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百十一話 狸は八化け

毎日更新中。

 ◇◆◇◆十一の月三週一日◇◆◇◆


 クリニア商会の件は、父さんの返信待ち。

 トリファは、会えた。

 ポルタは、あっちが落ち着く来月だな。

 ロディも、来月にしか戻らない。

 モーセスさんの件は、コンプリート。

 我が家も生活出来るまでの形はできた。


 後は、何かあったっけ?



 コンコンコン、コンコンコン


 誰か来た。

 実は、二階なので上からある程度見えるのだ。


 見覚えの無い風貌……知らない三人組だ。


「はーい! 今行きます」



「始めまして、ビスローブ商会のベンモと申します。坊っちゃんには、少し力になってもらいたくて訪ねてきました」


 ビスローブ商会!

 王都ナンバーワンの商会だ。

 

 って事は、俺が団長の息子ってのがバレたか。

 俺が危惧していた開拓村争奪戦、いよいよ現実のものになったようだ。


「みなさん、こちらへどうぞ」



「今日、訪ねてきたのは、坊っちゃんのお父さんが行っている開拓事業へ支援をしたいからです」


 ニコニコと、恰幅の良い風体のオヤジさんって感じだ。

 ザ、タヌキおやじ……やね。


「はぁ、それでなぜ僕なんですか? 父さんへ直接言えばいいんじゃないですか?」


「それが、坊っちゃんのお父さんは、開拓事業で忙しく、なかなか決断して頂けない……そこで、君に後押しをしてもらえないかと」


 父さんと会ったんだ。

 きっと警戒したんだろうな……しかし、フットワークが軽いな、王都一と言うのに。


「僕に……?」


「はい。いくら頑……慎重と言っても、ご子息の話は聞くでしょう。どうか、私どもの力になって頂けないでしょうか?」


 今、頑固も言おうとしたよね? ね?


「僕が何か言ったところで、父さんは、仕事のことなら自分で決めると思いますけど……」


「もちろん、そうでしょう。しかし、少なからず効果はあると考えています」


 そんな薄いものにもすがる状況なのか……?


「うーん、学生でもない子供の意見なんて意味がないと思いますし、僕は、あなた方をよく知らないですし」


「ほう、君は、思っていた以上に話が出来る……スレイニアスに合格したのも納得だ。では、王都一の商会が君の生活の支援をしよう。これで、君の利点が生まれる」


 生活の支援……商人界隈で流行ってんのか?

 そんなに不自由はしていないんだけど。


「そこまでする理由を伺っても?」


「ふむ。説明して、君に理解ができるのかい?」


「それは分かりません。ただ、説明も無しに生活の支援をするから協力しろと言われて、分かりました……とはならないでしょう?」


「……それも、そうだな。これは手強い息子さんだ」


「開拓村が、今後重要な拠点となる話なら、聞いたことがあります。他に何かあるのですか?」


「王国を縦断する連絡路、その中心地は現開拓村だ。商売をする者にとってこれほど魅力的な場所はないだろう。これでは足りないか?」


 分かるが……何か引っかかる。

 今、そこまでする理由……少々弱いな。


「それは、王国やネイブ領が持つ権利ではないでしょうか?」


「そういう背景もあるが、恐らく王国は連絡路の事くらいにしか口を出せないだろう、あそこはネイブ領だからな」


 領と王国の関係……うーん、この辺が微妙に分かんないんだよね。


 ……歴史は得意じゃなかった。


「ネイブ領なら、領主へ働きかける方が……」


「イロハ君……でよかったかな? 開拓事業を命じる領主、その大事業を成し遂げた団長。はい、ご苦労さま……で終わることができると思うか?」


 まあ、確かに。

 でも、あの二人は親友? だしな。


「ああ、確かにそうですね」


「そういうことだ。難易度の高い事業ほど、それなりの褒美が必要になる。そこに街があるなら……分かるだろう?」


 中継村……経由街…………中間領。

 父さん、領主にでもなるんかな?


「その商業権を、今のうちにって事ですね?」


「そういうことだ。今のところ、一部の人間しか気づいていない。私たちは、そのために今動いている」


 クリニア商会、ビスローブ商会……まだあるんだろうな。


「分かりました。しかし、そうなると、なおさら僕には荷が重い話ですね。そんなに大事なことは、直接話をされたほうが……」


「イロハ君。大人には大人の事情がある。成功報酬に百……いや、二百万ソラスを出そう! もちろん、生活支援は別だ」


 またこれだ。

 ただもらう金は怖いって。

 

 対価なら分かるが、到底見合うとも思えんよ。


「ベンモさん。やはり、そこまでする理由が、僕には分かりません。商人ですから、それなりの儲けが見込めるのでしょう。でも、数年先の話じゃないですか、まだ、どうなるか分からない事業にそこまでの投資……急ぐ理由が見当たりません」


「これは驚いた。ルーセント団長の攻略が難しいと考えていたが、君はその上を行くようだ。君たち二人は、外で待っていてくれ、イロハ君と二人で話をしたい」


「「はっ!」」


 二人で話す?

 

 何か仕掛けてくるかもしれない。

 スキルか? 物理攻撃か?


 今のうちに、悪意センサーを発動。

 視覚強化!


 色の変化によっては、身体強化で逃げる必要がある。


 洗脳……とか、そんなスキルは無いと信じたい。


「……さて、イロハ君。どこまで知っている?」


 圧が変わった……狸は八化けと言うが、こっちが本性か。


「どこまで……とは、僕は話した以上のことは知りません」


「あの開拓村の価値を知って、吹っかけているのだろう?」


 価値……。

 これは、違和感のあるワードがでたな。

 すでに価値が生まれているかのような言い方だ。


 開拓村に、何があるというんだ……。


「人聞きの悪いことを言わないで下さい。僕がいつ吹っかけましたか? それに、理由が分からないと言ったじゃないですか」


「悪いな。仕事柄、こうやって真意を確かめることも必要なんだ。すべては話せないが、開拓村にはこの先とんでもない価値が付くだろう。言っとくが、この情報を持っているのはうちの商会だけだ」


 この、ベンモさん。

 黄色と緑を行ったり来たりするオーラ……器用だな。

 向こうも、僕を推し量れない感じのようだ。

 敵意は無いだけましか。


「とんでもない……ですか。やはり、僕には荷が重いですね」


「……一割。一割でどうだ?」


「えっ? 一割ですか……?」


「ああ、その価値の一割の権利を約束する。これは、すごいことだぞ? 十歳にして、一生分の収入となる」


 一生分!?

 あの開拓村に、何があるんだ……父さんは気づいているのか!?


 これって、結構ヤバい案件では……。


「やめて下さいよ、ベンモさん。それは、賄賂になりますよ?」


「賄賂と言うのは……この建物の事を言うんじゃないのか? イロハ君」


 当然、知っていたか。

 でも、残念……家賃は払っているんだよね。


「なるほど。ここは、ひと月八万で借りています。相場より安いですが、賄賂とまでは言えないでしょう?」


「今からでも遅くはない、クリニア商会からうちへ乗り換えないか?」


 直球だ。

 こちらも、素直に返しておこう。


「一つ、言っておきます。開拓村の件は、父が決めることです。紹介くらいならしてもいいですが、報酬をもらってまで、将来を左右する事に関与したくはありません」


「……いいだろう。クリニア商会からは鞍替えするつもりが無いと。今日のところは引き下がろう。気が変わったら、いつでも訪ねてきてくれ。ビスローブ商会のベンモだ。では、失礼する」


 去り際は潔いと思うが、何でこの商人という人種は、言葉をわざわざ変換して解釈するのかな?


 

 あー、圧がすごかったな。

 これは、幼い体に毒だ。


 あの、ベンモさん……最後にチラッと橙オーラが混じっていた。

 少し、敵意を持たれてしまったか。


 

 もう、お昼じゃないか……あんなのを相手にするのは、もう勘弁してほしい。


 作るのもめんどいので、今日は何か買ってこよう。

 この前、露店で見つけた団子串、すごい美味そうだったんだよな。



 これこれ、ミンチが多少甘い粗挽きのつくねという感じ。

 んー、タレもフルーティでなかなかじゃないか!


 今度、家で作ってみようか……ハンバーグなんかいいかもな。



 昼メシも食ったし、グリフさんに気になる事を確認しに行こう!



 ◇◇



「こんにちは、グリフさんは……」


「おお、イロハ君じゃないか。また、会わせたい人でもいるのかね?」


 ちょうど、いたね。

 タイミングバッチリ!


「勘弁して下さいよ。今日は、グリフさんにお聞きしたいことがありまして……」


「なんだい? 改まって。少し時間もあるから、私の部屋へ来なさい」


「はい!」


 グリフさんの執務室へ。

 初めて入ったな、すごい数の本だ。


「それで、何を聞きたいんだ?」


「開拓村の事です。グリフさんは、何で参入しようと思ったんですか?」


「そりゃ、前に話した通りで、王国縦断路ができた時には、大きな経済効果を生むはずだ。商人なら誰もが関わろうとするだろう」


 僕は、それだけではないと見ている。


「開拓村には、他に魅力は無いんですか?」


「確かに、木材や石などの資源は豊富だが特に魅力という程でもない。やはり中継地として発展する可能性に魅力を感じるんだが……」


 資源か、あり得る話だ。

 あそこは大自然だから、天然資源が豊富……何か発掘されたとか?


「よく分かりました。では、ビスローブ商会は知っていますか?」


「ああ、よく知っているぞ? まさか、イロハ君へ接触してきたのか?」


「はい。ベンモさんという方が来られました」


「ベンモだって! 彼は、商会長の息子だよ。何か言われたのか?」


 また、商会長の息子か。


「まあ、いろいろ話しましたが、引き下がってもらいました」


「引き下がった……? よく、それで済んだな。しかし、彼は、相当しつこいぞ?」


「ええ、話の流れからよく分かります。そこで質問です。ビスローブ商会ってどんなところなんですか?」


「ビスローブ商会は、魔石で成り上がった商会だ。魔石とは、正しくは魔導晶石……魔導金属製の道具の動力となる結晶のこと。一時は独占状態となっていたほどだ」


 ほう、新情報だな。


「魔石ですか……確か、迷宮で取れるんでしたよね?」


「ほとんどは、そうだね。例外的に、とある鉱石に含まれていることもある。ビスローブ商会は、その抽出技術を持っているらしい」


 とある鉱石……抽出技術……。


「らしいってことは、秘匿されているわけですか?」


「鉱石は予想がつく。しかし、魔石からの抽出ではなく、鉱石となるとどうやっているのか見当もつかない」


 鉱石からも、魔石と同等のエネルギーが抽出できるのか。


「技術を独占していると……」


「ついでに言うが、王都には力のある商会が六つほどある。いわゆる大手商会だ。イリモメンタス商会は、上等民向けの商会。トロワディ商会は三商会が合併することで大きくなった商会。アダンニ商会は、他国との取引に強い商会……」


「そんなにあるんですね。でも、なぜそれを?」


「後二つほどあるが、今挙げた商会が、イロハ君に関わってくる可能性のある商会だ」


 ああ、気をつけろってことね。

 簡単になびいてくれるなよって。


「もう、商会は遠慮したいですね……」


「それだけ、開拓村にはは魅力があるという事だよ」


「僕より、父さんが大変そうだ」


「ルーセント団長は、まだ誰も攻略できていない。他を差し置いてクリニア商会が、第一交渉権を得た……正直、自信がないんだよ、私は」


「大丈夫だと思いますけどね、グリフさんみたいな人なら」


「私みたい……?」


「そうです。グリフさん、汚い取引は嫌いでしょ?」


「う……それは、商会長からも言われている。泥水もすすれと、賄賂や裏取引も飲み込めと……」


 俺も、商会長に賛成ではあるが、グリフさんみたいな人は貴重だ。


「うーん、そのままでいいんじゃないですか? 一度染まったら、白には戻れませんよ?」


「なんで、イロハ君にこんな事を……」


「僕は、グリフさんが汚れた大人じゃないから、協力することにしたんです」


 裏で汚職の蔓延(はびこ)る開拓村……となるのは、嫌だったんだよね。


「君は……一体!?」


「村で出会ったのを覚えていますか?」


「ああ、鮮明にな」


「その時、団員に女性を紹介しろと言われて諦めた……普通は幾らでも紹介しますよ?」


「う、うむ……」


「それに、一つだけ嘘をつきましたよね? ネイブの方からそのまま北へ向かって来たって」


「あ、あれか……確かに。あの時はすまない」


「いえ、あの場所は、村の中心地からしか来ることができないところなんです。嘘が下手だなぁって」


「いやぁ、参ったな……」


「グリフさんは、そのままでいて下さいね。今日は、ありがとうございました」


「ああ、また気軽に訪ねてくれ」


 やっぱりグリフさんは、クリーンな人だ。



 クリニア商会を出る時、一台の客車が目の前に止まった。

読んでいただきありがとうございます。

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