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九十六話 友人の頼み

 また怪しい男に遭遇……会ったことはないな。

 黄色っぽい髪、ボサボサ頭で襟足をちょこっと結んでる。

 んー、誰か分からん。

 

「あの、どちら様でしょうか?」


「君、度胸あるね。大人の冒険者二人に向かって行くなんて」


 失礼な、向かって行ったわけじゃない。


「いえ、そんなつもりはないです……」


「何かさ、勝てるとか、逃げるとか、攻撃を食らわない自信があったわけ?」


 身長はカラムさんくらい、したから見上げるような格好で、鋭い質問を投げてくる。


「なんなんですか? そんなものは無いですよ。すみませんが、急いているんで帰ります」


「ちょっと待った! 君さ、仕事に興味ない?」


 きたきた、これが本題か。


「無いです、ごめんなさい」


「あらら……警戒させちゃったか。少し、話をしないか?」


「しません。ごめんなさい」


「なー、ちょっとでいいからさ、ね?」


 しつこいなぁ、マルチな商売のお誘いか?

 付いて行ったら、知らない人が後二人くらい来るのか?


「じゃあ、ここで話してください。でも、答えるかは分かりませんよ」


「んー、君、本当に十歳なの?」


「十歳です」


「学校はどうしたんだ? なんで、冒険者組合にいるんだ? 親はどうした?」


 質問多すぎ。

 これは、人さらいとかの(たぐい)か?


「学校はこれからです。お散歩でここまで来ました。親は南にいます」


「なんだよー、取り付く島もないじゃないかー。じゃあ、君のスキルってどんなの?」


「言いません。もういいですか? 初対面でスキルを聞くなんて、失礼ですよ」


「えー、スキルは別にみんなに聞いているし、隠すと逆に不利なんじゃないか?」


 不利……?

 あ、パーティの勧誘の時とか?


「そうですか。どっちにしても、僕は冒険者じゃないので、そんな常識は知りませんし、あなたに話すことはもうありません。では」


「おいおい、まだ、話があるって。商売に興味は無いかって聞いただろ?」


「興味はないですって答えましたよね?」


「ふーん、儲け話があるのに?」


 知らない人からの儲け話……一番危険です。


「あいにく、お金には困っていません。興味もないです」


「そうかぁ。いい人材だと思ったんだけどなー。俺な、裏の商売をやってんの。君みたいな度胸のある子を育てたくて探してんだよ。考えてみない?」


 おー、裏の人か。

 なおさら、この歳では関わりたくないな。


「いえ、裏って……やめてください。すみません、勘弁してください」


「だめかぁー、残念だ。もし、大金が必要になったとか、裏の仕事に興味を持ったら、冒険者協会を通じて俺に伝えてくれ。君の名前は?」


 君の名前は……って、男に言われても。


「……言わなきゃダメですか?」


「言ってくれないと、冒険者協会で君だけに公開できないだろう? まあ、調べてもいいんだけどさ」


 ああ……なぜこんな奴と出会ってしまったんだろうか。

 裏の人なら、調べることもできるんだろう。

 言うしかないのか……。


「……イロハ、です」


「おー、イロハ君か。俺は、キライディだ。君だけに情報は公開しておくから、協会を通じて連絡してくれ。では、今日はこの辺にしておくよ! じゃーな」


 なんだ、あの危険な匂いをプンプンさせている人は。

 王都とは、すごく危険なところだと知ってしまった。


 冒険者も荒っぽいし、裏稼業のキャッチがウロウロしているし、ビストの子供は物乞いみたいな真似をしているし……王都って、意外と治安が悪いんじゃないの?


 子供が一人で出歩くには、あまりよろしくない環境だな。

 こんなことなら、おとなしく宿付近で訓練でもしているんだったよ……もう帰ろう。

 


 おや? あれは何だ……?


「道を開けろ! 道を開けろ!」


 なんだろう、やけに豪華な客車に騎士団みたいなもん引き連れた集団が、大通りを横切っている。


 みんなは、自然と脇に避けているが……。


「あのー、これはなんの団体ですか?」


「おん? 坊主は王都が初めてか? ありゃ、王族の客車だよ。ほら、青い家紋が付いているだろ? 今年は、王家の子供が学校に行く歳だからな、いろいろと慌ただしいんだろうよ」


 家紋……あの客車に付いている青いやつか。


「へー、あれが王族なんだ。初めて見ました」


 と言っても、人は見えないけど。


「王家の客車が通る時は、道を塞がないように気をつけるんだぞ? 坊主」


「はい、気をつけます。教えてくれてありがとう!」


「いいってことよ、それじゃあな!」



 親切なおじさんだった。


 王族かぁ。

 封建社会を経験していないから、いまいち実感がわかないんだよな。

 それに、学校にも来るのか……嫌な予感しかしない。


 そんなに敬われたいなら、一般の学校になんて来ないで、家庭教師を雇って帝王学でも学んでいろよと。


 さて、本当に帰ろう。



 宿に戻ると、再びおばちゃんに呼び止められた。


「お帰り、イロハ君。学園の試験を受ける子で、ギレットというお友達がいるかい?」


 ギレット?

 あー、試験二日目の昼食時に絡んできた奴か。


「んー、どうでしょうか。友達かは別として、会ったことはありますが……」


「その子が今日訪ねてきてね、どう扱うか迷ったけど、滞在していることを話してもよかったかい?」


「まあ、別にいいですけど。なんの用ですかね」


「聞けば、付近の宿のあちこちで君を探していたみたいなんだ。しばらくしたら、また来ると言っていたよ」


 なんで探されているんだ?

 今日は、ロクなことがないからなー。


「あ、はい。僕は部屋にいますので、何かあったら呼んでください」


「はいよっ!」




 あー、部屋が落ち着く。

 村にいた時と比べたら、いろいろな人と出会って楽しいけど、その反面、変な奴と出会う確率も高い。


 王族が一番危険だな……物理的に首が飛んでしまう。

 できれば、お近づきになりたくない。



「イロハ君、ギレット君が呼んでいるよ。部屋に呼ぶかい?」


 扉の外から、おばちゃんの声が聞こえる……。


「えっと、僕が食堂へ行きますので、待たせてといてください」


「はいよっ!」


 ギレットか……悪い奴ではないってことくらいしか知らないが、一体何の用があって俺を探しているんだ?




「おう! イロハ。探したぞ?」


 赤髪短髪のやんちゃそうな子供が、フランクに挨拶してきた。

 

「……探される覚えはないんだけど。何の用だ? ギレット」


「あ、そうだな、あれだ。試験はどうだったか?」


 試験……?


「はぁ? そんなことを聞くために僕を探していたのか?」


「ま、まあな。で、どうだったんだ?」


「……普通」


「そうか、普通か。もう、答え合わせとかはやった?」


 コイツ、どういうつもりだ?


「……やった」


「もうやったのか……。あ! 思考問題のところで、迷い……」


「おい! こんな世間話のために、僕を探していたのか? 本当は、何の用だ?」


「え、やだなー、試験の話をしたいから、き、来たんだよ……」


 なーんか、怪しい……挙動不審だ。


「ふーん、じゃ、そういう事で。またな」


「ま、待ってくれよ!」


「ギレットは、正直者だと思っていたけど、違うようだな。僕は、話すこともないんで、じゃーな!」


「……イ、イロハッ! その、あの、テリアーナさんとか、ロ……ロザエネさんとかは、いないのか?」


 ……なにっ!?


 そうか! なるほど、なるほど。

 そういや、コイツはロザに好意を持っていた感じだったな。


 くふふ……こりゃ、面白いことになってきたぞ。


「……ギレットよ。君、さては、ロザに惚れたな?」


「な、な、なんだよ! ちっ、違……ちょ、そんな目で見るなよ!」


「へー、違うのか。じゃ、なんで二人が気になるんだ?」


「イロハと一緒にいたから……」


「僕を探してまで?」


「俺は! テリアーナさんの名前も出したのに、なんでロザエネさんに、その、ほ、惚れたとか言うんだよっ!」


「なんでって、態度に出すぎだろ。それに、テリアの名前を先に出すってところが、実にいやらしいな」


 年頃の男の子って感じでおもろいやん。


「いやらしいって言うな! そうだよ、ロザエネさんが気になるんだよ!」


「最初からそう言えばいいのに。それで、どんなところが?」


「えっ? そりゃあ…………顔」


「最悪やな。顔とか」


「なんでだよ! 一目惚れなんだ。イロハは…………違うよ、な?」


「僕? 無い無い。同世代の子なんて興味無い。だいたい……僕は、決まった人がもういるんだよ」


「はぁ? イロハ……上等民なのか?」


「なんでそうなる……?」


「いや、許嫁とかって王都じゃなかったら、領主の息子とかって思うだろ、普通」


「あー、そういうんじゃないよ。んー、運命というやつさ」


「運命……すごいな。でも、ロザエネさんじゃないなら良かった。イロハには、勝てそうになかったから、ホッとしたぜ」


「何がホッとしたぜ、だよ。顔が好きっていう薄っぺらい奴が、あんな真面目な子から好かれるわけがないと思うけどね」


「そ、そんなあ……。でも、イロハは友達だよな? 応援してくれるんだよな?」


「応援ってどういう意味? 僕に何かを期待しているのか?」


「え? 友達なら、ほら、上手くいくように何かをやってくれるとかさ……」


「何をだよ。あのな、ギレットがロザを好きなんだろ? 周りが頑張ってどうするよ。自分で好かれる行動をとればいいんじゃないか?」


「冷てーな。せめて、会う機会とか作ってくれよ!」


「あー、そういう事? そのくらいなら手伝ってやるよ」


「い、いいのか? ありがてー!」


「……それで、ギレットは、僕に何をしてくれるんだ?」


「はぁ? 何って、友達だろ……?」


 十歳にしては、対価を求めすぎてしまった……いかん、いかん。


 友達かぁ……。


「ふーん、ま、いいよ。僕が困った時は、力になってくれるんだよな? 友達だし」


 子供だから、こんな感じかな。


「ああ、もちろん!」


「じゃ、ちょっと待ってろ。話をつけてくる」


「おわぁっと! 待て待て! 今から? いきなり? まだ、心の準備が……」


 ダッシュで駆け出そうとしたら、サッと前に来て、とおせんぼしてくる。


「ここまで来ておいて、まだそんなことを?」


「うっ…………せ、せめて、明日とかに、なっ?」


「まあ、ロザの都合もあるだろうから、確実じゃないけど。ああ、僕ができるのはそこまでだからね?」


 お勧めするとか、下手に褒めるとかできないんだよなー、顔に出ちゃう。


「ちょっと確認だが……一緒にいてくれるってことだよな?」


 んふふ……甘えるねー。


「ん? なんで? 明日は、買い物に行こうかと思っているんだ。今日は、いろいろと不発に終わったからね」


「おいおいおーい! そこは、四人くらいでお昼ご飯を食べるとかだろがー!」


 ま、そんなところか。

 でも、どうせ食事なら夜が良さそうだけどねぇ。


「うーん、じゃ、昼食ね。それで、いいんだな?」


「えっ? なに? ほ、他になんかありそうな言い方だな……」


「そりゃあ、仲良くなるなら夜の方がいいだろうよ」


「よ、夜ぅ!? 女の子が、夜に男の子と会ってくれるのか?」


 おおぅ……反応が、可愛すぎる。


「どうかな? でも、アイツら、おしゃべり好きみたいだぞ? 話が始まったら、なかなか終わらない」


「……イロハ。ロザエネさんと、夜に話したことがあるのか?」


 あー、そうなるのか。

 ギレットは、探るような目つきで聞いてくる。


「あるね、同じ宿だし。テリアと一緒に押しかけて来て、僕の貴重な一人の時間を潰された」


「くぅー! 羨ましい……頼む! その案でお願いしたい。な、頼むよ!」


「ふむ……」


 セッティングするのはいいんだが、この場合、食事の後の会場は、また俺の部屋になるんじゃないか?

 

 しかし、せっかくの男友達……ギレットは良い奴だしなあ。


「そうだな、頑張ってみるか。ギレット、どこに滞在しているんだ?」


「ん? 俺は、王都に済んでいるぞ?」


「どうやって伝えればいいんだって話だよ!」


「あー、それなら、ここの宿の人に伝えといてくれ。俺が明日の朝、聞きに来るから」


「分かった。じゃ、そうする。食事代は、ギレット持ちな」


「もちろん! ごちそうさせてもらうさ」



 なんか、面白いことになってきたんだけど。

 他人の色恋沙汰は、大好物ですわ……ニヤニヤが止まりませんなー。

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