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マスカット

『ひゅー。ほんと、いいお屋敷。定年後はこんな場所に住みてーな』

『周りなんもないから3日で飽きるんじゃない?』

『今はな。でもさ、朝起きたら綺麗な景色、湖で釣りして、自然の中で過ごすって結構夢がないか?』

『まあね。ベーシックインカムで文化的な生活や環境は保障されてても、楽しむってなると天井知らずなんだよね』

『な?』


コルク材メインの木材がたっぷり使われたプレイリースタイルのお屋敷は部屋数だけでも20もある。廊下は大理石に室内はふかふかのカーペット。ところどころにさらに絨毯が敷かれている。


このベッドルームは湖に面していて目覚めと同時に美しく晴れ上がった青空に湖が飛び込んでくる。


家具もアール・デコからタリアセンまで、間接照明灯の柔らかい雰囲気を押し出している。


ガチガチガチガチ


美しい絨毯に足を取られて、床を這いずり回って逃げている「物体」は酷く滑稽で。作りかけのドールのような千切れた腕をそちらに蹴飛ばしてやれば、この散乱した室内から、歯を震わせながら逃げていった。


『アレはどこに逃げるんだ?』

『「人間」は酸素がないと生きられないからドームからは出られないのにね』

『俺らにゃ「毒」だけどな』

『即死するような毒じゃないし、生きられない程でもないけどね』

『まあな。たまに地球環境設定にすると結構気持ちよかったりするよな』


あいつはベッド、俺はサイドチェアに座って雑談。左手の開け放たれた窓からは、湖の近くに大型の鳥たちが集まって遊んでいるように見える。


指で輪っかを作って目に当てると、サンバイザーがズームをしてくれた。


『いや、よほど嫌われていたんだな』

『麻薬漬けにして、虐待していたからね。囚われていた子たちからすれば「遊び」なんかじゃないでしょ』

『俺らはあくまで、何が起こったか、でしか判断しない。俺は職責において虐待と認定する』

『まあ、しばらくしたら行こうか。あ、先にキッチンあるから夜に備えて小腹を満たさない?』

『お、いいな!軽い酒もあればなおいい。おい、最小限のみはり、ならぬ探索担当残して全員来い!』

『あ、担当者は後から追加手当付けるから、適当によろしく』


ベッドサイドには、色鮮やかな生の果物。籠から溢れたみずみずしいマスカットが一粒。


そっと口にした。

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