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六十四話 獣を得て人を失う

毎日一話を投稿中です。

「さ、行くぞ」


 さらわれた時と同様に、縄で手足を縛られ猿ぐつわ状態の俺は、麻袋を被せられて、乱暴にコブトロから背負われる。


 別に、抵抗していないのになんでこんなに必要のない乱暴なことをするかなあ……。


 街中をグルグルとしばらく進んで……これは、客車か?


 さらに、客車に乗せられ、どこかへ連れて行かれる……。



 しばらく走ったところで、静かな場所へと到着した。

 見えないからここがどんな所かは分からないが、植物の匂いがするから、森かな?

 俺はお尻をついた状態で、木に縛られている。


「よし、お前ら、配置につけ!」


「はい!」


「交渉は、コブトロ、お前がやれ」


「へ、へい」


「俺は、どんなやつが来るか様子を見てから出るか決める」


「へい……」


「相手には、時間を指定しているから、間もなく来るだろう。失敗は無しだ、いつも通りにやればいい、分かったな?」


「へいっっ!」


 ブンガロは、かなり用心深い奴のようだ。

 だ、大丈夫だよね?



 しばらく静かだったが、客車の音じゃなく人の足音がする。


 ザッザッザッ


 ひとり……?


「待たせたな、お前らか? イロハをさらったのは……」


 この声は……ウ、ウェノさん!

 あぁぁー、急に涙が出てきた……なんでだろう、自然と溢れ出る。


「そうだ。お前が護衛か? 背の低い奴と、御者はどうした?」


「はぁ? 何を言っている? お前も一人じゃないか」


 えっ?

 なんで一人なの、ウェノさん。


「なんだと? 俺たち獣の牙相手に……偉そうに言うんじゃねえ!」


「ほう、獣の牙ね。それで、そこの子供に付いている獣野郎の他に、お前の仲間はどこだ?」


「くっ……人質がどうなってもいいってのか! 早く品物を出せ! これは取引だ!」


「ふーん、取引ねぇ。あ、もう少し待ってくれ。時期に分かる」


「はぁ? 何言ってんだ……不気味な奴だ。誰かが持ってくるのか?」


「そうだな。今、探しているところだ」


「わけがわかんねぇ……お前の余裕も、納得がいかねぇ」


「ま、納得する必要はないぞ?」


 ガサッ! シュッ!

 

 バタッ!


 ……!!


 俺を掴んでいたフモニの手が外れた。

 不意に麻袋を剥ぎ取られ、そこに現れた顔は……カラムさん!


「イロハ、大丈夫か?」


「はい……すいません、こんな事にな……」


「話は後だ、黙って大人しくしとけ」


 すごい目つきのカラムさん、体に草がたくさん付いている……大人しくしとこう。


「二人はやった、イロハも大丈夫だ、ウェノさん!」


 そう言ってカラムさんは合図を送る。


「ほら、探し物が見つかったな? じゃ、行くぞ!」


「な……いつの間」


「剛拳っ!」


 ドムンッ!

 

 ゴトッ!


 ウェノさんの拳がコブトロの顔面をまっすぐ撃ち抜き、強引に地面へ打ち付けた。

 水平から下方垂直に九十度の打ち下ろし……アッパーの逆、漫画かよ。


「ア……ガガガ」


「ほれ、もう一丁」


 ドカッドカッ!


「ブ……ググ……グゥ」


 顔面の原型が無い……元からヒョウみたいな感じだったからよく分からんけど、歯とか折れているし、なんかいろいろ曲がってしまっている。


「よし、拘束を外すから、ちょっと待ってろ」


 カラムさんは、俺の縄を解いてくれている……ガチガチに結んであるので手間が……あっ、アイツが!


 今まで隠れていたブンガロが、俺に危害を加えようとしたのか、短剣で襲いかかってきた!


「カラムさん! 後ろにっ!」


「旋風斬っ!」


「……危ないっ!」


 シュッ! サクッ……


 嫌な音が聞こえた……。

 

 スローモーションのように、俺の目の前に()()()()()()()()()()()()()()と血しぶきが舞い上がる……。


「大盾ぇー!」


 どこからともなく、ブルさんが参戦。


「カラム! イロハを……! 下がれぇー!」


 カラムさんは、俺を担いで離脱。

 カラムさんの指の切断面からは血がドクドクと……ゆ、指が。


「俺たち獣の牙を相手に、やるのか?」


 ブンガロが、ブルさんに話しかける。


「その獣の牙とやらは、もうお前一人だろ、冒険者を甘く見るな」


「冒険者……護衛は一人じゃなかったか。ふん、冒険者がなんだ。おい、出てこいっ!」


 ………………。

 

 誰も出てこない。


「あら、コイツを呼んだの?」


 ミネさん!

 グッタリした茶毛のネコの獣人を引きずっている……知らない奴だ。


「こっちにもいるぞ、ほら」


 ドサッドサッ


 ウェノさんは、知らない黄ネコと黒ネコ、さっきのコブトロを無造作に山積みにした。

 知らない奴が三人も隠れていたのか……。


「くっ……エラブっ! エラブっ!」


「奥にいた灰色の奴なら、もういないぞ……」


 カラムさんが、睨むようにそう告げるとブンガロが焦りを見せる。


「なんなんだ、お前らは! こんな小僧一人、魔石や香辛料と交換すればいいじゃねーか! 少しくらい俺らにも……」


「そうはいかねえ。俺は守ることしかできん。だから余計な争いは極力避けるが、護衛対象の大事なものを奪うというのなら容赦はせん!」


 ブ、ブルさん……。


「……ック」


「それにな、俺はまだいいとして、そこの……まあ、御者さんが、大層お怒りでな……もう、俺にはどうにもならんのだ」


 え……ウェノさん、怒ってるの?


「そういう事だ、黒の獣さんよ。お前だけは許さんぞっ!」


 ウェノさん……そんなに僕のことが心配で……うぅ。


「御者? あ……いや、待ってくれ。もう俺らは全滅してい……」


「速歩ぉぉ! 身体強化っ! 剛拳っっ!」


 ガコッ!

 ドカッドッドッドッ!


「ぐわぁっ! ぎぎぎ……」


 すごっ!

 ボディからのボディで、くの字になったところを、ワンツーでアッパー!

 キレイにダウンしたところに、マウントポジション……。


「おいおい、まだだぞ。起きろ! 俺がっ! ルーセントにっ! なんてっ! 言われっか! 分かって! いるのかっ! よっ!」


「うぶぶぶ……や……やめ……」


 ん、んんー?

 そっち?

 

 俺のためじゃないんかよ! あーもう、ちょっと嬉しかったのに……。

 それにしても、単語単語で一発ずつ剛拳をぶち込んでいる……恐ろしいよ、この人。

 

 ミネさんが、灰色の奴も引きずってきた。

 これで、獣の牙は全滅だろう。

 まさに、獣を得て人を失う……を地で行く獣人さん達だった、得た物が少ないというより何も無かったようだけど。


「これで全部のようだわ」


 山積みになった人さらい連中を見て、ブルさんが僕の方を向く。


「さて、これらをどうするか。イロハ、お前は大丈夫なのか? 怪我は無いか?」


「うん、なにもされていないよ、ブルさん。みんなも、助けてくれてありがとう!」


「いや、ほんとに焦ったぞ、急にいなくなるなんてな。でも、無事でよかった」


 ブルさん……。


 そこに、腕を回しながら拳についた返り血を拭きつつ、ウェノさんがこっちに来る。


「大変だったな、イロハ。もう大丈夫だ。これ、ルーセントには内緒な? たぶん、言ったらコイツら確実に探されて死ぬぞ?」


 こんな時に何を……あっ! これは、拾っておかなくちゃ。

 

 そこに()()()()()()()を、そっと拾って、汚いかもしれないけど、俺の猿ぐつわだった布でくるんでおく。


「うん、分かったから。それよりも、カラムさんが……」


 みんなが一斉にカラムさんの方を向く。


「ぐ……下手をうっちまった。すまねえ」


 そう言って、カラムさんが右手をみんなに見せる……親指以外の四本の指の第二間接より上が、無くなっている。


「……」


 みんな、無言になってしまった。


「カラムさん……ごめんなさい。僕がちゃんと見ていなかったから……もう一人いることを言わなかったから……ごめんなさい」


「いや、いいんだ。イロハを守れてよかったよ。幸い、まだ半分の指は残っている、どうにかなるから気にするな」


 ブルさんが、俺の肩に手を置いて……。


「イロハ、冒険者ってのはいろいろなことがあるんだ。そうだな、カラムが身を挺して守ってくれたんだ、ありがとうと言ってやってくれ」

 

「カ、カラムさん! 守ってくれてありがとうございます!」


「いいってことよ、その調子だ……ちと痛いな、みんな、戻ろうか」


「よし、撤収だ!」


 ブルさんがそう言うと、みんなで『獣の牙』の連中を、奴らの荷台付き客車に載せ、みんな乗って撤収となった。

 

 こうなることを予想して、徒歩で来ているとか……。


 カラムさんには、申し訳ないことをした……なんとかならないかと思って、最後まであの場所にいたので、カラムさんの()()()()()()も持ってきている。

 

 どうだろうか…………細胞活性。

 自分と、獣には使えた。

 たぶん、他の人にも使えると思う……が、けがの治療であって、再生ではない。

 

 指切断って、接合限界は何時間以内だったかな? 四、五時間くらい?

 氷水とかに浸けないとまずいか? 切断面はキレイだったはずだ、何とか斬だったから。


 ……ダメもとでも試してみるしかない。

 

 このままだと、カラムさんは一生指の不自由さを余儀なくされる、俺を守ったせいで。

 治療と考えればいい、ちょっと、いや、かなり深く切ってしまった傷と考えれば、怪我と思えなくもない……今なら、今しか間に合わないかもしれない!


「ウェノさん! 止めて!」


 俺は、思わず声を上げた!

 ウェノさんは、客車を横につけてすぐに止めてくれた。


「みんな、聞いて! 僕は、もしかしたら、カラムさんを治せるかもしれないっ!」


「なんだって?」


 ブルさんが驚いている。


「説明している時間は無い! カラムさん、その指の治療、僕に任せてもらえませんか? 絶対ではないですが……」

 

 カラムさんは、少しだけ考えると、困ったような笑顔でこっちを向いて……。


「イロハ、任せた! どうすればいい?」


「は、はいっ!」

 


 その後は、ミネさんに水を作ってもらい助手……カラムさんの元指と傷口を洗ってもらい、ブルさんとウェノさんには、客車と獣人達の見張りをやってもらうことにした。

 

 切断された指が四本なので、四回の細胞活性を付与しなきゃいけない。

 一度に、そんな回数をやったことがないけど、やるしかない。


 カラムさんには、横になってもらい、ミネさんと俺が施術する。

 ミネさんに指の切断面をあてがってもらう……一本ずつ、慎重に。

 

 客車の中で、服なんかを積み重ねた上に手を置いてもらいくっつける作業をする、ミネさんは補助だ。


「うまくいったら、カラムさんは眠たくなるはずです、抵抗せずに寝てください。四回続けていきますので」


「私は、指を持っておくだけでいいの?」


「ミネさんは、僕がスキルを使ったら、しばらくズレないように支えていてください。泡みたいなものが出てきたらそっとしておいてください」


「あ、泡ね。分かったわ」


「では二人とも、行きます」


 二人が小さく頷いたのを見て、スキルを使う。


「細胞活性! 生物付与っ!」


 頼む……。


 …………光らない、ダメだ。


「もう一回! 細胞活性! 生物付与!」


 ……。


 ……よし、人差し指の切断面の所が薄っすら光った!


「ミネさん、次の中指、お願いします」


「え、ええ……」


「カラムさんは、指を動かさないでください」


「あ、ああ……少し、眠気が……」


 カラムさんはそう言うと、静かに眠った。

 額には嫌な汗がじわじわと滲んで頬を伝う……ふぅ、あと三回!


「行きます! 細胞活性! 生物付与!」



 それからは、順調に四本ともなんとか発動はしてくれた。

 しっかり治ってくれるかどうかは保証できないけど、最善は尽くしたと思う。

 骨もくっつくのか? という疑問はあるが、たぶん骨も細胞だったはずだ……。


 ミネさんは「私は何を見ているんだろう……信じられない」と、ずっと言っていた。


 もう、体力も気力も無くなった。


「すみません、限界です。僕も、寝ますね……」


「よく頑張ったわね、小さな体で……」


 俺は、ミネさんに頭を撫でられながら、眠りについた。


 心地いい……。



 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ⇒ウエンズ⇒ミッド⇒ホグ

 次の経由地:メルクリュース領カーン

読んでいただきありがとうございます。

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