戦場の亡霊
神樣がいるなんて嘘だ。
でなきゃこんなクソッタレな世の中になんてなってねぇよ。
そう悪態をつきたいところだが、それはお国柄的に許されないし、今はそんな暇もない。
形ばかりの神への賛辞、そしてすぐにコックピットに乗り込む。ドッグタグ型のライセンスキーを差し込み、スイッチを入れる。
『――ライセンス認証完了。起動フェーズ開始』
無機質な音声と共に、LEDとOS用ディスプレイが光りだした。
――Awaken......
Generic
Human-like
Operating
System
Trooper
......
黒の背景に、細い線の白文字が並んでいく。その通称に似つかわしくない唸り声を上げながら、汎用人型操作機構兵が目を覚ます。
「『G.H.O.S.T.』No.811、アウェイクン。コントロール、オールグリーン。ギルバート・ロブソン、出る!!」
その宣言と同時に、彼の乗機が射出される。前面のモニターに映る映像が、寒々しい艦内から、鉄火に彩られた地獄に変わる。
僚機が出揃うまでの間、ホバリングをしながら、カメラアイを動かす。敵も味方も、市街地を縦横無尽に飛び回り、轟音と銃声を撒き散らしている。生み出すものは爆炎と、黒煙を上げて燻る瓦礫の山。
――炎と破壊を司る、機械仕掛けの暴力の化身。むしろ亡霊を生み出す側の存在であろう死神が『亡霊』と呼ばれている事実に、皮肉めいた苦笑を禁じ得ない。
そうしているうちに、全機射出完了の通知が静かに響く。意識を切り替え、司令部の通信を聞く。
「No.810から820まで、目標は3キロ先、正面は第1部隊から第3部隊で抑えている。手段は問わない。敵拠点を制圧せよ」
「了解」
レバーを操作し、ブースターの火を噴かせる。感傷と感情を置き去りにして、鉄火の地獄の一員となる。
自身もまた、『亡霊』の一人なのだから。