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幼馴染のルア


 ルアの提案により、転移された場所から動かず待機する事となった。水晶手帳で生徒の現在地を把握できるらしい。


 お互い決闘していた身であるからダンジョン用の荷物などない。


 学校裏ダンジョンの最高到達階は現在75層という事をルアから聞いた。


 救助の可能性は低い……。


 到達したものはダンジョンの横にあるエレベータを使えるが、本人の勇者手帳スマホでしか反応しない。


「わ、わたしの、最高到達階は20層なんだ。そ、その、カ、カーウィは、ダンジョンに潜った事あるの?」


 現在の勇者ランキングの猛者たちが挑んで75層ということはこの85層は俺でさえ危険な場所だ。

 上層へ強行突破しても途中で力尽きるだろう。この層を攻略するのでさえ一週間はかかると思う。

 食料が足りない。

 ……俺の分は現地調達をすれば大丈夫だが。


「ちょ、あんたなんで無視すんのよ! ていうか、この前からカーウィおかしいよ! やっと再会できたと思ったのに……」


「……一つ質問いいか? 俺の事は大嫌いなんだろ? なぜ俺にかまってくる」


「え……、そ、そんな事言って……。あっ、あの時の……」


 ルアは気まずそうな顔をして俺から顔をそらす。

 何かを言いたくて口をモゴモゴさせる。俺はそれを見て何も感じない。

 ただの元幼馴染だ。


「それにルアには好きな彼がいるんだろ? その彼に勘違いされて敵意を持たれても困る。ただでさえ敵が多い人生なのだから」


「……あ、やっ、でも、違くて……」


「あの勇者検定の時、ルアが居残りに付き合ってくれると聞いて嬉しかった。だが、あの当時のルアの行動を振り返ると、俺の事が嫌いだったんだなと再認識した」


「あれは、あんたが情けなくて、イライラして、意地悪したくなって……」


「そうだ、俺がいけなかったんだ。研究所に引き渡されたのも俺が勇者になれなかったからだ」


「……ね、ねえ、いなくなった間の話、聞いてもいい?」


「別に構わん」


 言える範囲でいいだろう。仲間の事や魔神の事は言えるわけがない。



 ***



 とある教室――


「おいおい、この配信マジかよ。こいつら85層に飛ばされてんぞ」

「決闘の時の事故らしいね。……絶対生きて帰ってこれないよね」

「ルア様……」

「ていうかさ、こいつら配信されてるの気がついて無くね?」

「あぁ、事故で飛ばされたし配信されてねえと思ってんじゃね」

「明らかに見られてるの意識してないよね? ルア様乙女の顔してるわ」

「ルア様……、何故あんな老け顔の事を……」

「あいつ、ルア様に冷たすぎじゃねえか。むかつくな」

「まって、聞こえないから静かにしてよ! カーウィ様が喋ってるでしょ!」

「お、おうぅ」

「カーウィ様……」

「お、お前らどうした? 顔か? やっぱり顔なのか!!」

「うっさいわねブサイクは黙ってて! カーウィ様……、ああ、なんて可哀想な御方なの……」

「わたし、カーウィ様のためなら命を捨てられるわ!」

「カーウィ様を助けに行くわよ!」

「85層は無理だろ……」

「うるさいわね! あんたたちも助ける方法を考えなさい!」

「えぇ……」


 教室は異様な熱気に包まれて、配信を見守るのであった――



 ***



 私、ルアは馬鹿な子供だった。

 カーウィの事が大好きなのに、周りからの評価や空気に逆らえなくて意地悪をしていた。


 いつしか、愛情とともに憎悪の感情が芽生えていた。


『一緒に勇者学校に入ってランキングを上り詰めようね! えへへ、カーウィが100位以内に入れたら結婚してあげてもいいわよ!』


『う、うん、ぼく頑張るよ!』


 中学校に入ると、私は周りからチヤホヤされ始めた。

 高い魔力と優れた容姿。だから、カーウィとの約束なんて忘れてしまっていた。


『あんたなんでこんなこともできないのよ! 馬鹿なの? 一緒にいて恥ずかしいわ!』


『ご、ごめん……。お腹空いて力が出ないんだ』


『お姉様はあんなにも優秀なのに……。お姉様から勉強教わっているんでしょ? 聞いてるわよ』


『え……、あ、うん……』


 アミドお姉様は頭が固いけど弟思いの心優しい優秀な女性だった。

 カーウィと比べてしまう。カーウィがお姉様と同じくらい優秀だったなら……。


 あれは勇者検定の前の日だったと思う。カーウィは体調が悪くて学校を休んだんだ。

 私は心配になって放課後カーウィの屋敷に訪れた。


 私がそこで見たものは――


『なに? 明日の試験に支障がでる? 馬鹿者! この特訓を乗り越えられなくて試験など合格できるものか!』

『カーウィ、あなたは本当にクズで馬鹿でどうしようもないわね。……バツとして今日のご飯はお湯だけよ。お母様が言ってたわ。お腹が空いている状態の方が魔力が高まるって』

『逃げるな! 言う事を聞け!』


 私は固まって動けなくなった。

 ショックで記憶が曖昧だけど、走って逃げた覚えがある。

 カーウィがあんな仕打ちを受けているなんて思わなかった。

 怖くて、どうしていいかわからなくて、ママにお願いして精神安定魔法をかけてもらった。


 その晩、わたしは幼い頃カーウィと遊んでいる夢を見た。

 夜中に起きて、私は泣きながらカーウィとの思い出に浸る。

 本当に大事な人が誰か理解して、後悔と悲しさと恐怖を感じたのであった。


 その時私は理解した。自分がカーウィの事を本気で好きだった事を――


 だから、少しずつあの頃のような関係に戻れるようにしなきゃ。優しくしなきゃ。家が辛いならうちにずっといればいいかな、って思ったんだ。


『カーウィは失踪しました。勇者になったら戻ってきます』

『ルアさん、辛いでしょうけど待ちましょうね。大丈夫、きっと元気でやってるわよ』


 大切な人を失ってから初めて気がついた。

 カーウィがどこにもいなくなっていた。

 カーウィの両親に聞いても教えてくれない。お姉さんは訳の分からない事をのたまう。


 思えば、お姉さんは両親に洗脳させていたと思う。全てがカーウィのためになると思った善意の行動。

 だから、自分たちのせいでカーウィがひどいめにあっているって知った時、お姉さんの心は壊れた。


 事故があってカーウィの両親は死んだ。

 ううん、本当は事故じゃないんだ。お姉さんが……、私が隠蔽して……。


 汚れてしまった手はどんなに拭っても消えない。

 どんどん壊れていくお姉さん。

 私は精神を保つために無理に明るく振る舞い、自虐するように訓練に励んだ。


 毎日必ず公園のベンチで座っていた。ここにいればカーウィに会えると思って――


 カーウィの姿がわからなかった。

 怖い男の人が立っていると思った。


 今、カーウィが空白の三年間を話してくれている。

 涙が止まらない、どうしていいかわからない。


 カーウィの心は、身体は……壊れてしまったんだ。


 でも、今朝はほんの少しだけ感情が見えた。


 きっと、カーウィを救ってくれた人が頑張ってくれたんだ。


 カーウィはその人たちの横にいればきっと大丈夫。


 だから、私はもういらない。カーウィが戻ってきたんだもん。



 ……

 …………


「――研究所が解体したあと、ピオネがお母さん代わりになってくれたんだ。あいつは家では上半身裸でうろつくから目のやり場に困る」


「あははっ、ピオネ様、お家、だと、そんな感じなんだ、ね」


「……何故お前は泣きそうになってる?」


「べ、べつに、泣いてないよ。カーウィが喋ってくれて嬉しいだけじゃない?」


「そうか。よくわからんな」


 カーウィはそれっきり黙ってしまった。地獄のような研究所での実験と偽勇者としての壮絶な戦いの日々。詳細は聞けてないけど、生きているのが不思議なくらいの経験。

 私は必死で涙を堪える。


「カーウィ、仲間のところに戻りたいよね?」


「愚問だ。俺が面倒をみないでどうする」


「そっか」


 カーウィの心の中には私はいない。だから、大丈夫……。

 わたしがいつかカーウィを救いに行くために学んだ魔法……。


 一つは私の必殺技で威力を抑えれば決闘でも使える格上特化の攻撃魔法。


 もう一つは自分を犠牲にして対象を転移させる禁忌魔法。帝国内で違法とされている……。


 魔物の咆哮が近くなる。いくらカーウィが強くても勇者ランキング100位前後の強さ。

 だから、犠牲になるのは私一人で十分。



「カーウィ、わたしね、子供頃からずっと大好きだったんだ。……バカで素直じゃなくて言えなかったんだよ。やっと言えてスッキリした! えへへ、カーウィ、私の事はまるっと忘れて学校生活楽しんでね!」


 カーウィが首をかしげて口を開く。



「……いまさらそんな事を言われても困るだけだ。忘れていいのならもう関わらなくていいな」



 カーウィの言葉の刃が私の胸に突き刺さる。大丈夫、全部自業自得だから。



 私は立ち上がり禁忌魔法の詠唱を始めた――

 カーウィの身体がわたしの魔力に包まれる。


 カーウィは顔色ひとつかえていない。


 激しい痛みが身体中を蝕む。魂が欠損していくのを感じる。わたしの固有能力が欠損をさらに加速させる。




「カーウィ、さよなら……」




 最後の力を振り絞って『テレポート』の魔法をカーウィにかけようとした――その瞬間、





「だがな、俺はルアとの『約束』があったから生き残る事ができたんだ。……感謝している」





 最後の最後で、私は涙をこらえきれなくなり前が見えなくなった。

 そのまま私はカーウィにありったけの魔力おもいをぶつけた。


 カーウィは義手を上げて眼帯を外していた。眼帯の奥にあった瞳は黒い炎で燃え盛っていた――





「泣いている幼馴染がいるのに放っておけるか――、そうだろ?」




 カーウィは私じゃない誰かに話しかけているような口調。

 私の魔力がカーウィの義手に吸収されていく。

 どうして? これじゃあテレポートが……。

 力が抜けて……。

 わたし、泣いてなんか、ない、のに……。

 これじゃあ犬死になっちゃう。





「俺の名はカーウィ……、力を開放せよ――」




 カーウィの義手から飛び出した黒い炎があたり一面を覆い尽くした――







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