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初めての授業


「勇者学校は勇者になるための学校だ。お前らはまだ見習い勇者だ。ここで三年間学んで本物の勇者を目指すんだ」


 勇者はランキングで管理されている。

 まず、勇者学校に入学することによって勇者ランキングに加入することができる。

 功績をあげた例外を除いて誰もがランキング最底辺である1万位から始める。


 そして、見習い勇者と呼ばれる学生たち。実は学生であっても見習いの枠から外れることもある。

 勇者ランキング1000位以内。本物の勇者と呼ばれる存在だ。


 学校で1000位以内に入れる生徒は天才と呼ばれる部類だ。


「勇者には系統がある。お前らの得意な事はなんだ? 魔法が得意なやつもいればスキルが得意なやつもいる。俺はどっちも得意だけどな!」


 教壇に立つピオネ。先生として中々さまになっているではないか。

 白衣姿のピオネはホワイトボードに学校の行事と勇者の基礎説明、選択授業と一般授業の説明を続ける。


「いいか、この一ヶ月で自分の適正ジョブを見極めろ。早いやつは3日で学校ダンジョンに挑戦してんぞ。ちなみに学校ダンジョンは今期の最終試験だからな。もちろん帝国全土で配信されっぞ」


 娯楽が溢れている帝国。街を歩けば水晶球技パチンコやウルフレース(競狼)、カジノや水晶遊戯場ゲーセンもある。


 その中で一番の娯楽は勇者闘技場とダンジョン配信サービスである。


 ……賭け事ばかりなのは気のせいか? まあ他にも遊園地などのレジャー施設も充実している。


 おいおい俺たちも闘技場とダンジョン配信には挑戦することになるだろう、なぜなら闘技場の賞品はこの国では中々手に入らない珍しいものばかりだ。


 俺たちの魂の欠損修復に必要なものがある。


 ダンジョンは普通に挑戦する事ができない。帝国が管理しているので勝手に入ると盗掘扱いになり処刑される。

 配信サービスを付与することによってダンジョンの探索許可が降りる。


 学校のグラウンドの脇にある訓練ダンジョンでさえ配信が必要だ。


「で、だ。勇者ランキングは5000位までは試験を受けたり授業を受けてりゃ勝手に上がるぜ。だがな、それ以上は闘技場での勇者同士の決闘、部活で功績を残す、他の国の学生を全国大会でぶちのめす、魔獣や魔人をぶっ殺すと大幅にあがるぜ」


 この学校には決闘システムがある。お互いの了承の元、学校の闘技場を使って決闘を行う。

 勝者のランキングが上昇するシステムになっている。


「ピ、ピオネさん! わ、わたし、あんまり理解できないよ!!!」


「バカ野郎! お前何年学校通ってんだよ、カリン! とりあえずいつも通りぶっ倒せばいいんだよ!」


「あ、いつも通りですね! 殺さない程度に頑張るよ!」


 何度も言うが勇者ランキング115位は化け物だ。何故お前がここにいる……。この教室は新入生のクラスだぞ。


 俺はレネとジゼルに挟まれた席で、カリンは教壇の横にポツンと置かれている席に座っている。何故か誇らしげな顔をしている。


「えへへ、特別生徒だもんね!」

「そうだ、お前は特別な生徒だ。みんなを率先してイチから学び直そうな」

「うん!」


 その後、ピオネは説明に飽きたのか隣に突っ立ていた担任の先生に説明を任せ教室を出ていったのであった。



 ***



 長い説明が終わり小休憩の時間になった。

 教室を見渡すと、半数が勇者試験の合格者であり、もう半数が中学の勇者検定からの進学者だった。


 勇者検定を受けられるものは貴族や裕福な家柄の子供だけだ。

 レネはカリンと連れて教室を出ていった。トイレの場所がわからないらしい……。


 隣に座っているジゼルが俺に話しかけてきた。


「ねえねえ、今朝言ってたあれさ……、本当かな?」

「ギブアンドテイクだ。俺たちの仕事を手伝ってくれたら全力で方法を探す」


 ジゼルの帰還の事だ。こんな教室で言うような話題ではない。この帝国は常に監視されている社会だ。下手なことを言って投獄されてもおかしくない。


「今日の放課後、ミーティングがある。そこで今後の方針を話し合おう」

「う、うん! ふふ、カーウィ君、隊長さんなんだね」

「あれはレネたちが勝手に言ってるだけだ」


 確かに偽勇者のリーダーではあったが、研究所は解体された。所長も投獄されたからもうリーダーではないはずだが……。


「じゃあさ、明日からのダンジョン授業の時にリーダーしてくれるかな? 私はこの世界の常識がわからないから」


 パーティの編成。これは重要な事だ。クラスで何かしらの行動をする時はパーティ単位で行う。

 4人から6人のパーティだ。


 ある程度は生徒たちの自主性にまかせているが、パーティが決まらなかったら学校側が勝手に決めてしまう。


「構わない、パーティの申請をするか?」

「う、うん、この水晶生徒手帳を使うんだよね?」


 水晶生徒手帳スマホを操作すると、目の前に透明な画像が現れる。パーティの申請ボタンをポチりと押そうとしたその時――



「お前ルア先輩の事泣かしたんだろ。……ぜってえ許せねえ。兄ちゃんが言ってたぞ。お前は落ちこぼれで不正でこの学校に入ったって」


 金髪碧眼の男子生徒が俺を睨んでいた。その周りには取り巻きの生徒たちが囲んでいる。

 ……見たことがある生徒だ。……俺の元同級生の弟か?


「おい、なんとか言ったらどうなんだよ。勇者検定で落ちたやつがなんでこの学校にいるんだよ」


 確か兄は高位貴族の家柄だ。横暴でいつも俺にいじめていた記憶がある。兄弟だから性格が似るんだな。

 兄の名前はレン、こいつ名前は……。


「……んだ、落ちこぼれ聖女って言っても顔は可愛いいじゃねえかよ。俺は帝国官僚の息子のラン様だ。特別に俺のパーティに入ってもいいぞ」


「えぇ……、嫌だよ」


「あんっ、落ちこぼれがわがまま言ってんじゃねえよ」


 正直、自分が何故ここまで敵意を向けられているのが理解出来ていない。何故、人を軽率に見下すのだ?

 ルアと俺は幼馴染、もう関わりの無い関係性だ。それに彼……、ランとは初対面だ。


 ああ、これはあれと一緒か。

 俺が戦場に出ていた時はよく勇者に絡まれていた。


 そういう時の対処法はある。


「実力行使か……、しかしここは学校だ。別に構わないか……」


「な、なんだ、てめえ、や、や、やるのか!? 俺の兄ちゃんは勇者ランキング500位なんだぞ! 校内ランキングだと10傑に入るんだぞ!」


 俺は立ち上がりさり気なくジゼルの庇うような立ち位置に移動する。


「カーウィ! け、喧嘩はやめて!!!」


 視界の隅に映るルアの姿。あいつは上級生だからこの教室に来る必要はない。気にする必要はない。


 何故か俺の右手の魔力が高ぶっていた。抑える必要もない程度の力。


「――声が震えているぞ。……この世から消えろ」


 固まって動けないこの男を処理しようとしたその時――

 後ろから誰かに抑えられた。


「ちょ、ちょっと待つのね! こ、こんなところで暴れたらわたしがピオネさんに怒られちゃうよ! てか、地味に暮らすんじゃないの!?」


 カリンが俺の耳元で喚き散らす。暑っ苦しい胸を押し付けられている。


 では俺はどうしたらいい? 


 いつの間にかルアがランの近寄っていた。


「あのね、決闘すればいいと思うよ。この学校は力が全てだから……私、カーウィとちゃんと話したい。アミド様の事も聞きたいし。だから、私も決闘に参加して、カーウィに勝って言う事を聞いてもらう」


 教室がざわつくのを感じる。


「おい、ルア生徒会長って今ランキングいくつよ」

「確か250位ですっごく強いはずだ。パーティの仲間も最強クラスだ」

「マジか、あの老け顔死んだな」

「校内十傑のうちの三位じゃん。この前も全国大会で優勝してたもんね」

「カリン様にも勝てるんじゃね?」

「胸の大きさはルア会長の勝ちだぞ」


 決闘か……、かつて子供の頃ルアと決闘ごっこをしたのもだ。

 思い出が全部灰色になって霞んでいた。姉の事は記憶から消えていた。そういえば姿が見えない。別にどうでもいい事だ。


 一度の決闘で面倒な事がなくなるなら別に構わない。


「受けて立とう」


 ルアが嗚咽をこらえながらうなずく。何故泣きそうな顔をしている? 俺には理解できない。

 ふと、子供の頃、怪我をして泣いているルアの事を思い出した。


 が――、やはり何も感情が湧かなかった。




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