五十二話 策
毎日一話を投稿しています。
本日も、少し早めの投稿です。
ブルさんから、二人同時に声をかける以外、外へ出るなと言いつけられている。
でも、ミネさんが人質に……。
客車の中で、どうするか考えていると……。
「おい、ガキ。すぐに来ないと、この女を切り刻むぞ」
「おいおい、野盗のおっさん。その女を少しでも傷つけた時点で、関係なく暴れるからな。俺はそもそも護衛でもないんでな、誰を傷つけ殺そうと、お前だけは殺す!」
ウェノさん、言っていることは怖いけど、なんか楽しそうに見える。
おかしいなあ、余裕も見え隠れする。
「なんだと? ふざけるなっ! こっちには人質がいる! 一歩でも動いたら殺す」
「ほーう、じゃそうさせてもらおうか、速歩っ!」
ドカッ!
ミネさんを捕まえていた男の顔面が陥没して崩れる。
「ミネは向こうへ行ってろ」
「うん」
あれ? あれあれ?
ミネさん、さっきまで助けて顔だったけど、急に普通の顔に戻っちゃった。
しかも、そそくさと用意した紐で、倒れている人を縛り始めているし。
なんか、違和感しかない。
「さて、お前ひとりだが、どうなると思う?」
「……降参だ。ここは、おとなしく引き下がろう」
「なんだそりゃ? お前は襲撃した相手を見逃したことがあるのか?」
「い、いや……」
「それで?」
「あ、許してもらう訳には……」
「いかんな、残念ながら。お前には死んでもらおうか」
「たすけ……」
「歯、食いしばれー! 剛拳!」
ドゴーン!
野盗さん、顔面にウェノパンチをくらい、前歯が吹っ飛んだようだ。
なんだろう……茶番に見えてくる。
「さて、終わったな。ミネ、危ない役を押し付けて悪いな、怪我は無いか?」
「大丈夫よ。ウェノさんがやらなかったら、自分でやってたわ。ブルさん、こいつらどうする? 一応、紐で縛ったわ」
「ああ、放置もできん。運ぶ算段を立てよう。カラム、肩は大丈夫か?」
「ん? こんなの、かすり傷だよ。でも、うまく嵌ったな、野盗さん達……ククッ」
なにぃ!
なんか、ブルさんたちの計画的犯行のように聞こえるが……?
俺だけがダマされている?
俺は、たまらず小窓から叫ぶ。
「ちょっと、皆さーん! 分かるように説明をぉ!」
「まあまあ、落ち着けって」
「ウェノさんまで……これは計画だったの?」
「ああ、それは俺が説明しよう」
ブルさん、説明しようってなんだよ!
そんな事、俺にも言っといてよ、危うく出るところだった。
「もう、怖かったのにぃ……」
「ただ、それよりも先に、イロハが聞いた子供か女性の声の主を助けないとな」
「ブ、ブルさぁん……」
ちゃんと、俺の意見を聞いてくれていたんだね。
とにかく、ダマされはしたけど、問題なく野盗を撃退したから良しとするか。
野盗たち六人の捕縛は完了した。
ミネさんがきっちり丈夫な紐で結んでいる。
そして、野盗が乗っていた客車の前に来て、ブルさんが扉を開く。
中には、十歳くらいの少女が怯えながら蹲っていた。
対応はブルさんに任せて、皆は道に落ちている武器なんかを集めている。
「おい、娘。大丈夫か?」
「いやー! もう、いやー!」
「おいおい……もう、野盗は倒したぞ。安心してくれ」
「いやー!」
「……ミネ、交代だ」
ブルさんたまらず、ミネさんと交代。
分かるわー、ブルさんの第一印象は「怖い」だ。
絶対、野盗の親分と思われてるだろ、これ。
ミネさんに交代してからは、会話もスムーズにできているみたいだから良かった。
しばらくの間、少女と野盗たちをどうするのかの話し合いをしていた。
……俺は、蚊帳の外なんだけどね。
話し合いの結果、ウェノさんが御者で俺、カラムさんが御者でミネさんと少女、野盗が乗っていた客車を、ブルさんが御者で野盗の詰め合わせの三台で進むことになった。
ただし、ブルさんが御者をする走獣は、コリトーという遅い種類になるため、全体の速度は大幅に落ちることになる。
これより、野盗の仲間の襲撃も視野に入れた移動となるため、昼食休憩は挟まず、トイレ休憩のみを速やかにとるという流れに。
干し肉などの簡単な食事を、各自が客車の中で済ます。
干し肉は、塩辛いだけであんまり美味しくないし、移動中のため食も進まない……スーパーにあるビーフジャーキーとは天と地ほど違う。
日が高いうちに、できるだけ進むというザックリしたプランで突き進む。
距離は稼げるが、日が暮れるまでに上手いこと野営地店へ着けるのかというデメリットが存在する。
高速道路のサービスエリアが野営地点、パーキングエリアが休憩所のようなもの。
ただし、夜は走れないという条件が付く。
もし、道上で夜を迎えてしまったら、停車して客車で朝まで待機という感じだ。
日の出とともに動き出さなければ、通行の邪魔になるので、いろいろと気を使うのである。
非常に退屈。
時間を意識すればするほど、実際大して進んでないことが多い。
最悪のことを考えて、無理やりにでも寝ておくか。
……まぶたの中で目が開いている感覚。
さっきの襲撃で、気持ちが高ぶって寝られない、横になって目だけでも閉じておこう。
◇◇
外は日が傾いている……。
綺麗な夕焼けなんだけど、客車が止まる気配はない。
今日の襲撃の顛末もまだ聞けてないので、不完全燃焼気味。
あの少女は、さらわれたんだろうか?
この先、野盗とは何回も出会うんだろうか?
俺は、王都まで行く事を、東京さ行く! みたいなノリで軽く思ってたが、危険が多くて命がけ。
せめて安全な移動手段が欲しいところだ、完全武装で夜も走れて自動操縦みたいな。
もう、王都にたどり着いたら、戦闘に自信がつくまで絶対に帰れないや。
強化という特性は、どうやら特殊のようで、自分的には当たりと睨んでいる。
今までは、大々的に訓練ができなかったが、王都ではやれるだけやってみようと思う。
そろそろ、外も暗くなってきたようだけど、大丈夫か?
「イロハ、起きているか? 次は休憩所でも止まるからな」
「はーい」
幸い、暗くなる前にギリギリで休憩所に到着。
野営はできるのか?
結果、夜は二人組で警備をし、食事は各自パンや干し肉で軽く済ます。
客車で休憩し、日の出とともに出発となった。
野盗を捕らえているので、極めて危険な野営となる。
先警備組は、ブルさんとカラムさん。
後警備組は、ウェノさんとミネさん。
寝る時に、ミネさんがいたほうがいいだろうと、少女に配慮した形だ。
俺は、当然寝すぎて寝られない。
ということで、気になっていた事を聞きに行こうと思う。
俺の客車は対面で二人寝ることができるため、向かいにはウェノさんがお休み中。
「ちょっと、ブルさんのとこ行ってきます」
「……おう」
静かに、外へ出た。
「ブルさん、今日はありがとうございました」
「ん? イロハか。悪かったな、内緒にして」
「いいんです。でも、次はちゃんと教えてくださいね?」
「ああ。それに、あれはそんなに難しい事じゃない」
「でも、ミネさんが捕まった時はヒヤッとしましたよ。カラムさんとか怪我してたし、大丈夫なの?」
「問題ない、気になるなら向こうにある野盗の客車を見張っているから、行ってみるといい」
「いえ、先に聞きたいです」
「そうだったな。まず、戦力的に野盗六人程度なら余裕で勝てる。しかし、イロハが言う人質がいる場合、見殺しにするしかなくなる」
ちゃんと、俺の話も聞いてくれたんだ。
「余裕だったんだね……」
「万が一、イロハの客車に特攻されるのも困る。だから、ミネに捕まってもらい人質役をしてもらった」
ミネさんが人質になることで、少女や俺を人質にする必要がない、ということか。
それって、代わりにミネさんが危なくない?
「うん……」
「俺らは、できるだけ敵を無力化し、二、三人くらいになれば、敵は人質交渉をするはず。しなければミネは拘束を解いて敵を始末し、残りを殲滅」
「そんな簡単に……」
「交渉に入ったら俺が話して、ウェノさんとミネが隙をついて、同時に無力化する……予定だったが、ウェノさん一人で十分だったようだな」
だから「二人同時に声を掛けるまで出るな」という予防線が張られていた訳か。
「なーんだ、そんなに余裕があったんだ……焦って損した」
「まあ、あの程度なら、俺とカラムでも十分だ。ウェノさんなら一人で片付けるんじゃないか?」
確かに、ウェノさんなら一人でやれそうな気がする。
冒険者が強いのか、野盗が弱いのか……。
「ミネさんって、あの状態からどうやって抜け出すつもりだったの?」
「ん? 知らんな。どうにかするだろ、あのくらい」
そんな適当な。
でも、信頼があっての人質なんだろうけど。
「相手は短剣を首だよ? 何かあったら危ないと思うけど」
「イロハよ、お前はミネがか弱い女とでも思っているのか? 敵に近づいた状態だったら、青の盾で一番強いぞ?」
げげっ、超近接戦だと一番強い?
何か、合気道とかの護身術でもやっているんだろうか。
「えっ! そうなの?」
「あのな、俺らは護衛が受けられる冒険者だ。野盗と出会う度に命なんてかけるわけ無いだろうが。勝てるなら戦う。分からないなら逃げる。戦うしか無いなら確実に勝つ方法を取る。簡単だろ?」
言うほど簡単じゃないとは思うけど、この人たちなら簡単なんだろう。
いろいろ気をつかってくれて、感謝だ。
「うん。でも、今回は僕が言ったことで不安要素にもなったわけで……ごめ、いや、少女まで助けてくれてありがとう!」
「む、別に……まあいい。そろそろ、野盗に食事を与える。まだ寝ないのか?」
お!
ブルさん、ちょっと照れてる……貴重だ。
「うん、まだ眠くない」
「明日は早い、寝といたほうがいいぞ? では、俺は行ってくるぞ」
行っちゃった。
目の前の焚き火を見ながら、ボーッとさっきの話を考えていた。
この世界の人は、命に対する危機感をしっかり持っている……俺も、平和ボケしていられないな。
野盗の客車を少し離れたところで見ていたが、ブルさんが質問し、黙秘、黙秘……といった感じで何も食べない。
事情聴取はうまくいかなかったようだ。
干し肉程度ではね、せめてかつ丼を用意しないと。
しばらく眺めていたが、もう何もなさそうなので、寝ることにした。
ガサッガサッ
ゴトゴト
……物音で目が冷めた。
少し眠れたようだが、まだ外は暗い。
目の前にいたウェノさんがいない、交代したのかな?
外に出てみるか。
ん?
慌ただしく、ミネさんが動いて周りを警戒している。
ウェノさんはいないな。
焚き火の前には、手足を縛られた野盗全員が転がっている。
どういう状態だよ。
「どうしたんですか?」
「野盗が一人逃げたのよ。ウェノさんが捕らえに行ってる、イロハは客車へ早く戻って!」
「はいっ! なんか良からぬことが起こったみたい……」
急いで戻ろうと後ろを振り向き、ギョッとする。
【移動経路】
ゴサイ村⇒ネイブ領モサ⇒ネイブ⇒ネイブ領ペイジ⇒
次の経由地:ウエンズ領ベガ
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