百十九話 ご紹介
不定期投稿です。
週に1~2回の投稿をしています。
◇◆◇◆十二の月五週三日◇◆◇◆
いよいよ、年末だなあ。
この時期は、だいたい年内の仕事に追われてあっという間に大晦日……そんな時期だ。
あんなに使用していたワード「良いお年を……」が懐かしく感じる。
村にいた頃は、特にお祭りみたいなものはなかったと思うが、王都ではちょっとしたお祭り状態になるらしいと、グリフさんが言っていた。
十二の月最終日の翌日から一週間は、仕事が休みとなったり、日本的に言えばお正月休みという感じだ。
大通りには、店もたくさん出るらしい。
広場みたいな各スペースでは、各地より集まってフリーマーケット場となるようだ。
まさに蚤の市と言ったところか。
フリーマーケットのフリーは自由という意味だとずっと思っていたが、昆虫のノミの事を指すと知ったのは大人になってからだったなぁ。
自由市! と言って恥をかいた覚えがある。
各地より集まってくるわけだし、なんか面白い魔道具とかの掘り出し物が無いかな?
街全体が、慌ただしく感じる。
特に商業地区は、荷車がたくさん出入りしている。
人が出入りすることで、警備も強化されることだろう。
いよいよ王都は、お祭り準備へと入るようだ。
こういう日は、のんびりと読書へ没頭するに限る。
確か、ここに魔道具の本が……あったあった。
コンコン、コンコン
「イロハ君は、いるかい?」
暇だから、宿屋のおばちゃんにもらった魔道具の本を読み始めようとしたら、誰かが扉を叩く音がする……。
扉は、あの事件の後、十五万ソラスをかけて立派な物に生まれ変わっている。
特注の小さなドアノッカーも忘れずにお願いした。
壊れたドアノッカーを見本に渡したら「どこで作られたものだ?」としつこく聞かれたっけ。
こちらでは、あまり見ない大きさらしい。
そんなことより、誰だろうか? 上からそっと覗いてみると……グリフさんと男性と女性二名が扉前で待っている。
うーん、なんか約束していたっけ?
「こんにちは、グリフさん」
「いてくれて良かったよ、イロハ君」
「今日は、どうしましたか?」
「後ろの二人を紹介しようと思ってね……」
そう言って、手を広げて両斜め後ろを指し示す。
良かったら落ち着いて話をしよう、とでも言いたそうな目で訴えかけている。
「そうでしたか。では、中へどうぞ」
実は、余ったお金で二階のひと部屋を応接室にした。
「おお、立派な部屋を作ったね。有効利用してくれているようで、何よりだ」
あー! 忘れてた。
家賃の件、ここで話してもいいものか……でも、約束は約束だもんね。
「いえいえ、こちらこそお安い家賃で助かります。えっと、家賃と言えば……」
「ああ、ここの家賃だね? 約束通り、無料で使ってもらって構わないよ。契約も成ったし、我が商会にも貢献してくれた。感謝しかないよ」
さすが、しっかり察してくれる。
話が早くて助かるよ。
「本当ですか!? じゃあ、今月分だけでいいんですよね?」
「今月分も不要だよ。実はね、最初から結果はどうあれ、無料で使ってもらう予定だったんだ。君が警戒するだろうからそうしたんだよ」
む……裏は無いよね?
「……待遇が良すぎませんか? グリフさんは、商人でしょうに」
「私はね、何度も言うが人を見る目だけは自信があるんだ。イロハ君としっかり関係を築いておきたい……その、必要経費だよ」
そんな笑顔で言われたらなぁ。
人の好意をあまり疑うのは良くないよな……。
「そういうことなら、遠慮なく使わせて頂きます」
「まあ、好きなように使ってくれて構わないよ」
どんな部屋にしようかな?
あ、後ろの二人を放置で雑談してしまった。
「そう言えば、紹介したい人ってそちらの二人ですか?」
「この度、開拓村へ……いやゴサイ村への物資の供給などが決まったので、責任者を紹介しようと思ってね」
「いよいよですね。お陰様で、ゴサイ村の生活が向上するかもしれません。ありがとうございます」
何も無い田舎村だったから、王都の物資がたくさん来ると見違えるかもしれない。
「まあ、こちらも算段があっての事。できるだけのことはやるつもりだよ」
お人好しな人だ。
後は、鉱石の情報は得ているのかな? 気になるので探ってみるか。
「向こうからも何かを持ってきたりするんですか?」
「今のところ、あまり大々的にやるつもりはないが、木材の需要が上がりそうな話もあってね……そのうちはってところだよ」
村の資源にはあまり興味がなさそうだ。
開通後は、行き来が盛んになるだろうね。
「運ぶにしても、王都に近いところがいいですもんね」
「そういうわけで、その物資の管理と出荷を担当することとなった、セキショウとジュリーンだ。今後は、倉庫へ出入りすることになるので、顔合わせという話だよ」
「セキショウさん、ジュリーンさん、イロハと言います。よろしくお願いします」
「セキショウです。主に在庫管理、出荷を担当します。団長様のご子息という話は聞いております、今後ともよろしくお願いします」
三十代といったところか。
堅物な印象で、真面目そうな方だな。
「ジュリーンです。親しい人からは、ジュリと呼ばれています。倉庫の管理を担当します」
うーむ……濃い茶髪で肩までのセミロング、細身の二十代に見えるけど、どうなんだろう?
目元がキリッとした顔立ちだけど、無表情といった感じだ。
美人の部類だろうけど、とっつきにくそう……。
「準備が遅くなって申し訳ない。この間の話は聞いている……闇商会の報復未遂があったそうだね? 今後、そのような輩が襲ってこないよう、警備面も強化するので安心してほしい。何かあれば二人に相談してくれて構わないよ」
未遂? 既遂ですけどね。
実際、毒をもらっちゃってます。
闇商会が情報操作をやったかな? 正しく伝わっていない気がする。
「はい、ありがとうございます」
「こう見えて、ジュリーン君はそちらの方面では特に力になってくれると思う。わざわざ引き抜きまでして……」
「副会長、私の事はその辺にしておきましょう」
んん?
引き抜き……そちらの方面?
ジュリーンさんは、警備担当って事?
線の細そうな感じなんだけど、荒事が得意なのかな。
「あ、ああ。必要な物資の打ち合わせをするために、ゴサイ村から団員の方が来られるそうだから……イロハ君、最初の時の紹介をお願いできるかな?」
団員が来るのか……誰だろう。
「ええ、それはもちろんさせてもらいますよ。誰が来るんですか?」
「そこまでは聞いていない……が、開拓団員にとって私の印象があまり良くないのではないかと不安でね」
あー、レクスさんの件があったな、女を紹介しろとかなんとか……。
「大丈夫ですよ。あの人は、問題児ですから。父さんが決めたことに反対できる人は、団員にいないと思います」
「ハハハ、心強い言葉をありがとう。では、早速準備に取り掛かるので、私たちは倉庫の方へ行くよ」
「はい、ご紹介頂きありがとうございます」
グリフさんたちは、倉庫の方へと向かっていった。
通りの方に、数台の客車……もはや貨物だな、かなりの量をストックしておくようだ。
物資は潤うかもしれないけど、名産物みたいなものが無いと一方的な援助になりそうだなあ。
◇◇
魔道具の本。
だいたい読み終わったんだけど、仕組みがよく分からない。
魔道具の研究が盛んな国は、マジスンガルドってことくらい。
そこで学ぶ方が早そうだ。
不思議な便利道具……興味が尽きない。
分解しても分かんないだろうなー。
昔から家電をいじるのが好きだったし、趣味でパソコンを自作するくらいはやってたから、自分でも作ってみたい願望が……。
まもなく十歳か。
転生? して十年。
いろいろ考えてみたが、記憶だけがこの世界へやってきた……これが一番しっくりくる。
やってきたからには、向こうへ行くことも出来るのでは? と、思ってしまう。
魔道具とスキル。
この不思議な道具と力でどうにかならないものか……。
まあ、その前に学校だな。
しっかり学んで、世界のことを知り、出来ることと出来ないこと、不思議な力のことなどを明らかにしていくことが大事だ。
あまりにも文化が違いすぎるし、子供の身では、情報を集めるのも限界がある。
一歩ずつ地道にやっていくしかない。
そう言えば、闇商会との件は解決したんだけど、依頼者についてはハッキリせず、解決していないのでは?
確か、ラジブラク商会と言ったっけ?
ビスローブ商会に出入りしているとかなんとか。
結局、実行犯の闇商会だけしか分からず、これで解決したことになるのか?
納得がいかないけど、特に何かあるわけでもないし……。
グリフさんも、警備を強化してくれるって言っていたし、大丈夫……かな?
お腹が空いたし、何か作るか。
ボチボチ、また魔力塊の補充に行かなきゃいけない。
水の魔道具を使って、プチお風呂を作ってみたけど……一回で魔力塊が灰色になってしまった。
お湯を大量に生み出す魔道具は厳しそうだから、水を温める魔道具とかどうかな?
どっちにしても、魔力塊の消費が激しくなるだけか。
やっぱり、予備の魔力塊が欲しいな。
いや、いっその事、自分で充填できるような方法が無いものか。
抽出技術が知りたいな……。
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