔がゆで卵みたいになってんぞ……いやこれはゆでタコか? それにそのメチャクチャな髭が合わさると……ぷっははは、なんていうか、もうなんだか知らんけど面白っ……」

 ああダメだ。これくらいの語彙力しか発揮できない……

 もう少し考える時間があったらもちょっとまともな罵倒ができたかもしれないが……

「コォのあまぁ……本当に殺されないとても思ってるんじゃねぇだろうな……」

 おや、きちんと怒ってくれてるようだ。

 そりゃ何より。

 髭もじゃおっさんは俺の細い首筋に手をかける。

 おおぉ、絞め殺す気か……

 痛くない分滅多刺しとかより多少マシかな?

「おい、ちょっ……ダブラ! やめろ! 殺してどうすんだよ!」

 隣の多分俺をわからせたい男がダブラを止めに入るが、全く聞く耳を持たないなダブラちゃん。

「退け!」

 ダブラちゃん、乱暴に止めに入った男の手を振り払う。

 いいぞ、このままだ! このまま俺を殺せよ……頼むから割とマジで……


「いいか、俺は死体でもいける口なんだよ……だからそこまでいうなら……望み通りにしてやってもいいんだぜ……」

 ダブラは俺の首を握ってる手に少し力を込める。

 うぐっ……息苦しい……

 ああ、ちょっと首を絞められただけでこれか……

 これじゃあ先が思いやられるな……

 締め殺されるなんて耐えられるか?

 俺のへっぽこメンタルで?

 まぁ、そこは耐えてもらわないと困る。

 なぁに、なんとかなるさ。

 これくらいの苦しみにも耐えられないようじゃ、何も始まらねぇんだ。

「ははは、ならさっさとやれよ……てか何手ェぶるってんだよ……おやおや、まさか人を殺したことないんでちゅか? こりゃすごい、よくそれで盗賊なんざやってられるな……肝っ玉だけじゃなくて、男のタマもお袋の腹の中に忘れてきちまったようだな……哀れなダブラちゃーーーーん……ううげごっ!!!!!!」

 おおおおおぉ締まる締まる締まる……!!!

 息できねぇ……

 苦しいな……

 早速涙が出てきた。

 目の前が見えない。

 俺多分今白目剥き始めたんじゃねぇか?


「本当に死にテェようだなこのあまぁ……いいぜ、お望み通りにこのまま締め殺してやるぜ! そして殺してから死体をメチャクチャに犯してやる! 最後には串刺しにして俺たちのアジトにぶら下げて飾ってやるよ!」

 うわっ……グッロ……

 なんだこいつ、どんな性癖してんだよ……

 流石の俺もドン引きだわ……

 リョナ……じゃないわ、これは流石にリョナの範疇を超えてる……

 いや、大して超えてはないのか……

 昔好奇心からやったとあるリョナゲを思い出す。

 女の子が電撃を浴びたり、殴られたり、丸呑みされたり、真っ二つにされたりしたっけ……

 うげ……思い出すだけで気持ち悪くなってきた……

 あれからだな……無闇に好奇心だけで知らない性癖に手を出すのをやめたのは……

 胃から何か酸っぱいものが込み上げて来るが、首がキツく絞められてるせいで喉まで上がってこれずその一歩手前で詰まってしまう。

 あああ気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……

 それなのになぜか口に中で液体が増えてるんだよな……ヨダレではないな、だんだん増えていってちょっと泡立ってる感じで、口の端から溢れるこの液体……

 ああぁ、泡か……

 俺、泡吹いてんのか今……


 ああダメだ、息ができない、頭に酸素が行かない……

 ぼんやりしてきた……意識が……


 首を絞められるのって、そこまで痛くないんだ……

 息ができないだけで……

 いや俺の痛覚神経がおかしくなってるだけかもしれないが……

 首吊り自殺って、こんな感じなのかな……


「ははっ、いい顔になってきたじゃねぇか! これだよこれ! 女はこういう顔をしてないとな……今更謝っても命乞いしてももう遅いからな……このまま死ぬまで絞めてやるよ!」

 目の前が暗くなってきた。

 得意げに声を荒げる男の顔がだんだん遠くなっていく。

 声も遠くなっていく。

 ここまでくると論理的な思考能力がほぼ失われているな……

 止めどのないわけのわからない思考がぼんやりと頭の中をぐるぐる回る。

 まぁ、俺が今どんな表情をしているかなんて、だいたい想像がつく。

 顔が赤い。舌を出して、白目をむいて、顔は涙と涎、鼻水まみれで、口から泡が溢れ出る。

 表現を誇張しがちなエロ漫画とかではよく見かける表情だ。

 アヘ顔も誇張しすぎると死に際の顔とそんなに変わらなくなるか……

 もしかしたら本質は一緒なのかもしれないな……


 そろそろ顔が赤を通り越して紫色になって来る頃だろ……

 俺は死ぬ。

 俺の命が、終わる。

 そして、()()()のだ。

 ようやく……ようやくだ。

 ずっと待ち望んでいたこの時……

 俺が、ずっと憧れていたもの……

 欲しくてほしくてたまらなかったもの……

 当然自分なんかとは一生関係ないと、諦めていたもの……

 ()()を手に入れられる、この時が!


「はは……へへへ……ヘヘヘへへ……」


「なんだこいつ、キミが悪いな……」

「今にも死にそうってのに、何笑ってんだ……」

「ああクソダブラてめぇ、こんなイキがいいの久しぶりだったのに、絞め殺しやがって……」


 何やらハエの羽音のような声が聞こえるが、もはや俺とは関係のないこと。

 俺は、これから手に入る、夢にまで見た「()」に、思いを馳せるのであった。

主人公のステータス

★スキル

 -アイテムボックスプラス

 -ただ死ぬだけのチート

 -女神の加護?(趣味)

 

★殺されて手に入れた力

 なし


★殺害以外の死で手に入れた力

 なし


★持ち物

 なし


★服装

 -白Tシャツ

 -白パンツ

 

等級の目安

下等->普通->優秀->絶世->英雄->埒外

E D /C B /A S

新手/中坚/强者

三下->三流->二流->一流->超一流->マスター

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