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七十話 決着

毎日一話を投稿中です。

「な、なんだとっ!」


 三、三、三……何たる強運よ。

 

 しかし、この出目を見て分かる通り、潜んでいる奴も、客側の出目に対しては何もしないようだ。

 ()しくも、おあつらえ向きの状況が出来上がってしまったな……。

 

 別に、ここで勝たなくても……まあ、勝とうが負けようが、この後はそこの下にいる赤オーラさんが確認のために動かざるを得ないから、ルグロシンさんの円盤の出目を見ることは無いだろうけど……。


「おー、やりました。四と二十七で僕の勝負の目は三十一ですね。大丈夫ですか? ルグロシンさん。顔色悪いですよ? それに雨に打たれたように濡れていますよ、いろいろなところが」


「カハッ……これは……なんでこんなことに」


「ルグロシンさん? 次の円盤を回さないと、試合になりませんが……? ちなみに、あなたが勝つには、四か五か六の三つぞろ目しかありません。六が二つ出ても四足りませんから」


 さて、潜んでいる方、聞こえてくれたかな?

 最悪、三つともコロコロに細工をする必要が出てきたね、下の人……お気の毒。


「くっ……。では、ま、回します……」


 見えた!

 台の下に通路があるのか……今、寄ってきている………………真下に……来た、今だ!

 

「ウェノさん! あの台、机、中央下! 剛拳で打ち抜いて!」


 ウェノさんは、俺のゴーサインを待っていたかのように素早く動いた!

 そして、親の敵のごとく拳を繰り出す……。


「速歩ぉぉぉ! 剛拳っっっ!」


 ドッゴーーーン!


 パラパラ……


「おっ? なんだこいつは……イロハ、こいつかー?」


 ウェノさんが無邪気な笑顔で、コイツとやらの体を軽々と脇に抱えて連れてくる……あの硬そうな台を一撃でぶち壊すって、バケモンかよ。


「ええ、そいつですよ。なんでこんなところに人がいるんでしょうねぇ? さて……警備隊の皆さん、お仕事ですよ。絶対、モーセスさんだけは逃がしてはダメです!」


「警備隊! コロコロ場でのイカサマと思わしきことが確認できた、従業員を拘束せよ!」


 サモラスさんの声が響き渡る。


「ウェノさんはそいつをそのまま持っていて、ブルさん、カラムさん、ミネさんは動かないように!」


「おう!」


「わ、わかった」


「……」


「……」


 反応は、三者三様……ウェノさん、ブルさんはともかく、カラムさん、ミネさんは、何が起こっているかついて行けていない様子。

 

 一応ね、いらん事したら全額取れないし、警備隊にお任せ。


「くそぉぉぉ! ガキが! 調子に乗りおって、サモラス! 拘束を解けー!」


「拘束を解いてもいいですが、ちゃんと和解した上でとなりますよ、モーセスさん……」


「サモラス、貴様ぁ!」


 仲間割れかね……。


「まあ、まあ、落ち着いてくださいよ、モーセスさん」


「ガキーーー! お前、ただで、ただで済むと思うなよ、絶対に許さん! ぐぐぐ、ぎぎぎ……」


 相当にお怒りのご様子ですな、モーセスさん。

 よし、それでは詰めていきますか。


「あの、そんなこと言えるんですか? まず、イカサマが発覚したことで、そちら側の負けですよ? 賭け金の分が百万ソラス、損害金の七十万ソラスが二倍なので百四十万ソラス、合わせて二百四十万ソラスです」


「…………よくないが、い、いいだろう。だが、外は歩かない方がいいぞ? これからは、おびえて暮らすがいい、ハハハ」


 なんだか、勝ち誇っていらっしゃるところ悪いが……。


「冗談キツイですね、まだあります。あの二人は、僕の御者と護衛です。拘束されたおかげで僕の予定が三日遅れましたので、滞在延長金が発生します。滞在費他含めて十二万ソラスの五人分で追加の六十万ソラス。合わせて三百万ソラス……」


「は? お前の遅れにこっちはなんの関係もない。滞在延長金なんてものは払わんぞ!」


 落ち着いて、落ち着いて。

 拘束させたのはあなたでしょーが。


「えー嫌だなあ、まだ終わっていませんよ。不当拘束と僕や他の皆の心的な疲労を含めて換算すると、こちらも三日分相当の休養が必要です……あなた方のイカサマのせいで。これが六十万ソラスですが、机と台を壊したので十万ソラスは引いときましょう。()めて三百五十万ソラスになります。あー、心が痛い……」


「なんだと! ふざけるなよ! 知らん、そんなものは知らんぞ!」


「……と、こう言っていますが、この場合どうなりますかね? サモラス警備隊長」


 サモさんに振ってみる、すると……。


「この場合は、幸い王都に近いのでそこへ連行してしかるべき機関に裁いてもらうという手もある。時間はかかるが、確実にお金を回収できる。ただし、モーセスさんの名誉が著しく傷つく恐れもあるため、ここは和解してほしいのだが……」


 サモラスさん……どこまで知っていたのかは分からないが、それが本心なんですね。


「なるほど。どうします? イカサマのおじさん」


「くそー! お前にだけは払わんぞ、死んでも払わん! 絶対にっ!」


 おーおー、熱くなって周りや自分の状況が見えていないな、少し頭を冷やしてもらうか……。


「よし、じゃ本当に死んでも払わないかやってみましょう! ウェノさん、人を殺したことあります?」


「ん? まあな。おまえ……本気か?」


「はい、だって、この人、自分が死ぬことはないと思っているみたいですから、この際恨みを晴らして……」


「ちょ、お前たち、なんだよ……そんなことをしたらダメだろうが。お金も取れないし、それに警備隊もいるんだぞ! わ、私もすぐに払ったら示しが……いや、これは交渉! そう、交渉をしたかっただけだ。誤解しちゃいかんぞ」


 おっと、見事に日和ったぞ?


「なんだ、そうでしたか。警備隊から解放されたら、襲うって脅されたんで先に始末しとこうと思っていたんだけど……ね?」


「始末って……冗談だろ? そもそも、俺らに襲う気はない、ただの圧力だ。そんなことできるわけがないじゃないか、あの台を一撃で粉々にする奴に守られているとか、無理に決まっている!」


「んーでも、全額払ってもらわないと、僕たち心が痛んで、その一撃がいつ出るやら……ねぇ、ウェノさん? ブルさん?」


「ああ、イロハ。おりゃ、剛拳を本気で人の顔面に打ちつけたらどうなるか試してみたくなった……あー、心が痛いぞ」


 ウェノさんも、腕を回してアピールしている、ノリいいな。


「えー、あ、俺も、その……あれだ、一晩拘束されて飯も食えず……あ、あーお腹が痛い」


 ブハッ!

 ブルさん、お腹を触りなから……それじゃあ、ただの腹ペコキャラやん!


「わ、わかった! 三百五十万ソラスだな、払おう。それでいいだろ? もう、俺はお前たちにかかわりたくない、特にお前が……」


 元々、ウェノさんたちが巻き上げられた額は、三百五十万ソラス……やり過ぎは恨みを買うし、トントンなら痛み分けってことで。


「じゃ、早速、払ってもらいましょうか」


 モーセスさんも、最後は快く? 全額支払ってくれた、お店のセーバーで。

 時間がかかるかな? と思ったが、百万や二百万などの支払い用金額プレートが揃えてあった……さすが異世界ギャンブル場、賭け金は額に関係なく即支払いってわけね。

 その都度残金が少しでも減ると、俺は萎えそうだ……。


「もう、二度と来ないでくれ、悪魔め……」


 なんて捨て台詞を頂きました。


 

 そして、ようやく、長い戦いが終わった。


 店を出て、帰る時改めてウェノさんとブルさんからは感謝の言葉を頂いた。


「イロハ……本当にすまん。まさか、自分がこんなに賭け事で熱くなるとは思わんかった」


 まだ言ってるよ……ブルさん。

 さっきからこの調子で、カラムさん、ミネさんにも謝り倒している。

 初めてのギャンブルだったみたいだし、気持ちも分かる。


「もう、分かりましたから、ブルさん。賭け事は、だいたいみんな熱くなるもんです。それに、やっぱりイカサマは怒って当然です」


「最初のうちは勝ってたんだが……なぁ、ウェノさん」


「ああ、もう少しで勝ち分が二百万ソラスまでいくところだったぞ? 急に負けだして、気付いたら勝ち分が無くなってな、悔しいから三百万ソラスの大勝負に出たわけよ!」


 はぁ……典型的な、ギャンブルで身を持ち崩す人のお手本ですな。


「あのね、ウェノさん。ああいう賭け事ってのは、資金の多い方が有利になっているものなの。残りが三百万だったら、負けた時、取り返す勝負ができないでしょ?」


「でもよー、負けが五回も続いたら、次は来るって思わないか?」


 浅いぞ、ウェノさん。

 世の中には、千回、二千回とハマり続ける恐ろしい台が……ま、それは置いといて。


「負けや勝ちがいくら続こうと、毎回、確率は一緒です。もうちょっと、冷静になってよ、二人とも……」


「いーや、負けが六回も続くなんてあり得ねえ。だからイカサマを疑ったわけよ、なあ、ブルさん」


「ああ、それまでは負けが続いても三回だった……」


「負けた五回は、あまり強い目が出なくてな。そこでピンときたわけよ……次はでかいのが来る、と。そしたらなぁ、ブルさん」


「ああ、あれは震えたな。ウェノさんが三百万の大勝負で、なんと四の三つ揃いを出したんだよ!」


「これは勝ったな、六百万ソラスか。みんなで豪勢な飯でも……と喜んでいたら、向こうが六の三つ揃いを出しやがって。その後、七回目は迷宮で稼いだ金で最後の勝負に負け……もう許さん! ってわけだ」


「ウェノさんが台を触った時に、向こうも焦っていたから、間違いない! と思ったんだがな、台には何も無かった……まさか、下に人がいるとは思わんかったな」


 俺は、何を聞かされているのだろうか……。

 負け犬の遠吠え?

 捕らぬ狸の皮算用?

 飛んで火に入る夏の虫?


 ふぅ、これは危なかったかもしれない……。

 

 聞いた限りじゃ、もしかしたらモーセスさんは、三百万の時だけイカサマをしたんじゃなかろうか?

 その他は、純粋に負けたと。


 あ、カラムさんは気付いたみたいだ。

 今更のように、顔を青くしている……。


「おい! おいって! イロハ、聞いてるか?」


「……なんですか、夏の虫さん?」


「虫? それでよ、三百五十万で良かったのか? 本当は六百万になるはずだったんだぞ?」


 なるはずって……まあ、可能性だけはあったようだが。


「……いいんです。負けた分は取り返したんだし。何もなかったと思えばいいじゃないですか、ウェノさん」


「そう……か。まあ、イロハがイカサマを見つけたんだからな」


「ただし、ウェノさん、ブルさんには、言わせてもらいます。賭け事は、自分の(ふところ)の中だけでやってください!」


「……」


「……」


「返事が無いなら、預かったお金は返しませんよ? 自動的に戻って来るとでも思っていませんか?」


「わ、分かった。これからは、パーティのお金を使い込んだりしない、約束する!」


 ブルさんは、責任を感じているようだね、バツが悪そう。


「俺は……まあ、今回は悪かった……」


 ウェノさんは、まだ納得がいっていない様子。


「まあ、いいでしょう。今回、取り返したお金は、ちゃんと返します。大事に使ってくださいよ?」


「「はいっ!」」


 こんな時だけ、いい返事……まさに現金やな。



 

 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ⇒ウエンズ⇒ミッド⇒ホグ⇒メルクリュース領カーン

 最終目的地:王都メルクリュース

読んでいただきありがとうございます。

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