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レネ


「おい、あいつが噂の新入生か?」

「絶対十六歳じゃねえだろ? どんだけおっさん顔なんだよ」

「アミド先生と互角にやりあったやつか。配信見たけどそんなに大したことなくね? 見た目が怖いだけか」

「アミド先生は手加減したんだよ!」

「んだよ、ちっとばかしカッコいいからって調子乗りやがってよ」

「研究所の生き残りって噂もあるよね」

「えっ、あの都市伝説? まさかありえないよ」

「ていうか、不正してんじゃねえの。アミド先生が負けるわけねえ!」


 アパートから学校までは30分ほど歩けば着く。銭湯も近いしショッピングモールも近い。悪く無い立地だ。


「ねえねえ、みんなカーウィの事見てるよ?」


 俺の隣を歩いているレネ。レネは小さな女の子だ、見た目は小学校高等生に見えるだろう。だがしかし実年齢は俺と一緒だ。


「いや、レネが可愛いから噂をしているんだろう」

「ちょ、カーウィやめてよ! あんた真顔で本当の事言わないでよ!」

「……相変わらず騒がしい女だな」

「へへ、久しぶりにカーウィと話せてるから気分上々だもん!」


 研究所から救出された俺たちはそのままピオネに保護された。そして、ロエンが経営している病院に押し込まれた。

 他の二人は別日に勇者試験を受けたが、まだ調子が悪いから病院で休んでいる。というよりも、ロエンから力の制御方法を学んでいるといった方がいいだろう。


「ねえねえ、私達が欠損した魂って本当に回復できるのかな?」


 レネの顔は暗くない。これから始まる学校生活に期待と喜びを感じている証拠だ。


「その事でロエンから今日の放課後病院で話があるみたいだ」

「へへ、魂の欠損が修復したらわたしもう少し背が高くなるかな〜」

「いや、それは無理だろ」

「むぅ、カーウィだって老け顔じゃん!」

「……便利なときもあるぞ? 酒場に入ることができる」

「べ、別に羨ましくないもんね!」


 と、その時俺たちに駆け寄ってくる人影が見えた。

 制服姿のカリン……。ああ、そうか、こいつは馬鹿だから勇者学校を何年も留年しているって聞いたな。


「あ、ああぁ! 私との勝負逃げたカーウィだ!」

「バカ、俺たちは知り合いじゃないだろ……、隠す必要があるし、勝負から逃げたのはお菓子に釣られたお前だろ……」


 カリンがハッした表情になる。


「え、あ、やっ、もう試験は終わったもん! た、たまたま試験生とあって友達になった体でいいじゃないの!」

「いやしかしな」

「カーウィ別にいいじゃん。カリンさんおはよ!」

「お、おおぉ、レネちゃんは今日もかわいいね! ふふ、学校でわからない事があったらお姉さんに聞きなさい!」

「えぇ、カリンさんはちょっと……」


 ふと、カリンの後ろにも人影があった。

 ……昨日の女の子? 確かジゼルっていう名前の転移者だ。


「カリンさん、あたしにも二人を紹介してよ」

「や、べ、別にこの子たちとは知り合いでもなんでもない! で、でも、その、あの……」

「えぇ、絶対知り合いでしょ? まいっか、カーウィ君、また会えたね!」

「カーウィ君⁉ ぷっ、ははっ、カーウィ、君付けにさえれてるよ!」


 レネが腹を抱えて笑っている。……どこが面白かったか俺にはわからん。まあ確かに君付けされたのは初めてだが。


「ジゼルだったな。……あまり俺たちに関わらない方がいいぞ? 俺はどうやら敵を作りやすいみたいだ」


 さっきから敵意を感じる。上層部がいくら隠蔽しようとも、噂という形で研究所の事は知れ渡っているんだ。……大丈夫だ、嫌われるのは慣れている。


「えっ? どうでもいいよ。だって、あたしは落ちこぼれ聖女らしいし、ほら、あっちの人だかり見てよ」

「……あれはもう一人の転移者か」

「うん、本物の聖女様だよ」


 ジゼルの視線の先には大勢の生徒に囲まれた女の子がいた。

 黒髪が印象的で大人しそうな雰囲気の女の子。あれは東方で流行りの装束を着ているのか。……制服は着なくていいのか?


「まっ、あたしは魔法が使えなかったから仕方ないけどね! 異世界の生活を楽しまなきゃ!」


 レネが俺のそでをクイクイと引っ張る。

 少し悲しそうな顔をしている。


「……お姉ちゃん、一人ぼっち、知らない世界、誰も助けてくれない、馬鹿にされる、痛いのは嫌、怖い、帰りたい、友達に会いたい、仲間に会いたい、ファンが待ってる……」


「えっ………………」


 レネは漠然とだが人の心を読むことができる。特に負の感情を読み取るのが得意だ。

 レネは首をかしげている。


「……ニホン? 国の名前かな? ……お姉ちゃん、自分の国に帰りたいんだ」


 カリンはあたふたとしながら周りを警戒している。こんな事を誰かに聞かれたら大変な事になる。

 転移者は召喚者の言う事を聞かなければならない契約だ。


 さっきまで笑っていたジゼルが真顔になった。


「……うん、本当は帰りたいよ。でもね、帰り方わからないの。……みんなに、心配かけてると思うし……、突然、いなくなって……、お父さん、お母さんが悲しんでると思うし……」


 レネがジゼルを抱きしめた。

 小さい身体なのに大きく見える。実年齢はもしかしたらレネの方が上なのかもしれない。


「……うん、わかった。私達があなたを元の世界に戻してあげるよ! えへへ、そのかわり私達の仕事も手伝ってね!」


「レ、レネ? お前何を言って――」


「カーウィ君は黙ってて!」

「お前まで君付けするな……」

「えへへ、カーウィあのね、私ね、学校で友達作りたかったんだよ。でも、色々あるから作れないでしょ? 多分ジゼルなら大丈夫。カーウィなら私の言ってる事わかるでしょ」


 レネは自分の能力によって言葉の真偽が的確にわかる。だからレネが信じられる人間は俺も信じられる。

 しかし……、


「もう、泣いている女の子がいるんだよ? カーウィ、いつものセリフ言わなくていいの?」


「……あれは別にいいたくて言ってるわけじゃない」


「はぁ、『俺の前で泣いてる女の子は放っておけない』って、私たちに言ったでしょ! しかもピオネさんにまで!」

「……忘れた」


「ぷっ……、あははっ、二人のやり取り見てたらおかしくなっちゃった……。うん、泣いたらスッキリしたよ。あのね、もしよかったらこんなあたしと友達になって欲しいな」


 レネに抱きしめられているジゼルが俺に手をのばす。


「……笑ってる方が素敵だぞ。友達なら悲しみを分かち合え」

「変な言い方、でもありがと……。カーウィ、レネちゃん、これからよろしくね!」

「うん!」


 レネの大きな返事が聞こえた。……心があたたまるはずなのに、同時に悲しさが襲いかかる。

 ――友達になるなら、俺たちの、レネの寿命を説明しなくてはならない……。


 そんな悲しさもレネの笑顔を見ていると消えていくのであった。







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