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魔女と剣聖


 研究所にはたくさんの子供たちがいた。

 ほとんどが俺と同年代であり、親に売られた勇者になれなかった子供たちであった。


 苦しい人体実験の中、仲間たちだけが救いだった。


『ふむ、これも失敗作か。助手よ、廃棄しておきなさい』


『二十号の寿命は少し伸びたようだな。せめて寿命は三年生きられるようにしないと使い物にならん』


『ほほうっ、三号の適合値が非常に高いのだ! 実験を繰り返して実践投入するぞ。さすれば更に研究資金が手に入る』


 勇者としての仕事の一つ、それは外敵を葬ることだ。

 この時期は魔神というものが帝国を侵略している最中であった。勇者ランキング1000位以上の勇者たちが軍を組んで魔神討伐を試みた。


 俺たち強化人間……偽勇者はその勇者パーティーの補佐的な役割を担っていた。


 そういえば、戦場で姉と出会ったことがある。

 その時の俺は仮面をつけていたからわからなかっただろう。


 無茶な進軍をして取り残された姉の部隊。死地の中俺は――


『アミド様! マイケルが戦闘不能です! これ以上は隊が持ちません……』


『そう、ね。ここまでなのかしら……。あなた達は逃げなさい、ここは私が――、えっ……あなたは?』


 その時の感情は覚えていない。

 姉の部隊に群がる兵士を狂ったように殺しただけだ。不完全な勇者は力を使うことによって代償を支払う。


『化け物……』

『いまのうちに逃げるわよ!! 私をフォローしなさい!』


 俺は偽物の勇者だ。研究によって作られた存在。魂がすり減ったとしても戦いを強要される。

 本物の勇者の安全と、栄光を譲るために。



 ***


 勇者ランキング七位、魔女ロエン。

 百年以上生きていると言われているが、その見た目はどう見ても少女にしか見えない。


 魔神討伐の際に、高位勇者パーティーの要であった存在。

 過去も現在も勇者学校の校長を務めている。


 そんな彼女と俺の保護者である勇者ランキング三位、剣聖ピオネがお茶を飲みながら談笑をしている。……俺が住む予定のアパートでだ。


「ふふ、覚えていますわ。カーウィが向かった戦場には魔神軍の幹部魔人カイロンがいて」

「んあ、俺ってばその時どこいたっけ?」

「バカ、あなたは魔神の元に向かってたんでしょ? 精霊の目で見てましたわ」

「ああそっか。てかカーウィがカイロンぶっ殺したんだな。知らなかったじゃん」

「ええ、表向きはその場にいた勇者部隊の功績になっていますわ」

「てか、カーウィ! お前も座ってお菓子でも食べようぜ!」


 呼ばれたなら仕方ない。台所のチェックをしていた俺はテーブルへと向かうことにした。

 ピオネが俺の手を引っ張って無理やり横に座らせる……。

 ロエンは肌をあらわにした薄着だから視線のやり場に困る。


「あらあらいつの間にか仲良しさんになっていますね。羨ましいですわ」

「いや、別に」

「何照れてんだよ。ロエンが痴女みたいな格好なのは今更だろ? てか、その服恥ずかしくねえの?」

「これは魔女の正装です。ハイレグのカーブの切れが重要ですわ。恥ずかしくなんてありません! ……カーウィは明日の試験が心配なのですか?」

「何も心配はしてない。それにロエンには感謝している。俺が、いや、俺たちが望んだ普通の学校生活を送れるチャンスをくれたんだ」


 あの研究所での実験は違法であった。その被害者である俺たち実験体は様々な場所から集められた子供だ。

 研究所が解体され、所長が投獄され、生き残った子供たちは好きに生きていくことを許された。


「お前の仲間もすぐに合流するから待ってろよ。そのためのこのアパートだろ?」

「ピオネ、すまない」

「かぁーっ〜! 暗いんだよ! もっと明るく笑えや」

「こら、ピオネ、無理強いはよくありませんわ。時間がカーウィたちを癒やしてくれるまで待ちましょう……」


 そういったロエンの顔が暗い。理由はわかっている。俺たち強化人間の死亡率のことだ。

 研究所にいた数百人の子どもたちは俺を含め4人を残して死んでしまった。戦闘で死んだ者もいれば、実験で殺されてり……寿命で死んでいった。


 俺たちの寿命は極端に短くなっていた。強大な力の代償に寿命を使用する。最悪な実験結果であった。


「でもよ、カーウィは寿命の影響は少なかったんだろ?」

「そういう訳では無い。力を本気で開放すれば俺も寿命を削ることになる」


 あの所長は言っていた。俺が唯一の成功体だと。俺を研究すれば実験が成功する、と。


「てかそろそろ試験時間じゃね? カーウィ、準備しろよ」

「問題ない、準備は出来ている」


 勇者学校の入学試験。中学に行われた適正試験とは違い、勇者としての力に目覚めた編入生向けの試験である。

 なんてことはない、課題をクリアすればいいだけのことだ。


「カーウィ、気をつけてくださいね。試験官にはランキング115位のカリンがいます。その……手加減してくださいね」


 ランキング115位。本来なら化け物と呼ばれるレベルだ。

 俺は自分の右手の義手を擦る。左目には眼帯をつけている。俺の力の暴走を抑える魔導具。

 これらがある限り、俺は暴走することがない。


「大丈夫だ、この義手と眼帯のお陰でちょうど良い戦いになるだろう」



 ****



「……行っちまったな。あいつ、いつか笑ってくれるかな」

「あら、ピオネにしてはしおらしいわね」

「ばっか、俺にとってあいつは命の恩人なんだよ」

「ふふ、そうね、彼がいなかったら私達の命はなかったわね。本物の勇者よりも強大な力を持つ『偽勇者』」

「バカ野郎、偽物なんかじゃねえ! あいつが本当の勇者なんだよ。この国の勇者は腐ってんだよ……」

「わかってるわよ。だから――あの子たちには幸せになってほしいわ」


 お茶菓子を食べながらロエンが水晶端末タブレットを操作する。

 水晶端末に映し出されたのは勇者学校の編入試験場。


「ふふ、今日はリモートワークなのよ」

「お、おう、相変わらず最先端の技術が好きなやつだな。てか、カリンのやつ超やる気になってねえか?」

「カーウィたちと戦えるからでしょ? 知り合いだってバレないようにしてね、っていい含めたから大丈夫だと思うけど……」

「ぶっちゃけ不安だな。カリンのやつは――」

「うん、お馬鹿さんだからね」


 俺、ピオネが保護をしたカーウィたち四人の被検体は心も身体も傷だらけであった。

 ……カーウィの余命は長くて5年。それでも一番長い方。一番短い女の子、レネは……あと一ヶ月で死んでしまう。


 俺はこんな理不尽を許せなかった。子供であったはずのカーウィの容姿は、二十代後半に見える。度重なる人体実験の影響だ。


 戦場では右手と左目を失い、心が摩耗して感情が希薄だ。

 だから、カーウィが幼馴染に会いたいと言った時、俺は喜んだ。壊れた心が少しでも良くなったと思った。

 なのに……、なんだってあんな結果になるんだよ。


 カーウィは優しい子なんだ。あいつがいたから他の被検体も生き抜いてこれたんだ。

 知らず知らずのうちに拳に力が入っていた。血がポタポタと床を汚していた……。


「ピオネ……、大丈夫よ。どうにかして彼らが生きられる道を作るわよ。幸い、少しなら寿命を延ばせる薬も作れたし……」

「ああ、あと、普通の学校生活も送らせないとな」

「うん……、あっ、カーウィたちが来たわよ」

「今回は参加人数が多いな。んだ、関係ない勇者がいるぞ? あれってカーウィの元姉じゃね? 試験官やるつもりか?」


 心優しいはずのロエンから不穏な空気を感じた。

 問題児であるカーウィの元姉。非常識な行動で他の勇者にいつも迷惑をかけている。


 魔人カイロンを倒したとされる功績で勇者ランキングを大幅に繰り上がった女だ。

 カーウィの手柄があの女の手柄になったんだ。

 弱い勇者たちがあの女を担ぎ上げて妙な派閥が出来ている。


「構いませんわ。……後で減給処分をすればいいです」


 ロエンの口ぶりは本当の魔女のように冷酷な口調であった――







頑張ります!

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