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四十七話 傾蓋知己(けいがいちき)

毎日一話を投稿しています。

 ネイブを出発して、次の町ペイジを目指している。

 客車の配置は、前方が護衛の客車、後方が俺の客車となった。

 移動の際は、途中で数回の野営もするため、それぞれにある程度の食糧を積んでいる。


 すでに退屈な風景となり、寝たり起きたりの繰り返し。

 せめて、出張で散々お世話になった推理小説でもあれば、退屈を凌げるんだけどな。


 たまにある休憩だけが唯一の楽しみ。

 休憩はトイレタイムと食事タイムがあり、野営は朝までという具合だと聞いた。


 

 しばらくしたら、休憩地点に到着したようだ、今度は食事タイム。

 揺れで膀胱が刺激され始めていたのでちょうどよかった。

 

 複数人の旅行って、最初のうちはトイレのタイミングがなかなか合わないからなー。

 俺は、多少の我慢で合わせていくスタイルだから、たまにやばい時がある。


 サウロ号たちは、道から少し脇に入ったところの専用の大木に客車ごと繋いで、みんなが降りてきた。

 道行く人々が使い込んでる感じもあるし、通行の邪魔をしないように少し開けている。


 ウェノさんとブルーシスさんは、近くの川で水汲み、カラムさんとミネさん? は、食事の支度をしている。


 俺は、何をすれば……。


 まだ、ブルーシスさん以外とまともに話してはいない。


 やることもなく、何も言われないので、筋トレくらいはしようかな。

 九歳で腹筋がうっすら割れている……大丈夫かな? 俺の身長。



 水汲み部隊も戻ってきて、みんなで準備しているのを眺めている。

 サウロ君、水をがぶ飲み中……あんだけ走ったんだ、た〜んとお飲み。

 

 恐竜みたいに厳つい体のクセに草食なんだ……モッサモッサと何かの草を食っている、た〜んとお食べ。

 

 これ、仲間外れ感が半端ない。


 なんか無いかな……薪とか集めてみるか?

 ブルーシスさんに聞いてみよう。


「あのー、僕、やること無いので薪とか集めてきましょうか?」


「あ、ああ。イロハ君は、護衛対象だから、そんなこと気にせんでもいい」


 ……君呼びになっている。


「でも、すぐ近くならいいでしょ? ちゃんと見えるところにいるから、ね?」


 諦めません、やるまでは。


「う、うむ。ウェノさん、どうかな?」


 ブルーシスさん、たまらずウェノさんへパス。


「イロハ君。その木からあの木まで、奥はあの岩があるところまで、これでどうだい?」


 そう言ってウェノさんは、紐を投げ渡してきた。


「わかった! 行ってきます」


 さてさて、薪いっぱい拾うべ。

 体を動かしたくてウズウズしていたから良かった。


 ひょいひょいひょいっと、両手に持っては目印の岩へと運んだ。


 おっと、なんかグレーの丸っこい鳥が歩いている。

 あれ、食べられるんかな? 真っ先に考えることがコレだ。

 ちゃんとこの世界に順応してしまったみたいで何よりだ。


 意外とデカい、俺と同じくらいの大きさだ。

 短剣でやるか、石投げでやるか。


 石だな、短剣は近づく必要があるし、刺しても死なないかもしれん、危ないことはやめておこう。

 

 できるだけ大きな石は……あった!

 レンガくらいの石発見! 重っ、これなら当たるだろ。


 身体強化で、狙うは頭。

 えーい、石投げっ!


 ゴトッ!


 見事なヘッドショット……とは言えないが、思った以上に頭を吹っ飛ばしてしまった。


「なんの音だっ?」


 速っ! ウェノさんが走ってきた。


「あの、鳥がいたんで石を投げたら当たっちゃって」


「ん? こりゃあダチョルか。しかし……これ、イロハ君がやったのかい?」


「ええ、身体強化は使えますので、夜ご飯にどうかな? なんて。ハハハ」


「いやはや、流石はルーセント様の息子さんだ。ダチョルは、私が持っていきましょう」


 別に怒ってなさそうで良かった。

 僕は、薪を集めてウェノさんに付いて戻った。

 あの鳥、ダチョルと言うのか……ダチョウと、ル、ル、なんだろう。

 

 ウェノさんが、みんなに獲物を紹介したらワッと盛り上がった。


「こりゃ、ごちそうだな。ありがとよ、イロハ君」


 カラムさんが、僕にお礼を言ってさっさと血抜きを始めている。

 その間に昼食となった。


 ワイワイと話す感じではなく、先の予定とかを個別に話している……僕以外で。


 疎外感という味付けもあり、あんまり美味しくないよくわからんスープで、硬いパンを流し込む。


 これは、環境改善が必要だ!

 こんなお坊ちゃま扱いは勘弁してほしい、気疲れが半端ない。


 よし、提案しよう!


「あの、ちょっと良いですか?」


 まずは、ブルーシスさんだな。

 

「どうか、したか?」


 硬い……さっきのパンより硬い。

 あの時の荒々しいブルーシスさんはどこへ?


「できれば、いつも通りに接してもらえないかと……」


「そ、そんなこと。いつも通りだが」


 なんか、みんなに注目されてる。

 まあ、ちょうどいいか。


「いえ、これは皆さんにも聞いてほしいです。これから、長い旅になります。少しでも皆さんと気楽に過ごしたいと思っています。父が、王都で何をやらかしたのかは知りませんが、父は父、僕は僕です。お願いですから、気を使わずに楽しくいきましょうよ」


 しーん……やっちまったか?


 突然、ウェノさんがパチパチと拍手して、話し始めた。


「いや〜そりゃいい! イロハ君はわかっているな。ルーセントが突然、息子を王都につれていけ! 大事に扱えよ! なんて言うもんだから、ついかしこまってしまったよ。青の盾だったか? 皆さんも、依頼者がこう言っていることだし、ね?」


 ウェノさん、とんだ猫かぶりさんだったか。

 それに『青の盾』?

 流れ的にパーティ名っぽいけど、聞いていないんですが。


 話を振られたブルーシスさん、考えるような素振りを見せたが、ようやく向き直って答えた。


「わかった。青の盾は、依頼主に従いいつも通りにやる。皆、いいな?」


「わかったわ。私は、ミネウネール。ミネとでも呼んでちょうだい」


「リーダーに従う。俺は、カラムでいいぞ。さっきのダチョル、俺が捌くから、夜飯は楽しみにしてな」


「ブルだ。丁寧な言葉は慣れないんで助かる。おかげで気が楽になった」


 後は、父さんの事だよな。

 もう一声か。


「イロハと呼び捨てでいいですよ。冒険者の話も聞きたいですし、迷宮とか、狩猟とか、捌き方とか、気になってしょうがないです。もちろん、守ってもらっている間は、皆さんを悪く言う事はありません。お約束します!」


 どうだ!

 ええ条件やろ?


「いいぞ、イロハ君、いやイロハ。ルーセントには勿体ないくらいだ。守り守られの関係だからな、気軽に話せるくらいが丁度いい。子供がここまで言ったんだ、ルーセントにバレなきゃいいだろ?」


 そうだ、そうだ。

 真逆の雰囲気を発揮中のウェノさん、流石です! わかっていらっしゃる。


 さあ、どう出る? ブルさん。


「あー、イロハ。いつも通りでいいんだな? 荒っぽい言葉を使うが、仕事はちゃんとやる。ただ……頼むからルーセントさんには上手く言ってくれよな」


 プッ……おもろい。

 父さん、よっぽどやらかしてるよ、これは。


「はい、お任せを。呼び捨てにされたーとでも言っておきます」


「おいおい。そりゃあねーだろ!」


 ハハハと笑い声が響き渡る……こういうのだよ、いい雰囲気だ。


「冗談ですよ。でも良かった、聞いてもらえて。この先の旅が楽しみになってきました」



 片付けも終わり、カラムさんも捌き終えたみたい。


 ウェノさんが、おもむろに提案する。

 

「じゃ、そろそろ出発するか。ブルーシスさん、イロハの相手なんてどうだい?」


「何だって? ああ、なるほど。いいかもしれんな。イロハ、そっちの客車に移っていいか? 本当は、誰かが付いていた方がいいんだ」


「いいよ。じゃあ、道中にいろいろ聞いていい?」


「俺が知っていることならな」


 そういう訳で、先頭がカラムさん、ミネさんの客車。

 後方が、ウェノさん、ブルさん、俺の客車。


 さて、出発だ。

 


 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ領モサ⇒ネイブ⇒ネイブ領ペイジ

 次の経由地:ウエンズ領ベガ

読んでいただきありがとうございます。

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