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幼馴染と決闘


「2対1でいいって……、カーウィ、私の事舐めてるの? あんたが行方不明の間私は学校の首席勇者だったのよ」


「うひゃひゃ、お前死んだな。俺の剣のサビにしてやんよ」


 あの小休憩のあと、ピオネが教室に戻ってきた。カリンが状況を説明すると、決闘の体験授業をすることになった。


 決闘はそう頻繁に起こる事ではない。特に入学してそうそう決闘するやつなどいない。上級生になるに従って決闘に頻度が上がる。


「こらこら、勝手に盛り上がるんじゃねえよ。ったく、水晶手帳でお互いの了承を得たな? 学校闘技場はロエンの魔力に覆われてるから死ぬ事はねえ。痛覚はあるけどな」


 俺たちのクラス全員が学校闘技場へと移動をした。

 ピオネが決闘のやり方の説明をしながら俺たちは水晶手帳の操作をする。


「ああ、承認を得た」

「私もよ」

「ちょ、こ、これでいいのか?」


 今回の決闘は俺対ルアとランとの複数人での戦いだ。

 本人同士の了承があれば人数など関係ない。そもそも勇者の戦いは複数の敵と戦う事なんてザラである。


 50メートル四方の闘技場の戦闘フィールドへと上がる。俺たちの映像は水晶手帳を通して全校生徒に配信される。しかもアーカイブであとから確認することもできる。


 クラスメイトたちはピオネに案内されて観客席へと座る。俺たちのそばにはカリンが突っ立っている。


「今回の決闘の立会人は勇者ランキング115位のカリンが承ったよ! 各々武器の確認はいいかな? よければ定位置に付いてね! 合図をしたら決闘開始だよ!」


 死ぬ事のない戦闘フィールド。だが、痛みを伴わないと訓練にならない。

 ルアが何かいいそうな目で俺を見ている。


「どうした? 調子が悪いのか?」

「べ、別にあんたの事なんてみたいないわよ! ふ、ふん、ちょっとばかし心配して優しくしてあげたら調子に乗っちゃって……。絶対わたしが勝って言う事聞いてもらうもんね!」


 ルアが手に持っている剣を俺に向かって向ける。

 ……あれは勇者ランキング500位以上が持てる特殊な魔法剣だ。身体能力の向上と魔力の循環の向上。


 ルアはさっきまでの泣きそうな顔とは違い、昔みたいな意地悪な表情を俺に見せる。

 ……どうでもいい。早く終わらせて昼食を食べよう。


「お、おい、俺の事無視するんじゃねえよ! てか、お前丸腰かよ!? 舐めてんのか!」


 俺はランの言葉を無視して定位置へと着く。

 ふと、遠くから視線を感じる。ジゼルが心配そうな顔で俺を見ていた。俺はこんな時どんな顔をしていいかわからん。

 だから……、口元をほんの少しだけ上げてみた。

 ジゼルの表情が柔らかくなったよな気がした。きっと間違ってなかったんだろう。





 そして――



「準備はいいかな? ……ん、ごほん、この決闘は全国に配信されアーカイブで保存されます。お互い正々堂々と勇者の名に恥じない決闘を行ってください。武器を持って――、相手が仮死状態になるまで闘え!!」


 ――決闘が始まった。



 ほんの数ヶ月前の日々を思い出す。来る日も来る日も戦いの日々であった。傷ついた身体を休める暇もなく、次の戦場へと移動する。

 研究所に帰れば地獄の人体実験が行われる。


 人間の行いではなかった。魔神でさえ矜持と正義を持っていたんだ。そんなものは欠片もなかった。


 世界を壊したいとさえ思った。

 仲間がいなかったら自分が壊れていた。


 だから、俺は仲間のために……魂の欠損を修復する。

 もしも俺が犠牲になったとしても――


 戦いの日々により壊れた蛇口となった俺の魔力制御能力。義手と眼帯が俺の力を制御してくれる。


 俺は義手を掲げて二人を見据えた――



 ***



 学校首席、10傑の一位レオンハルト総長とメイドのクロエ――


「これが新入生だと? 画面越しからでも魔力を感じるぞ。おい、こいつは何者だ?」


「す、すぐに調べます!」


「あのルアが本気を出さなければ負けてしまうぞ」


「ひゃ!? わ、私の魔力計測器スカウターがぽんって爆発しました! み、耳がぁぁぁ!!!」


「なんだと? ……ピオネ様の時と同じ現象が――」


「ちょっと、少しは私の事心配してくださいよ! この鈍感バカ!」


「す、すまん、そ、その大丈夫か……」


 ***



 新入生特別教室に君臨する聖女……エリ。

 その執事役である――変装した元研究所所長アビゲイル。


「面白い事してんじゃん、せんぱい。てか、本気出せなんじゃないのかな? ふふ、意地悪しちゃおっかな」

「はははっ、カーウィはわたしの最高傑作であるからな! ああ、今すぐにでも解剖したい……」

「趣味が悪いわね。あたしがいいって言うまで大人しくしてなさい」

「ええ、もちろんでございます。あなた様のお陰で私は再び日の目を見れたのですから」


「あらら、モブ生徒がせんぱいの気合だけで飛んでっちゃった」



 ***



 学校勇者騎士団、10傑の2位騎士団長リディカ――

 その執事である勇者ランキング5位の二階堂隼人にかいどうはやと


「あらあら、お茶を入れて頂戴。とても楽しそうな催し物ですわよ」


「本日の紅茶は魔神領で取れた特別な茶葉を使用しております」


「ねえ、わたしよりも強いあなたでもあの子に苦戦するかしら?」


「そうですね……、あの程度なら少々時間をいただければ問題ないかと――」


「あらそう……あなたと同じで実力を隠している可能性もあるわよ。それにしても随分と老け顔の新入生ですこと。白いマントが魔力に当てられて漆黒に染まってますわ。……美しいですわね」


「お嬢様の紅のマントほどの美しさはありません」


「ふふお世辞でも嬉しいわ、あら、ルアが初手から切り札を見せるようですわ。精霊術が得意なあの子の絶対致死の必殺技、ジャイアント・キリング特化の攻撃ね」



 ***



 帝国城、女帝ビビアンと宰相勇者アリス。


「あれが魔神を討伐した偽勇者か。……随分と弱々しい魔力であるな」


「うん、力を制御している模様みたいなのね」


「転移者ジゼルと接触したようなのだ。注意深く監視しろ」


「了解ね! いつでも処分できるようにわっちの部下に連絡してあるのさ! いざとなればわっちがぶち殺すね」


「偽勇者カーウィ、貴様の身体の中には何を宿している? そのどす黒い魔力の正体を我に見せるのだ――」


「びびあん〜、おまんじゅうとショートケーキどっちがいい? 冷蔵庫にあるから一緒に食べよ」


「む、わ、我はおまんじゅうがいいのだ! や、やっぱりショートケーキにするのだ! むぅ……、両方は駄目か?」


「えへへ、じゃあ分けっこするのね」

「うん! はっ……、うむ、そうするのだ!」



 ***



 全身にまとわりつく殺気。剣を構えているルアの殺意が上昇していく。

 そして、ルアが閃光の速さで俺に向かって剣を振るう――


 全てをかけた一撃。俺の眼帯の奥の魔眼が能力の正体をあばく。

 防御貫通、敵対象の魔力が高いほど威力の上昇、絶対命中、魂の損傷――

 敵が強けければ強いほど致命の一撃となりうる必殺技。


 俺がいない間ルアがどんな人生を歩んだか知るよしもない。

 だが、この一撃からルアの何かを感じ取る事ができた。

 それが何かはわからない。

 何故か俺の魔力と『闘気』が身体の奥底から湧き上がる。



 俺は地面を蹴り空高く飛び上がる。

 そして義手をルアへと向ける――

 台風のような魔力の渦が俺の周りに発生する。

 それがルアの剣と激突した瞬間――


 ルアの剣が折れ、あたり一面が真っ白に変わった――――



 ***



 感覚がおかしい? これは一体? 


 時間にして数秒、高速思考で現状を把握する。

 視界は回復すると、そこは闘技場ではなかった。ルアが足元で倒れていた。


「……ここは一体」


 薄暗い大きな回廊。濃い魔力の中に放り出された感覚。

 魔物の咆哮が遠くから聞こえてくる。

 懐かしい空気感。

 ここは戦場だ。


 と、ルアが頭を抱えながら起き上がった。


「う、うぅ……、な、何が起きたのよ。なんで私の必殺技を防げるのよ? ちょっとあんた説明しなさい……え、あれ? こ、ここってダンジョン?」


「ダンジョンだと?」


 ルアがあたりを見渡す。そして自分の水晶手帳をチェックし始めた。


「ちょ、ちょ、ちょ、あり得ないっしょ……。む、無理だよ。絶対死んじゃうよ……」


 顔面が蒼白になり力なく地べたに座り込む。


「説明しろ」


「……学校ダンジョン。ただの学校ダンジョンじゃないわ。正規勇者だけが入れる裏ダンジョン、しかも……ここは勇者未到達階の85層って表示されてるわ……」





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