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幕間十七話 ルーセント:昔話

 ◇これは、ルーセントが王都へ向かい、王都滞在中のルーセント側の話


(ルーセント視点)

 


「ウェノ、今どのあたりだ?」


「もうすぐ、ウエンズへ着くところだ。だいぶ途中をすっ飛ばしてきたからな」


「ウエンズか。そろそろ、イロハとの旅の話でも聞かせてくれないか?」


「アイツとの旅? そうだな……あの悪名高いルーセントの子だろ? みんな気を遣ってな、最初は腫れ物を扱う感じだった。それが、いきなりダチョルを捕まえてきて、これでも食って仲良くしよーぜみたいに乗せられたっけ」


「なんだ、それ?」


 イロハは、何やってんだ?


「十歳の子供が……今思えば、何だったんだろうな」


 話術に乗せられた感じか、口が上手いからな。

 護衛もちゃんと選んだから、大丈夫だとは思っていた。


「青の盾を護衛に付けたのは、良かったようだな」


「確かに、あの連中は気のいい奴らで、真面目だったな。野盗に襲われた時も冷静だったし……」


 野盗だと……?


「襲われたのか? 聞いていないぞ」


「言うわけないだろ、そんなこと。でも、余裕で対処できる相手だったからな、何も問題なかったぞ?」


「この辺は、まだまだ治安が悪いからな……まあ、お前がいれば野盗くらいどうとでもなるだろう」


「それで、アイツは何をしたと思う?」


「……なんかしたのか?」


「野盗を縛る紐を固くしやがった。俺でも切れないほどにな」


 あのスキルを使ったのか……信頼したってわけか。


「必要を感じたんだろう。あまり言いふらしてくれるなよ?」


「言うわけないだろ! あんな、希少なスキル」


「だよな。どうなってんのか、俺にもわからん。青の盾も知っているんだな?」


「そりゃあな。でも、あの連中は、必死でアイツに人前で使うなって諭していたぞ」


「ふむ。いいパーティだ」


「ルーセント、アイツは好奇心を抑えられない病気だぞ? 行く先々で人と仲良くなったり、アレしたいコレしたい……どうなってんだよ」


 俺に言うなって……。


「それは……前からそうだった。イッカクグマと戦ったりしてるからな。本当、どうなってんだよ」


「父親が言うなよ!」


「お前が言うなよ!」

 


「あー、そろそろ着きそうだ」


「今日は、飲むか!」


「ああ、そうだな。どうせ泊まるからな」



 ◇◆◇◆数日後◇◆◇◆



「なあ、今どのあたりだ?」


「そろそろミッドだ。ルーセント、暇なのか?」


「暇だ。やることがなさすぎて、時間を持て余す」


「じゃ、昔話でもしようか。ルーセント、結局、あの事件がきっかけでネイブへ帰ったのか? ずっと気になっててな」


「あの事件って、あのクソガキを締め上げたことか?」


「ああ、俺があのクソガキの素行にもう少し早く気づいていれば……」


「いや、アレがきっかけじゃないぞ? まあ、冒険者を痛めつけたり、商会を潰したりしたからな。騎士団で居心地が悪くなったのは確かだがな」


「じゃ、何でネイブへ帰ったんだ? 俺が王都を離れた隙にいなくなっただろうが」


 確かに、あの時期はウェノも王都にはいなかったな。


「実はな、ラシーンは知っているな? アイツの父親のカールさんが亡くなって騎士団を辞めたんだ」


「ラシーンって、ネイブ領主だろ? カールさんって、あの豪傑カールさんか?会ったことあるぞ? 熊みたいにデカい人だったな」


「そう、そのカールさんから、ラシーンが領主になったら力になってくれっ言われていたんだよ」


「ルーセントは、義理堅いんだな」


「まあな。カールさんは、子供の頃からお世話になっていたし……正直、あの人が獣に襲われて亡くなると思えなくてな。ラシーンも、その事故のことを調べていたんだ」


「確かに、獣ごときにやられそうに見えんな……」


「そして、ラシーンが集めた情報から、多くの矛盾が出てきた。それを聞いて、二人で真相を……と、そんな流れで騎士団を辞めたんだ」


「で、分かったのか? 真相は」


「いや、結局は分からなかった……。でもな、カールさんが亡くなる直前にやろうとした事、つまりあの土地の開拓だ。これに何かあるという結論に達したわけだ。まあ、ラシーンが言うにはな」


「なるほど、だからいきなり開拓団長なんかやることになったのか。どうりでおかしいと思ったんだよ、あのルーセントがそんな面倒くさい事、やるわけが無いと」


 俺は、そんな風に見えてんのか?


「悪かったな、あのルーセントで。結局、まだ真相にはたどり着いていないが、カールさんがただの事故で亡くなったわけではない事は分かった。そして、あの開拓事業にも何か関係している」


「……それって、ルーセント自身もヤバいんじゃないのか?」


「そうだな。俺を含めて、家族を危険に晒しているのかもしれん。ステラには、ネイブか他の街へ移れと何度も言ったが……聞き入れてくれなかった」


「そりゃ新婚だしな……そういうもんなんじゃねーのか?」


 それもあるが……。

 子どもを望んだからだもんな。


「まあ、ステラをどうこうできる奴がいるとは思えんが、イロハができてしまったからな」


「ああ、あのミコタン様とかの恩恵でってやつだろ? アイツは、神様かなんかが宿っているんじゃねーの?」


 俺も、そう思ったことがある。

 他人とどこか違う感性……我が子ながらどんな大人になるんだろうと思ってしまう。


「イロハが、王都へ行ってくれて良かったよ。ステラもリアムも一緒に行けば……」


「思ってもいないことを言うなって。それに、今の開拓団に喧嘩を売れる集団といえば、騎士団くらいしかいねーぞ?」


「そうか? 確かに、団員も厳選したらしいからな、ラシーンが」


「まさに荒くれ集団だな。傭兵のモーリー、怪力バルブ、斧師のハチェット……よく揃えたもんだ。各地の有名人じゃないか」


 各長は、直接打診したらしいしな。


「俺も、最初は知らなかったんだよ。開拓団結成時は、毎日が戦いだった……まあ、俺が一番強かったがな」


「ルーセントを負かす奴なんて、そうはいねーだろ。そんな話なら、絶対に真相を明らかにしないとな」


「三年目までは、頑張って調べたんだが、調べようがないところまで来てしまった。ラシーンも、あきらめかけている……」


 どうにか分からんもんかな……。


「開拓を続けりゃ何か分かるかもしれねーな」


「ああ……」



 ◇◇



「ここは、相変わらずだな。まだあったのか、ミッドロウ地区」


「何も変わらんさ。ネイブ領主みたいな思い切った政策を立てる領主なんていないからな」


「補給したらすぐに出るんだろう? 行こう!」



 ◇◆◇◆王都へ到着◇◆◇◆



「やっと着いたな。遠すぎるぞ、王都は」


「だから、開拓なんてやっているんだろ?」


「そうだな。さあ、早くイロハのところへ行こう!」


「……家を知らん」


「おい! ウェノ! そりゃ、どういう意味だ?」


「いやー、急いで出たもんでよ、家の場所を聞いてねーんだ。でも、問題無い。クリニア商会が知っているはずだ」


 コイツは……肝心な所が抜けてんだよ!


「……頼むぞ」



 ◇◇



 イロハと合流し、状況を聞いた……誰なんだ、目の前にいるイロハに似た生き物は。


 俺の知っている息子じゃないぞ?


 とても子供が出来る話ではないし、発想や言葉……難し過ぎて俺でもよく分からん。



 村では隠していたのか……。

 スキルといい、知識といい、我が子ながらとんでもないぞ、コイツは。


 策を弄して俺を王都に呼んだ……一体誰に似たんだろう。

 

 そう思う反面、我が子の成長はと嬉しいものだな。

 

 学園に合格し、大人顔負けの知識と話術、どんな大人になんるんだろう、楽しみだ。



 今日は、息子の成長が見られてめでたい日だ。

 たらふく飲んでやる! いいよな、今日くらい……なぁ、ステラ。

 


 ◇◆◇◆クリニア会談当日◇◆◇◆



 どうやら、招かざる客が来たようだ。


 イロハは出るなと言ったが……そろそろブチ切れそうだ、舐めやがって。

 槍があれば、火炎槍で骨まで焦がしてやるところだが……生憎、持ってきていない。


 ウェノは、何で殴らないんだ?

 護衛だろ、早くやれ!



 くぅー!

 もう我慢できん! と、出ていったら、さっさと引いていきやがった。

 ベンモ……ビスローブ商会の奴か。


 まあ、いい。

 これで、クリニア商会へ行けるだろう。



 ◇◇



 なんというか、非常に退屈な時間だった。

 

 話の内容も分かりはするが、参入なんて、勝手にやってくれればいいものを……俺が? 何で許可なんてしなきゃならないんだ。


 途中で、どうでもよくなってイロハに振ってみたが、小難しい話をしていたな。

 どこで覚えたんだか。



 まあ、いろいろと話し合ったが、どうやら……俺は、領主になるらしい。

 これも、ラシーンの筋書き通りってか? あの野郎、前もって言ってくれればいいものを……まあ、そんときゃ断っていたか。


 グリフさんは、投資と言っていたな。

 ベンモさんは、支援と言っていた。


 うーん……投資と支援は、何が違うんだろうか?



 商会のことは任せられるが、それ以外のことで忙しくなりそうだ。

 村へ帰ったら、ラミィへ引き継ごう……。



 イロハの家へ帰った時、生意気なウェノが、喧嘩という名の試合を求めてきた。


 懲りないやつだ。

 これまでの鬱憤に、今朝のアイツら……発散させてもらうとしよう!


 いざ……!



 ◇◇



 試合結果は、互角……いや、俺の方が二発多かったはず。


 俺とウェノは、あの事件以来、試合と言う名目で、戦うことにしている。


 スキル無し、武器無し、制限時間無し。



 試合を終えて、部屋へ戻ろうとすると……イロハがステラに見えた。


 俺には似てくれなかったようだ。



 そして、不思議な体験を……。


 イロハが、試合の傷に触れると……泡が出てきた。

 なんでも、傷が治るスキルの効果だと言っていたが、そんなもの聞いたことがない。


 ウェノも初体験のようだ、

 相当ビビっているな……笑えるぞ、プハハハー。


 まあいい、元々イロハにはよく分からない特性やスキルがあった、今更だ。

 

 傷が治るなんて……まるで、治癒術じゃないか。

 しかし、あれはこんなに泡が出ることはない。

 しかも、異常に高い……騎士団時代は世話になったが、今の収入じゃ依頼できんな。



 さて、目的の会談も無事終わったし、今日は、とことん飲んでやる!


 まだまだ酔いも浅い、よし!


「ウェノ! さっきの試合は、決着がつかなかったが、今度は飲み比べだ!」


「おー! いいな、飲み比べ。どっちが先に潰れるか……いくぞ?」


「「乾杯っ!」」


 一杯目は、一気に片付ける……そして……あれ? おかしいな、なんか……急に…………酔が回った?


 ウェノも、フラフラしているじゃな……いか………………グゥ……。



 ◇◆◇◆翌日◇◆◇◆



 くっ、いつの間にか寝ていたか。

 どっちが先に潰れたんだ?


 ……飲み比べから、一杯しか飲んだ記憶がない。


 こんなに弱いはずは…………!?



「イロハー! どこにいる! イロハー!」


 イロハめ……あの怪しいスキル、傷を治すと言いながら、酒が回るとか眠らせるようなやつだろ?


 そうだ!

 怪我はどうなった……泡が乾いてカサカサになっている。

 

 ん……?


 治っている……こりゃ驚いた。

 本当だったのか。


 しかし、俺は騙されないぞ!

 どうせ、副作用が眠くなるとか、そんなオチだろう? イロハの事だ、絶対に分かっていてやっているはずだ。

 


 あー、腹減ったな。


 イロハは、どこに行ったんだろうか。

 

 そうだ、体に付いているカサカサでも落としに行くか……皮が剥けているようで気持ちが悪い。



 ステラ、俺たちの息子は、立派に成長しているぞ。

 とんでもないスキルに、本で得たらしい知識、大人を圧倒する話術……。


 俺は、このままいけば領主になるらしいが、イロハは……もっと上まで登っていくんじゃないだろうか。


 ああ、将来が楽しみだ。

読んでいただきありがとうございます。

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