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幕間十六話 ルーセント:イロハの策

毎日投稿中。

 ◇これは、イロハが王都へ到着してから学園入学までのルーセント側の話


(ルーセント視点)

 

 ◇◆◇◆十の月二週四日◇◆◇◆


「団長……団長?」


「なんだ、ハチェット。もう来客はいらん、お前が対応しろ!」


 先月から、相変わらず商人が押し寄せてくる……もう、ラミィも対応してくれない。

 そりゃそうだろうな、一日十人ほど……業務に支障が出るって話だ。


「いいんですか? そんなこと言って。イロハ君からの手紙ですよ?」


「なにっ? 早く渡せ!」


「はい、はい」



 父さんへ


『スレイニアス学園に合格しました。これから滞在先探しや、生活用品を揃える準備期間に入ります。父さん、母さん、リアムも体に気をつけて。それではまた』


 九の月二週二日 イロハ



 おいおいおい! 短いじゃないか?


 それだけか?

 商会の話はどうなった?


 はぁ……こんなことなら、一度帰ってくるように言えばよかったか?


 いや、ダメだ。

 イロハには、学業に専念してもらわねば……村のことは俺が考えなきゃいけない。


 手紙は、ステラに渡しておくか。



 ◇◇



 ふぅ、最近ため息が多くなったな。


 今日の俺が対応した来客は五人だった……なんと、賄賂まで渡してくるバカ者までいて驚いた。


 だんだん過激になっていく。



 ルブラインさんは、十の月に入るとこの村を出て王都へ向かった。

 

 この開拓村ができた当時から、共に盛り立ててくれた戦友がいなくなるのは、寂しいものだ。


 残念なことではあるが、商会の復活を頑張ってほしい。

 きっと、成功して再び豪腕の名を轟かせてくれることだろう。


 イロハは、あっさりスレイニアス学園に合格した。


 本当にすごい奴だ。

 

 勉強していたところをあんまり見たことがなかったが、天才とはそんなものなんだろうか?


 イロハに影響を受けて、ミルメちゃん、レジーちゃん、リアムまでもがスレイニアス学園を受けると言っている。


 トリファちゃんにロディ君、イロハ……この村って、いつからこんなに天才が集う村になったんだ?



 ◇◇



 あー、ビスローブ商会のベンモさん、相当しつこいぞ。

 

 この村に執着しすぎだ、聞けば、商会長の息子と言っていたが、いつまで滞在するんだろうか。


 しかし、そろそろどこかの商会に決めないと、物資はもちろんこの先の発展の障害となりそうだ。

 


 山側の開拓で、また希少鉱石が出たらしい……もう、森林地帯だけ進めていこうかと考えたくなるよ……。


 希少鉱石に、大型の獣、底なし沼……よくここまで来たもんだ。


 さて、仕事仕事。



 ◇◆◇◆十の月四週一日◇◆◇◆


 相変わらず、開拓と商会の来訪。

 団長とは、こんなに大変な立場だったんだな。


 二年前までとは、比べものにならない。



「団長、また新たな客車が村へ入ったと報告がありました」


「またか……。今度は、どこの商会だ?」


「それが、一人で来たみたいです。珍しいですね、きっと小さな商会なんでしょう」


「よし、今日はここまでだ! 皆、引き上げるぞー!」


「「おー!」」



 ◇◇



「今日も疲れたな。ステラ、明日は切り株がかなりたまってきているんだ、頼めるかな?」


「ええ、お昼くらいには、向かうようにするわ」


「ステラのお陰で、この開拓速度が生まれるんだから、感謝しているよ」


「はい、はい。私も、頑張りますよ。団長の妻ですからね? フフフ」


 この笑顔、我妻ながら……なんて美しいんだ。

 未だにドキッとしてしまうよ。


「そうだな。ス、ステ……」


 コンコンコン


 ……なんだ? この空気が読めていない客は。

 せっかくステラといい雰囲気になろうとしていたのに。


「ん? この時間に、来客か?」


「そうみたいね、誰でしょうか?」


 ガチャッ


「ルーセントはいるか?」


「ウェノ! 何しに来たんだ? まさか……イロハに何かあったのか!?」


「違う、違う! 俺は、イロハの使いで来たんだよ」


 使いだと……?


「あら、いらっしゃい、ウェノさん。久しぶりね?」


「ああ、ステラさん、夜分に失礼します。少し込み入った事情がありまして……ルーセントと話をしても?」


「あちらの部屋で、どうぞ。飲み物でも入れてきます」


 ウェノが、こんな時間に……?

 腐っても執事だ、こんな不躾な訪問をする奴ではない。


 嫌な予感がする……。



「それで、どうしたんだ、ウェノ」


「まずは、イロハの手紙だ。読んでみてくれ」


 この手紙が、イロハの使いってことか?


 なになに……。


 ………………。

 


 イロハの奴、クリニア商会と話をつけてくれたみたいだな。

 

 しかし、日程も何も……開拓村へ来てくれれば済む話だ。

 それに、滞在先の世話になっていることをわざわざ言ってどうする?


 お礼でもしろってか?


 この手紙……イロハらしくない気がするぞ。


「……これは本当か?」


「いろいろ、頑張っているみたいだな。俺は手紙を見ていないからよく分からないが、アイツはこれも伝えてくれってな……」


「ん? 何をだ?」


「ああ、その、あれだ。イロハが言うにはだな……王都では、開拓村争奪戦が始まっていて、イロハが団長の息子だと気づいた商会もあるらしい」


「なにっ!」


「それでな、自分はその手紙にある通り、グリフさんに良くしてもらい、住むところを借りて部屋にこもっていると。このままでは、学校にも行けなくなる……

だってよ」


 良くしてもらい、部屋にこもっている……だと?

 つまり、外にも自由に出られない……そう言う状況と言いたいのか?


 おかしい……やはり、違和感がある。


「何で、イロハがそんなことに……」


「そりゃあ、息子だからだろうよ?」


「俺に……どうしろと」


「それでな、早く決めちまえばいいんじゃないかとさ」


「商会をか?」


「まあ、そういうことだろうよ。アイツもそのつもりなんじゃないか?」


 ウェノよ、さっきからそんなに声を張り上げて話すことか?


「ふむ……クリニア商会か」


「まあ、俺も疑ってクリニア商会へ突っ込んだが、本当だった」


 そうだろうな、イロハは簡単に騙される奴じゃない。


「そうか……」


「アイツは、何であんなことができるんだ? 道中でも、大人と対等に渡り合ったりしていたぞ?」


 ああ、違和感の正体が分かった。


「……分からん。だが、せっかくイロハがくれた機会だ、モノにしないとな」


「ルーセント、行きましょう!」


 いきなり、ステラが飛び込んできた!


「ステ……ラ?」


 ウェノの奴が、大声で話すからステラに聞こえてしまったじゃないか!


 ハッ……! まさか…………。


「イロハが何かやってくれたんでしょ? 王都で困っているなら、行きましょう!」


 いや、これは……イロハが何か企んでいるとしか……。


「そうは言っても……」


「じゃ、私が行くわ。あなたは、仕事でもしてなさい!」


 くっ……ダメだ、イロハのことになると、ステラは言うことを聞かない!


 ()()()()()だったか……。


「…………行こう。ウェノ、王都へ行くぞ!」


「ああ、そう言うと思った。客車は走獣も入れ替え済みだ。朝イチで出るぞ!」


 やっぱりな、ウェノも分かっていて言っていたんだ。


「重い腰を上げたようね。私とリアムは留守番をしとくから、安心して行ってらっしゃい。イロハの力になってあげてね」


 ステラよ、これは全てイロハが仕組んだことだと思うぞ?

 

 まあ、俺を呼んで何かやりたいことがあるんだろう。


 いや……クリニア商会、ここに何かあると見た。

 乗せられるのは癪だが、イロハのことだ、理由があるんだろう。

 それに、商人の問題も片付きそうだ……あれ? いいことしか無いじゃないか!


「もちろんだ! そうと決まったら、準備を頼む、ステラ」



 ◇◇



 朝から、誰の見送りもなくウェノとゴサイ村を出発した。


「ウェノ、イロハはちゃんと生活できているのか?」


「ああ、問題無い」


「そうか。少し、気になることがあるんだが、いいか?」


「なんだ?」


「本当は、どうなっている? 俺の王都行きは、イロハの策なんじゃないのか?」


「……さすが、親子だな。どこで気づいた?」


「そうだな、部屋に()()()()()()ってところがちょっとな」


「ほう、面白いな。そこは、俺が付け加えた言葉だ。時間がなくて細かい打ち合わせはできていないんだ」


「イロハは、いくら危機に陥ろうと、黙ってやり過ごす性格じゃないんだ」


「あー、それ分かるわ。アイツ、あえて飛び込む悪い癖があるもんな」


「どうせ、イロハのことだ。クリニア商会との会談に同席したいがため、こんな事をやったんだろう。素直じゃないからな」


「アイツは、ただ……開拓村争奪戦に巻き込まれた、ゴサイ村は今後重要な拠点となる。入学までに解決してもらわないと学校に行けないや……こんな内容だったな」


「ウェノ……お前は下手な奴だな。そのままの文章の方が、緊急性を感じるわ! 余計な言葉が入ることで、誰かに脅されているのかと思ったじゃないか」


「俺なりに、アイツに協力したくってよ。生意気なんだが、一生懸命な奴だ。そういや、ステラさんに聞こえるくらいの声でってのも言ってたな」


「それだ! やっぱりそうか。俺を動かすには完璧な策だ。子供らしく、もう少し素直に言ってくれたら可愛げもあるんだがな……フハハハ」


「確かにな、人さらい相手にも余裕な顔をしていたし……クククッ」


「……人さらい? 聞いていないぞ? まさか、そんなに危ない目にあったのか?」


「あ、いや……ルーセント、少しスピードを上げるぞ!」


「おい! ごまかすな、ウェノ!」


「ルーセント、こうして二人で客車に乗ると……思い出さないか?」


「あぁ? なんだ、昔話でもしたいのか?」


「そうだな、少し思い出しちまってな。あんときゃ、まだ敵対していたっけ?」


「そりゃ、お前があのクソ野郎を庇うからだろう……」


「まだ、その時は知らなかったんだよ。あのクソ野郎の悪行をな」


「……もういいだろう? あの話をしていたら、王都へ行きたくなくなるぞ」


「確かに、違いない」


「王都か……開拓が終わるまでは行くことがないと思っていた。まさか、ウェノと行くことになろうとは」


「なあ、ルーセント。子を持つってどんな感じだ? いいモノなのか?」


「おっ! まさか……そうなのか?」


「まだ、その段階じゃないが、ビーツ家の方がな……」


「いいじゃないか! 子供はいいぞー? 成長を見守るだけで生活に張りが出る。お前も、風来坊は卒業だな。執事が嫌なら、うちの村に来るか? なんでも、将来は発展するって話だぞ?」


「ククッ、大手商会のお墨付きだもんな。家を叩き出された時は、世話になろう」



 ウェノが結婚か……信じられんな。

 まあ、いい歳だし、落ち着いてくれれば……ププッ。


 冗談はさておき、コイツには幸せになってほしいものだ。

 俺との事件で執事を休職する羽目になっているんだからな……。

 


 ダメだ、想像できん……相手はどんな女性だ? まさか、獣じゃないよな?

読んでいただきありがとうございます。

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