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百十話 モーセス来訪

毎日投稿中。

 ◇◆◇◆十一の月二週一日◇◆◇◆


 いよいよ、十一の月の中旬に突入。

 後、ひと月半ほどで学園の入学式だ。


 早ければ、父さんの返事もそろそろ届く頃か。

 上手く策に乗ってくれたら……いや、開拓の仕事があるから来るわけがないよな。


 うーん……ウェノさんが余計なことを言っていそうだ。



 トリファの元へ会いに行った日、モーセスさんが訪ねてきたらしい……ポストに『また来ます』の一言が入っていた。


 本当は、試験後五か月は暇になる予定だったのに、最近、なんだかんだと忙しい気がする。


 後は、ロディとポルタに会っておかなくちゃ。


 ザッザッザッ……


 コンコンコン、コンコンコン


 誰か来たようだ。

 

 玄関前は、砂利を敷いてお手製のドアノッカーを扉に取り付けた。


 ……ライオンではないけどね。


 一応、この世界にもドアノッカーは存在していた。

 しかし、なんというか……デカいので「ゴンゴン」なっちゃうからうるさい。

 主に、上等民の家に付いているらしい。


「はーい、お待ち下さーい!」


 二階だと、来訪時はいささか不便である。


「やあ、イロハ君。やっと会えたね」


「モーセスさん、お久しぶりです」


 なんか、身なりが良くなっている?

 儲かっていそうだな。


「話したいことは、山ほどあるんだが……中へ入れてくれるかな?」


 山ほどあるんだ……どうせ、新遊戯の件でしょう?

 応接室にはまだ手を付けていないから、自分の部屋へ招くか。


「もちろんです。まだ、物が揃っていないので殺風景ではありますが、どうぞ」


「……イロハ君、ソラスオーダーの確認はしているのかい?」


「えっ? ソラスオーダーですか? あまり見ていないですね」


「引っ越しのお祝い金も含めて、十一の月分は、多めに入れといたんだが……」


 金か。

 商人のお金ほど危ないものはない。


 あー怖い、怖い。


「お祝い金ですか……そんなに気を使わなくても……」


「君は、仮にもコロコロの森の遊戯指南役だぞ? あまりみすぼらしい生活はしてほしくない」


 みすぼらしいと言わないでもらいたい。

 質素でもいいじゃないか。


「そういうもの……ですかねぇ?」


「表に出てこないにしても、働いている者の一部は知っている。上の者の羽振りが良ければ、自分も頑張ろうとするだろう」


 それは、理解できる。

 自分の将来の指標となるわけだから、偉くなるために頑張る理由にもなり得る。


 社会人デビュー時は、そう、思っていたなぁ。

 実際、蓋を開けてみたら、特定の者が搾取できるシステムを構築している……そんなブラックな会社へお世話になってしまったよ。


 モーセスさんがそうでないことを祈る。


「上の者? 僕ってどんな立場なんですか?」


「君は、遊戯指南役だ。つまり、特別職だ。外部の者ではあるが、私に次ぐ地位だな」


 外部取締役ってか?


「そんなぁ……」


「これは、私が好きで勝手にやっていること。イロハ君が気にする必要はない」


 気にしなくていい、普通に過ごせばいい……やはり、モーセスさんも商人、自然と関わらざるを得ないように持っていく。


「気にしますよ! 何もしないでお金をもらって、たまに遊戯のことで話すだけじゃないですか!」


「では、別の視点で話そうか。私は、とある商会の傘下だったが、脱退した……それは知っているね?」


 おっと、風向きが変わったぞ?

 あの、ドタキャン商会の傘下だったらしいな……やめて正解! と言ってあげたい。


「ええ、確かイリモメンタス商会でしたっけ?」


「ああ。つまりな、後ろ盾が無いんだ。そこへ、画期的な遊戯を指南する謎の者がいる。この人物のお陰で大繁盛している……。モーセスは新たな後ろ盾を得たと皆は考えるだろう。実際、そういう話が無いわけでもないんだ」


 後ろ盾が、そんなに大事なもんかね。


「……それ、僕じゃなくてもいいですよね?」


「そうだな。しかし、すでに出来上がってしまっているからなぁ……。君に迷惑をかけることはない。しばらくはこのままにさせてほしい」


 ふーん、お願いってわけね。

 じゃあ、形の無い曖昧な約束で(くさび)を打っとくか。


「まあ、別にいいですけど……。では、もし、僕が何かで困ったら力になって下さいね?」


「もちろんだ。今の私があるのは、君のおかげだ。ここだけの話、以前の二倍を越える利益となっている。たった二か月でだぞ?」


 どんな内容の困ったことなども聞かずに了承するなんて、少し脇が甘いんじゃないかい?


「それは良かったですね。僕も、いろいろと考えたかいがありますよ」


「これが、伝えたかったことの一つだ。そこで、本題だが……」



 それから、二人で新遊戯の件を延々と話し合った。

 遊戯のこととなるとモーセスさんも人が変わったように熱くなる。

 

 一生懸命な人を応援したくなるのは、俺の性分なのかもしれない。

 

 新遊戯が当たるかどうかは不明だが、モーセスさんは、満足そうに帰っていった。



 ◇◆◇◆翌日◇◆◇◆

 


 昨日は、結局一日がかりだった。


 あの遊戯が当たりますように……。

 神か仏かは知らないが、祈っておこう。


 さて、今日は、ロディに会いに行ってみようと思う。

 

 ただ、ロイヤードや騎士関係の学校は、王城の周りに集中しているからなぁ……アポ無しでの訪問は、厳しいかもしれんな。


 場所は、中央南か……結構近いな。



 三、四十分程度で到着。

 こんなに近くで王城を見たのは初めてだ……デカいな。


 ロイヤードの宿舎は、王城の裏の方だったはずだ。


『王立ロイヤード騎士学校宿舎』


 こりゃまたデカい宿舎だ。

 門が閉じてあって中へは入れないようだ。


 まあ、授業の終わる夕方にならないと無理だろうな。

 分かっていたことだ。


 いやー、本当は王城を見学をしたかったんだよね。

 実物を見るのは初めてだし、お城はロマンがある。


 日本でも優に二十を越える城を見て回った。

 中でも好みは平城……平地に建てられたお城が好きだったなぁ。

 敷地を広く使って、お堀を作って……まあ、それは置いておこう。

 

 この世界の王城は、見た感じが西洋の城に近いな、実物を見たことは無いけど。

 

 城壁と言うべきか、王城を囲むような高い壁があり、城門があって門兵が数人いる。

 この城に王様とやらがいるわけか。


 歴史の教科書に載ってるレベルの世界……中へ入ってみたい願望がフツフツと湧いてくる。


 無理だよなぁ。

 


 ん……? あれは、騎士団か。

 いや、なんかあどけなさが残る感じ……学生かな?


 あの先頭の人は、アレス様だ!

 ということは、学生の訓練かなんかだろう。

 もしかしたら、ロディもいるかもしれん。


 ザッザッザッ


 まるで、自衛隊の教練のようだ。

 キレイに足音まで揃って、練度が高いなあ。

 

 一団が目の前を通過していく。

 王城外周を何周かするんだろうか。

 

 

 そろそろお昼だし、どこかで昼食でも取るとしよう。



 近くで食堂を見つけたので寄ってみた……すると、騎士学校の学生らしき人達も入ってくる。


 ここって……騎士学校御用達の食堂だったのか。


 偶然とは恐ろしいもので、なんとアレス様御一行もお食事をするようだ。


 今会うのは、ちょっと気まずいか。


「君は、イロハではないか?」


 見つかってしまった。

 まあ、そうだろうね、俺だけ四人がけを一人で占領しているし、服装も違う。


「アハハ、アレス様。お久しぶりです」


「こんなところで何をしているのだ?」


 相変わらずの爽やかイケメンは健在だ。


「王城の見学とロディに会いに来ました」


「ロディに? 彼は、遠征だから王都にはいないぞ? 帰って来るとしても来月だな」


 遠征ね、騎士さんも大変だこと。


「そうなんですか……では、出直すことにします」


「イロハは、今年、王都の試験を受けたのだったな? ロイヤードを受けたのか?」


「いえ、僕は、スレイニアス学園を受けました」


「スレイニアスか。今年は、相当難しかったと聞いているが、合格したのか?」


 そんな情報も入ってくるのか……さすが領主の息子。


「はい。一の月から入学予定です」


「優秀なのだな。滞在先はもう決まったのか?」


「はい、西地区に住んでおります」


「では、一度……」


「アレスさん、コイツ誰ですか? 馴れ馴れしい奴ですね。おい、お前! 少しは控えたらどうだ?」


 なんだ、この空気が読めない輩は?

 会話の内容も理解できない、チンピラかなんかか?


「はぁ……。すみません」


「分かったら、さっさと……」


「キンギモ、俺が話しているのだ。友人を侮辱する発言は許さんぞ?」


 ほら、怒られた。

 キンギモさんよ、せめて偉い人の会話を遮ることだけはやめたほうがいいぞ?


「は、はい。すみません……」


「すまないな、騎士学校の者は、好戦的で血の気の多い奴ばかりだ。許してやってくれ」


 好戦的というか……コイツはただのバカだろう。


「いえ、大丈夫です。それより、以前、無理を言ってロディの訓練に付き合って頂き、ありがとうございました」


「うむ……。あれは、最初こそ私が訓練を見ていたが……ここでは話し辛いな。まあ、別の者がロディの訓練を見てくれたのだ」


 うん? アレス様が、言葉に詰まっている?

 

「……別の者ですか。それは知りませんでした」


「う、うむ。ロディも言い辛かったのであろうな。ネイブにも帰っていないと聞く」


 言い辛いだと?

 さっきから、気になる言い回しを……。


「僕も王都に滞在するので、そのうち会えると思います」


「そうだな。あまり、ロディをからかってくれるなよ?」


 からかう?

 どんなエピソードがあるというんだ?


「まあ、からかいはしませんけど……」


「そんなことよりも、イロハはどこに住んでおるのだ? 詳しい場所を教えてくれ。一度、寄らせてもらおう」


「ええ、いいですけど。まだ、何も揃えていなくて、簡単な料理くらいしか出せませんよ?」


「そんなことは気にしなくていい。友人を訪ねるだけだ。楽しみにしておくぞ? お前の手料理もな、ハハハ」


 ご機嫌だなあ。

 そんなに庶民の家へ訪問するのが楽しいのかな?

 どこまで本気なのか分からないお人だ。


「分かりました。来る時は、前もって手紙で知らせて頂けたら準備しておきます」


 王都の簡易的な図を書いて、場所を教えた。


「イロハよ、王都で様付けはやめてくれ。もっと上の者も沢山いるのだ。ではな、また会おう」


 なるほど、確かに王族をはじめ、上等民も多いだろうな。

 遠縁とか言って偉そうにしている奴もいたっけ?


「はい。アレス……さん」



 驚きの出会いだった。

 ロディは来月まで帰って来そうにないので、今日のところは撤退するか。


 代わりに、アレス様と妙な約束をしてしまった……。

 本当に来るつもりなんだろうか?


 社交辞令……だよね?



 ◇◇



 ロディ……何があったんだ?


 外では話し辛い。

 別の者が訓練の面倒を見た。

 言い辛くて村へ帰られない。


 そして、からかわれるような事。



 第三者の関与、それも、ロディを合格へ導くほどの者……。


 だが、村の者にも言い辛く、王都に居続ける理由になり、知られたらからかわれる材料になり得る人物……。



 

 はぁ…………女か。


 まったく、どいつもこいつも……ロディ、お前は硬派な(おとこ)じゃなかったのか?


 いずれ、事情聴取が必要だな。

読んでいただきありがとうございます。

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