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八十七話 入学試験:重持久走 その一

次回の投稿は、10/14(月)となります。

 しばらくして、数名の試験官が集まり受付が始まった。

 昨日とは違い、受付の数が多いぞ?

 

 

 なるほど、昨日の受付番号を利用するってわけか。

 百番区切りということは、一番端っこだな。

 受付を見ると、一、二、三……十、十一か、結構多いな千人越えやん。

 

 今日は、だいたい二十番目くらいに並んだが、受付番号を書く欄に一番と書いたら、何かのリストと見比べながら再び一番札を配布された。

 

 顔写真とかは無いので、上手くやれば替え玉受験とかできそうだな……。

 まあ、ハイレベルだと聞くし、合格しても後が続かないか。


 受付が終わった者から順に、中央へ移動。

 ずいぶん広く場所を取っているようで、いまの所何かが始まる気配はなく、ワイワイガヤガヤ状態。


「あー、緊張するー! 今日の試験が、ウチの運命を左右する……頑張らなきゃ……頑張らなきゃ……」


「うう……力が必要で体力勝負……私には、とても……とても……」


 テリアとロザ。

 さっきからこんなことを呪文のように繰り返している。

 緊張マックスといった状態か、何かを話せる状態じゃないな。


 スキルは使っても良いってことだったよな?

 やることないし、念のために敵がいないかくらいは見ておくか、視覚強化!


 黄、黄、黄、緑、黄、黄、久々の感覚だ。

 まあ、敵意は無さそうだ…………およ? これは、どういうことだ?

 

 なんで、あちこちに無数の……これは試験に関係したりするのか?



 ◇◇



 受付が終わり緊張状態の中、一時間くらいが経過、ようやく試験の説明が始まるようだ。

 受付の数も多かったし、昨日と比べて格段に速い。

 どうやら、人数が多いため、全体を五つくらいに分けるみたいだが……。

 

 俺の組は、えーっと一番から百六十番の第一班。

 試験官が三名いるようだが、一番奥の方に立っている人って、クラウトリーさんっぽいな。


 若い男性の試験官より、早速説明が入るようだ。


「番号札一番から百六十番の皆さんが第一班です。番号が違う場合は、名乗り出てください」


「……」


 シーンと静まり返る。

 さすがに、ここで番号を間違う者はねぇ。


「いないようですね。それでは、早速、重持久走の説明に入ります。まず、皆さんに配る鉱石ですが、こちらになります」


 別の試験官がみんなに見えるよう、鉱石を掲げて見せてくれる。

 ボーリングの球のような大きさで、白っぽいざらざらしてそうな表面をしている。

 片手で持ち上げているので、そこまで重くない印象。


「この鉱石をタルカン鉱石と言い、さほど重くはないですが、非常に脆く、水や熱、温度差、湿度などにも弱いです。また、衝撃を与えると崩れていく性質を持っていますので、三回ほど落とした場合、形状を保てないかもしれません。要するに、なるべく現状のまま返却できれば評価は高くなるという事です。大事に運んでくださいね? では、質問を受け付けます。挙手をどうぞ」


 おおー、挙手した者が十名ほどいるな。

 こんな時に迷い無く手をあげられるというのは、勇気がいることだ。


「では、そこの君、質問をどうぞ」


 試験官は、最初に目力のある女性を指定した。


「はい! 鉱石の重さは男女平等なのでしょうか?」


 確かに。

 男には気づきにくい質問だな。

 第一班で言うところの三分の一ほどが女性のようだ。


「はい。基本的に、同じ鉱石を配るつもりですが、それぞれ若干の誤差はあるでしょう。次、どうぞ」


 十人いた初期の挙手組は五人になった。

 次は、真面目そうな男の子だ。

 

「はいっ! 学園の外周という事ですが、道順はどうなっているのでしょうか?」


「道順には、試験官が立っていますので迷うことはありません。次、そこのあなた」


 試験官が立っているのか。

 監視の意味合いが強いのかもな。


「はい。故意の妨害行為とは、どの程度を指すのでしょうか?」


「それは難しい質問ですね。他人の鉱石への攻撃、人を攻撃する行為は妨害行為に当たります。集団で走る際にぶつかった程度では妨害とみなしません。他人への妨害を意図的に行う行為を指します」


 抜け道はありそうだが、試験官が監視しているようじゃ、妨害も難しいかもしれない。


 この後も、いろいろと質問があったが、特に気になる点は無かった。

 だいたい想定内ではある。

 

 でも、ある質問を誰もしないんだよな……。

 目立ちたくないし、テリアにでもさせるか。


「なあ、テリア。制限時間のことを聞いてくれないか?」


「えっ? なんでウチが……自分で言ってよ」


「これは、覚えてもらういい機会だぞ? 試験官からの良い印象が欲しくないか? テリア」


「う……欲しい。分かった、ウチが聞く!」


 なんてチョロいんだ、この子は。

 それでも自信なさそうに手を上げるテリア……逆に目立つ。


「ではそちらの方、どうぞ」


「テ、テリアーナです! あの、せ、制限時間はあるのですか?」


 名前は言わなくてもいいって。


「良く気づきましたね。過去に行った重持久走では制限時間もありましたが、今年はありません。しかし、一定時間が経過した時に、試験官が完走不可能と判断した場合は、失格となります」


 それは、あるってことじゃないのか?

 いや、完走不可能か……鉱石さえ持っていれば可能と判断できそうだな。

 つまり、鉱石を失った場合がアウトってことか。


 ……これ、鉱石が時間で崩れたりするんじゃないのか?


「ロザ、頼む。鉱石は、自然に壊れることがあるのかを聞いてくれ」


「えー! 私は無理です。こんな大勢の中で、とても発言できません……」


 ダメか……仕方ない、自分で言うか。

 目立ちたくはないなあ、と思いつつ挙手。


「そこのあなたで最後ですね。では質問をどうぞ」


 場合によっては、全員にヒントとなる可能性もあるから、聞き方をちょっと工夫しないとな。

 うーん、自然崩壊……露骨か。

 風化? いや、そうだな……これでいくか。


「はい。過去に行ったと言われましたが、その際、鉱石をほぼ()()()()()()()()()()()で返却した者はいましたか?」


「どのような意図があってその質問をしたのか分かりませんが……いませんでした。これでいいですか?」


 若い試験官は、一度後ろを振り返りクラウトリーさんが小さく頷くと、妙な間がありつつ答えた。


「はい、ありがとうございます」


 千人もいて、スキルも使えて持って走るだけなのに、完全体の返却はいない……やはり、自然崩壊もあると想定しておこう。

 つまり、砂時計を持って走っているような感じかもしれないな。


「ねーねー、イロハ。さっきの、どういう意味?」


「テリアよ、君には気づいてほしかったよ。制限時間は無い。でも、遅いと失格になる。失格の条件は何?」

 

「えっと、走れなくなるか、鉱石を返却できない……かな?」


「だろ? 走れないってことは無いよな? なら、時間が経ったら鉱石を失うようなことが起こるんじゃないかと思うんだ」


「それで、私に鉱石が自然に壊れるかを聞いてくれと言ったわけですね?」


「ロザは、察しがいいな。テリアは、察しが悪いなー」


「ウチも分かったもん! でもさ、さっきの聞き方じゃ、みんな分かっていないんじゃない?」


「それでいいだろ? わざわざ教える必要もないと思うぞ?」


「そっか、そうだね。みんな敵だったこと忘れてた」


 俺の後には、質問もなくそのまま準備にかかるようだ。


「皆さん、しばらくそこで待機してください。準備が出来次第鉱石を配ります」




 ◇◇



 第一班の全員に鉱石が配られた。

 かるかん鉱石じゃなくて、タルカン鉱石だったな……。


 百六十人が一斉にスタートか。

 確か、何番目かの質問で、早さを競うものではないとも言ってたな。

 スキルも使っていいと。


 スキル……か。

 強化、細胞、付与……おや? おやおや?


 フッフッフ。

 これはもろたでー。


 一応、フェアにスタートしてからにするか。



「では、重持久走を開始します。鐘の音が鳴ったら走り始めてください。混雑が予想されますので、本来の趣旨を思い出し、冷静にお願いします」



 カンカンカーン!


「ワー! キャー!」


 一斉に走り出した。

 

 これは、自殺行為だろ……ぶつかったら鉱石が……ああ、すでに数名の鉱石が落下してソフトボールくらいになっている者がいる。


 一応、テリアとロザには、鐘が鳴ってもすぐに走るなと言ってある。


「イロハ、この後どうするの? ウチ、早くいきたいんだけど」


「今走ったら、さっきの奴みたいに落としてしまうぞ? 行くのは、少し人が少なくなってからだ」


 十人くらいか、動かず残っている奴がいる。


「テリア、ロザ。この重持久走は、体力や力を試すのではないって事は分かっているよね?」


「えっ?」


「うん」


「おいおい、テリア。さっき言ってたじゃないか。これは、状況判断と対応能力を見る試験だ。走るだけなら、こんなもの持って走る必要は無いだろ?」


「た、確かに」


 そろそろ、人も少なくなってきた。


「よし、行こうか」


「おー!」


 ひとまず、身体強化。

 後は、無生物強化を付与っ!


 ……フッフッフ、これは運が良かった。

 もう、どんな事をしても俺の鉱石は壊れない。


 二人の分は……やめとくか。

 不正になるかもしれないし、こんな事をしても喜ばれるとは思えん。


 おっ、テリアは、足にスキルを使ったみたいだ。

 うっすら青く光ったのが見えた。


 ロザは……何もやっていないか。


「あの、イロハ君。風や振動でも壊れると言っていましたよね?」


「そうだね、たぶん壊れると思うよ。ロザは有効なスキルを持っていないのか?」


「えっ? なんでスキルを使っていないのが分かったのですか?」


 驚きと疑問といった複雑な表情でこっちを見るロザ。


「うーん、スキルを使った時、なんとなく青いのが見える。テリアは足にスキルを使っただろ?」


「な、なんで分かったのよ。小さな声でやったのに!」


「二人は見えないのか?」


「そんなもの見えるわけないじゃん!」


「私も、見えませんね」


 そうなのか……これも、身体強化の恩恵なのか?

 いや、子供の頃から見えていた気がする……どういうことだ?


「……そっか」


「あのね、イロハ君。私が読んだ本に、稀にスキル発動の波動を感じる人がいると書いてあったの。特殊な特性を持った人特有の特異体質だと」


 特殊な特性……これは、少しばかりマズいか。


「特異体質だって? ふぅ、今まで知らなかったよ。二人とも、この事は内緒にしといて欲しい。あまり、そういう事で目立ちたくないんだ」


「分かったー! じゃ、ウチは美味しい食事でいいよ、高いところの」


「わ、私は……甘いお菓子で、お願いします」


 こ、こいつら。

 って、ロザまでかよ。


「お前ら……。分かったよ、ご馳走するし、お菓子も買うから。じゃ、交渉成立だな?」


「おー!」


「はい!」


 俺たち三人は、順調に外周を走っていた。

 通りすがりに、ビー玉くらい小さくなった鉱石を持っている奴が十人ほどいたが、どうしてそうなった……?


 楽しく談笑しながらの外周ランニングもそろそろ終わり、試験も本番となったようだ。

 テリアとロザの鉱石が徐々に崩れ始めた。


 ロザに動きがあって、ブツブツ何かを発したら、両手で抱えている鉱石のほんの少し前方に青い光が見えた。

 空中なので何らかのスキルを使ったのだろう。

 

「ロザ、()()は大丈夫なのか?」


「うん。これは、空気抵抗や風の影響を受けないようにする風よけのスキルなの。私はこれくらいしかできないから」


「なるほどね。今使うってことは、長時間持たない感じか」


「はい。三十分くらいですね」


「じゃ、少し急がないとな」


「うわー! ウチの鉱石が減っていくぅぅ」


「落ち着けって、テリアはせめてつま先だけで走るんだ。ドスドス走るから振動がもろに伝わっているじゃないか」


「えー、疲れるし……」


「ふーん、落ちてもいいんだ。筆記が半分もいってない奴が、頑張らないんだ。ふーん」


「なによ! そんないい方しなくっても……すぅーはぁー。分かった、やる」


 おおー、すぅーはぁーが仕事をしたぞ。


「ところで、さっきから明らかに小さくなった鉱石を持っている奴が多くないか?」


 集団で言うところの後続集団なんだが、ちょうど集団の真ん中あたりで、俺たちよりもかなり小さくなってしまっている者がたくさんいる。


「走っていない人とかもいるね、ウチが聞いてこようか?」


「やめとけって。それにしても、この辺りって何かあるんじゃないか? これは普通じゃないぞ」


「地面が湿っているような感じですね……」


 ん? あれは……。


「まずい! 二人とも、止まれっ!」

読んでいただきありがとうございます。

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