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五十五話 俊足の先輩

毎日一話を投稿しています。

 ふぅ~! 清々しい。

 新しい朝が来た、希望の朝だ。


 なーんて、喜んで胸開いて大空をあおぎたくなるほど、調子がいい。

 体操でもするかー?


 さて、今日も歯止めが利かない大人たちは、懲りもせず二日酔いなのかね。

 目の前では、うちの御者がだらしなく寝とりますが。

 

 早めの出発は無いな。


 軽く朝のランニングと行くか。

 宿を中心に、くるっと一周ランニング、スタート!


 ベガでも、露天街みたいになっていて、野菜の朝市みたいなもんがあっている。


 しばらく行くと公園のような空き地が見えてきたぞ。

 よし、行ってみるか、ストレッチでもしよう。



 いい感じの芝と言う名の雑草が生えているスペースを確保。

 いっちにーさんしっ!

 ごうろくしちはちっ!


 にーにっさんしっ!

 ごうろく……前から思っていたけど、このにーにっさんしって語呂が悪い。

 言ってて変な感じがする……にーのところ、せめて二文字は欲しいと。


 ま、どーでもいいことではある。


 なんか、いい匂いがしてきたぞ?

 肉串屋さんか?


 ソラスオーダーも使ってみたいし、さてさて、ベガの肉串はどんな感じかな〜?

 

「おいちゃん、一本ちょうだいな」


「あいよっ! 毎度」


「支払いは……ここかな?」


「上の料金を確認したら、そこに当ててくれ」


 小型のセーバーだ。

 上の料金プレートには、二百ソラスと表示がある、ふむ……二百円か。

 言われた通り、自分のを当てると青く光った。


 一応ね、表示と違ったらいけないから、こっちのソラスオーダーも確認っと。

 問題なし、疑り深くですまぬ……おいちゃん。


「どうも〜」


 無事、支払いをソラスオーダーで済ませると、肉串を食べる。


「おー! これは美味い」


 トリじゃない、ウシだ。

 ベガはウシが名物かな?


 出来たてに外で食べるというシチュエーションが加わると、なんでこんなに美味しいんだろうか。

 


 ぺろりと平らげて、またストレッチを始める。


「ふぅー」


 ちょうどいいので、草むらに寝転がる。


 どの世界でも空は綺麗な青空だな。

 もはや、なんの確証もない以前の記憶。

 果たして俺は、大人と言えるのか?

 見た目、振る舞いも子供じみてきたような気がするし。


 人とは、魂とは、記憶とは……。


 なんか、悟りが開けそうな予感。


 戻るかな。

 帰りはお散歩といこうか。


 来た道とは違うルートを歩いて帰る。

 この街は、意外と人が多いな……だから野盗どもも食べていけるのかも知れん。


 お、コリトーの客車だ。

 見た目は、どこぞのコモドさんに似た感じだけど、草しか食べないという見かけだおしな走獣。


「イロハー!」


 前髪パッツン娘が手を振って向かってきた、ラムだ。


「もう出発か? お父さんは大丈夫そう?」


「うん。まだ治っていないけど、仕事があるからもう戻らなきゃって……」


「仕事なら仕方ないな。子供は何も言えないよ……気を付けて帰るんだよ、ラム」


「うん。ウエンズ行きの商隊があるから、同行するの。イロハとはもっと話したかったけど…………またね、王都にも絶対に行くから!」


「あ、ああ、わかった。でもな、なんかここでお別れ気分なところ悪いけど、すぐに会えるよ? 僕たちも、次はウエンズに行くし」


「え……恥ず」


 お顔が真っ赤っ赤や。

 ごめんなー、意思疎通って難しいよな。


「ごめん、分かっていると思っていたんだよ。昨日、またねって言っていたから」


「あ! じゃあ、ウエンズへ着いたらうちに泊まりなよ、ね?」


 おいおい、見知らぬ異性を簡単に家へ招いたらあかんよ……まったく末恐ろしい娘だ。


「えー、それは悪いよ。大人四人と僕だよ? 大人数で押しかけたくないって」


「ご、誤解しないでよ! うちは宿屋なの。ランラン亭よ。覚えておいて、絶対よ!」


 あー、そういう事ね。

 俺の心が汚れていたのか、申し訳ない……ああ、笑顔が眩しい。

 

「お、おう。ランラン亭ね。分かった、話しとくよ」


「じゃあ、今度はウエンズでねー!」


「わかったー! またな!」


 ラムは走って戻っていった。

 元気な子や。

 出会った当初の雰囲気は何だったのかと。

 親が無事かも分からず、野盗に売られそうになったら……無理もないか。

 


 間もなく、宿に到着。

 そのまま汗を軽く流して、部屋へ。


 だらしない大人が一体、転がっている。

 まだ寝てるよ。


 適当に荷造りして、準備完了。


 暇になると、イタズラ心に火が付くってもんよ……いけるか?

 まずは、体を仰向けに……うわっ!


「……んぁどした?」


 体に触った瞬間、ウェノさんはガバっと起きた。

 なんだ、この反応速度は……寝てたよね? 確実に寝てたよね?


「あ、お、おはよう。ウェノさん」


「ん? もう朝か……眠いな」


「今日は、いつ出発するの?」


「知らんが、あの飲みっぷりじゃ、昼食後とかじゃないか?」


「そんなに飲んだの?」


「まあ、そう言うな。冒険者は命がけだ、どんなに楽な戦闘の後でも、しっかり飲み食いして発散しないと心が死ぬ」


 心が死ぬ……ストレスか。

 そんな概念がこの世界にあるのかは分からないが、理解はできる。

 俺も、胃に穴が空いたことくらいあるし。


「うん。行程は任せてるから文句はないよ。でも、出発時間などの予定は教えて欲しいな」


「イロハは、ルーセントに似ず細かいな、笑えるぞ。ハッハッハ」


「う……ウェノさんだって、冒険者じゃないのに、一緒になって飲んだくれてるじゃんか!」


「あー、おりゃ冒険者もやっているぞ。兼業というやつだ。聞いていなかったか?」


 冒険者だったー!

 そうか、そうだろうな、強いし。


「えー! そうなの? だから強いんだ……な、何級くらい?」


「四級だ。凄いだろ? だーかーら、俺も飲んだくれていいのさ」


「す、すご。ブルさんより上じゃん!」


「俺の場合、最近はほとんど冒険者をやっていないから、周りもあんまり知らないんだよ」


「父さんが、ウェノさんを僕に付けた意味が分かったよ。もしかして、父さんよりも強い、とか?」


 ウェノさんには、底しれぬ強さを感じていたけど……父さんは、僕を案じてくれていた訳だ。


「はぁ? んなわけあるか。ルーセントは、俺より強いぞ。情け容赦もないし、加減も知らない……あいつは鬼だ」


「あ、わかるかも。五歳の時に、木刀で頭を打たれて気を失ったことがあるよ。それから、だんだん嫌になって剣術を辞めたけど」


「……ったく何やってんだ、息子を殺す気か。大変だったな、イロハ」


 そんなに、かわいそうな子を見る眼差しはやめて。

 父さんは、不器用なだけだと信じている。


「そっか。父さんはそんなに強かったんだ。じゃあ、開拓団の人たちもなかなか強いかもね」


「ああ、ネイブのルーセント率いる初期の開拓団は、実力で採用しているぞ。前領主がそこの森で亡くなっているからな」


 やっぱりね。

 末端のレクスさん達だって、野盗のボスをあっさり捕らえたらしいし。


「そうだったんだ、知らなかった……」


「そろそろ、飯に行くか。体を流してくるから待ってろ」


「はーい」



 ウェノさんが戻ってきてから食事を済ませ、ブルさんから今日の予定を聞いた。


 ベガで、物資の補充をするので、昼食後の出発となるらしい。

 せっかくなんで、俺もちょっと買い物をしてベガポートへ向かった。


 さあ、出発だ。


 次の街は、フレズ。

 街と言ってもベガとウエンズを繋ぐ中間地点の集落という感じらしい。


 今回は、ブルさんが先頭客車の御者をし、カラムさんが俺の客車に乗る。

 ローテーションか?


 向かいにいるカラムさんは、話す素振りを見せない。


 俺、エレベーターとかでも、沈黙に耐えられない人です。

 同じ空間の人が黙って何を考えているのか? が気になりすぎて、つい話しかけてしまう……。


「カラムさん、なんで冒険者になったんですか?」


「……そりゃあ、金だろう」


「ハハ、お金は大事ですもんね」


「それに、俺みたいなスカウト系は、行き着くところが犯罪者だからな」


 思っていたより、ヘビーな話だった。


「そんなこと……」


「あるんだよ。気配察知、身のこなし、人の認識が希薄になるなどのスキルは、犯罪と非常に相性が良い」


「た、確かに。でも、冒険者にも必要じゃないですか」


「そういう事もあるが、上位に行くにつれて強力なスキルや力の強さが必要になる。やがて、戦闘力の低いスカウトはお払い箱って訳さ」


「それは、全体での戦力を考えない人がそう思うだけで、必要性から言うと一番だと思いますよ。役割分担です」


「ありがとうな。でも、そう思ってくれる人も少ないんだよ。ブルさんには感謝している」


「ブルさんは、全体の戦力を考える人だもんね」


「だから、拾ってくれた恩返しも、冒険者を続ける理由になる」


 こりゃ、だんだんと話が重くなりそうだな……話題を変えなきゃ。

 カラムさんは、なかなかのネガティブさんかな?


「そういえば、肩の傷は大丈夫ですか?」


「肩? 弓が刺さった程度で、毒も無かったし問題ない」


 そうだ!

 アレを聞かなきゃ。


「あの、聞いていいのか分からないですが、俊足ってスキルを使っていませんでしたか?」


「使ったぞ? それがどうかしたか?」


「僕がいた村に、俊足を使える子がいたので、伸ばし方とか教えてもらえたらなぁって」


「そうだな、俊足は足が早くなり、俊敏な移動ができるだけと思っている者が多い。でもな、実はその移動中の思考も速くなるんだ。分かるか?」


「うーん……例えば、普通に走って移動したら二時間かかるところを、俊足で一時間に短縮した場合、二時間分の思考を一時間でできる、こんな感じですか?」


「……驚いた。俊足を持っていない奴が、一発で理解したことなんてなかったぞ。その考えで合っているが、俊足は一時間ももたないな、せいぜい数分だ」


「凄いスキルですね。特に戦闘中は相手より先手を取りやすくなる、ですよね?」


「その通りだ。一撃目だけはかなり有利だな。だから、訓練は反射神経を磨く行為が有効だ」


「反射神経か……難しいな」


「実践で考えてみろ。攻撃はどうする? 上? 下? つまり、フェイントを入れて相手の反応を見て、有効打を打つ。この時、人の二倍動けて考えられるとなると当たりそうだろ?」


「確かに。だったら、俊足を使いながらフェイント入れて、その逆を打つ……この切り替えをやれば、どうですかね?」


「いいね。人を変えたりなど、法則性は無い方がいい。ただし、慣れないうちは自分が、慣れてきたら相手が怪我をしやすいから注意しないとな」


「全部不意打ちですもんね」


「よくわかっているじゃないか。流石はスレイニアス志望なだけはある。スキル次第だが、その理解力は強くなれる素質ありだな」


 素直に嬉しいなあ、現役の冒険者に褒められるなんて。


「あ、ありがとうございます」



 その後も、カラムさんは、調子が乗ってきたのかスキルの話や冒険者の心得、スカウトのことなど、大いに盛り上がった。

 

 カラムさん、見かけによらず勤勉で真面目で真っ直ぐな人だ、そこはミルメに似ている。

 もしかしたら、この性格が俊足を授かる条件かもしれないと思った。



 ベガを出てからは、野盗に襲われることもなく順調に進み、野営地で一泊を挟みつつ、フレズへ。

 

 フレズは、ネイブ領のモサみたいなところで、泊まるだけの中継地だった。

 そこからは、更に一日かけてウエンズへと進む。


 いよいよ、ウエンズに到着だ。



 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ領モサ⇒ネイブ⇒ネイブ領ペイジ⇒ウエンズ領ベガ⇒ウエンズ領フレズ⇒ウエンズ

 次の経由地:ウエンズ領ウインマーク

読んでいただきありがとうございます。

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