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偽勇者と落ちこぼれ聖女



 黒い炎に包まれたルアは戸惑っていた。

 俺はあの頃を思い出して何故か微笑んでいた。

 ルアの姿が消える。テレポートの発動の成功だ。


「お前の想いは俺が引き継ぐ。また後でな……」


 ルアの魔法は魂の欠損を使ったものだと理解した。魔力とともにルアの気持ちが流れ込んできた。

 どうでもいい、頭ではそう思っているのに――


 心は何故か熱く燃え盛っていた。


 禁呪の反動は俺の黒い炎で全て打ち消す。

 魔神にさえ打ち勝った偽勇者の俺の特性――それは魔法の吸収と放出だ。


 ルアはすでにダンジョンの外に移動できたであろう。

 俺は魔物と対峙しながら一人つぶやく。


「わからないんだよ。自分の感情が……。あんなに大切だった約束もどうでもいいと思ってるんだ。だけど――」


 俺の魔力に呼応してダンジョン内を徘徊している魔物が襲いかかってきた。


「嫌いになろうとしてもなれない。無関心でいられれば心が痛くならないのに。もう、二度とあの頃には戻れないはずなのに――」


 攻撃魔法を全て吸収して己の力へと変換する。

 想いが俺の強さへと変わる。



 その時、俺の横に黒い人影が現れる。


『お主は相変わらず女には優しい男じゃのう。……流石にここまで力を開放したら寿命が一ヶ月縮まるぞい。はぁ、まったく儂がいないと駄目な男じゃ』


 魔物を消し炭にしながら俺は心の中で声に答える。


『無駄口を叩くな。ここの魔物は存外レベルが高い。プリム、ここからどうやって脱出できると思う』


 魔神戦争の終結、それは魔神を消滅させて終わったとされている。


 俺しか知らない秘密。魔神との最終戦で勇者は全滅した。正直、勇者同士のいざこざがあったのが理由でもあるが、魔神の力に対抗できたのは俺しかいなかった。

 あの場には俺と魔神プリム、二人だけだ。

 瀕死の勇者たちは俺が全員テレポートさせたのだ。


 ……長い戦いのあと、俺は魔神プリムを身体の中に封印する事にした。

 そうじゃないと俺はその場で死んでいたし、あいつは泣いていたから……。


『お、お主、儂が泣いてた時の事思い出すな! 意識の共有は恥ずかしいのじゃ! べ、別にお主の事が気に入って封印されたんじゃないのじゃ!』


 魔神は時折ルアみたいな口調になることがある。そうだ、戦いながら懐かしさを覚えたんだ……。


『むぅ、帰還の方法じゃな。そうじゃの……、ここの最下層は90層。じゃが、そこまでお主の力は持たんのじゃ。幸いこの奥にボス部屋の雰囲気がある。ボスを倒して儂が無理やりエレベーターを起動させるのじゃ。そこまで頑張れるか?』


『愚問だ』


『ならばこれを使うのじゃ』


『……趣味じゃないが仕方ない』


 魔神の陰から一振りの剣が湧き出る。魔神が使用したとされる魔剣――


 俺は義手でそれを握りしめ、魔物を殲滅せんと咆哮をあげるのであった。




 ***




 スマホの配信に映し出されるカーウィ。

 凶悪な魔物を無慈悲に殲滅する姿はまるで本物の勇者のよう。


 わたし、ジゼルは教室でレネと一緒に配信を見ていた。すぐにでも助けに行きたかったのにピオネ先生が許してくれない。ピオネ先生の気持ちもわかる、だって拳が血まみれになっているんだもん。


 クラス中の生徒たちが夢中になってダンジョン配信を見ている。


「んだよ、なんでこんな可哀想なやつがいるんだよ」


「ルアさん、命をかけて大切な人を守ろうとして……」


「はっ、なにあの笑顔……反則じゃん。明日の新聞のトップで決定じゃん!」


「ルア様がダンジョンから出てきたらしいぞ!!」


「えっ、もしかして一人しか移動できない魔法なの?」


「テレポートは禁呪だ……。これ全国配信だから捕まるんじゃねえか。……そんな事も気にしねえなんて……これは愛だ! やばい俺泣けてきた」


「配信視聴数がやばいぞ。……一瞬で百万超えやがった。こりゃ一億いく」


「コメントもやべえな。陰キャ勇者たちが書き込んでやがる。おい、こっちには考察サイトが出来てんぞ!」


「おいおい、カーウィ、お前……。熱い男じゃねえかよ。ぜったい死ぬな。お前は俺のライバルなんだから!!」


「いや、あんた速攻気絶したじゃん。てか、こいつ戦闘力尋常じゃなくない? わたし、闘技場マニア(ギャンブル中毒)なんだけど、このレベルは上位でも数人しかいないよ」


「バカ、学生は賭け事禁止だぞ! あっ、ボス部屋についたぞ。……えぇ、ド、ドラゴン」


「俺魔物オタクだからあれ知ってる……。神話級魔物エンシェント・ドラゴンだ……」


 私の隣にいるレネも必死でカーウィの事を応援していた。私もカーウィのことを応援したいけど、気になる事がある……。


「カーウィ頑張れ! そんなやつ燃やしちゃえ!!」

「ねえ、レネちゃん、この黒い人影って何かな?」

「黒い人影? そんなの見えないよ?」

「え……」


 明らかに小さな黒い人影がカーウィの周りをチョロチョロ動き回っている。


 目を凝らしても見ると、角の生えた小さな女の子の姿をしている……。だ、誰だろう?

 画面の中の女の子と目があった気がした。


 女の子は首をかしげ私を見つめている。

 頭の中で声が聞こえてきた。『誰じゃ? 儂を見ているのは?』


「わ、わわぁ、見られてるよ……」

「ジゼル、変な事言わないでよ。幽霊かなんかじゃないの? あぁっ! やっと倒したよ! これできっと帰ってこれるんだよね?」


 カーウィが死闘の末エンシェント・ドラゴンを倒した。配信画面にはコメントの洪水が流れて画面が覆い隠される。……ミュート。


 小さな女の子がカーウィ何やら奥にあるエレベーターの操作盤を弄っている。時折感じる魔力が不思議と心地よいものであった。


「ねえ、なんで帰ってこないの? エレベーターが作動しないの? もしかして本当に帰ってこれないの? ま、まだ初日なのに、カーウィと学校生活送るって約束したのに……」


 生徒の叫ぶ声が聞こえてきた。


「やべえ、魔物の大群がボス部屋に押し寄せてくる! カーウィの体力が持たなそうだぞ!」



 ***



 何故か、私は、今になって、転移する前のあやふやな記憶を思い出した。

 わたしは、私は――


 ……

 私、ジゼルは昔から落ちこぼれだった。

 子供の頃から子役として活躍している女優の姉。姉と言っても年一つしか違わない。


 私は家のお荷物だった。


 お母さんもお父さんも姉のそばを片時も離れなかった。姉が家の大黒柱だからだ。

 両親が授業参観や入学式、卒業式に来たことはない。私がいらない子だからだ。


 私が問題を起こすと姉の迷惑になる。そうやって家に閉じ込められた。


 灰色の青春。それでも子供の頃はテレビ越しで見る姉の活躍を見るのが好きだった。


 そんな姉に嫌われていた私。姉が支配していた学校は地獄だった。姉が支配していた家でも地獄だった。逃げ場はどこにもなかった。

 そして家出した私が自力で見つけた居場所――地下アイドル。


 ……駄目、全部思い出すと吐き気が止まらなくなる。


 なぜなら私は――姉に背中を押されトラックに引かれたんだ……。


 そして、この世界へ転移して……また落ちこぼれで……。


「ジゼル? どうしたの?」


 自分の手を見つめる……。

 私は誰かの役に立ちたかった。それ以上に友達を作りたかった。普通の生活をしたかった。


 カーウィ君が私を助けてくれた事は一生忘れない。

 弱い私の心に何かを植え付けてくれた。

 だから――


「私が今度は助ける番だよ……」


 私は画面に映し出されている小さな女の子の魔力を感じ取る。

 やっぱり他人とは思えない魔力だ。

 目を閉じて自分の魔力を上昇させる。カーウィ君に教わったやり方――


「え、え、え、え? ちょ、ジゼル? ど、どうしたの!? 教室が揺れてるよ!!」


 目を閉じても小さな女の子の魔力を感じ取る事ができる。

 画面の中の女の子は私の魔力を感じて戸惑いながらも小さく呟いた。多分私にしか聞こえない声。魔力が繋がっている感覚。


『え? 今代の聖女……? 偽物じゃないのじゃ……。わわ、こっちに魔力向けてるのじゃ! う、うむ、この魔力を奪い取ればエレベーターが……、ふわぁ!?』


 私は最大限の魔力を何もない空に向かって放出させる。強力な魔力の塊。私の精一杯の力。


 そして私は次元を切り裂いた――

 次元の隙間から見えるカーウィ君。眼帯を装着した傷だらけのカーウィ君が驚いた顔をしていた。


 次元は一瞬しか切り裂けない。だから、



「手を伸ばして!!! カーウィ君!!!」



 カーウィ君は手を伸ばし、私の手を掴む。

 そして躊躇なく私の胸に飛び込んできた!? 

 それと同時に次元の隙間が閉じる。


 私の胸に顔を埋めいているカーウィ君。私はどうしていいか分からず困ってしまう……。

 カーウィ君からはさっきの女の子の魔力の残り香を感じる……。


「おかえり、カーウィ君。ほら、もうとっくにお昼過ぎちゃったよ。放課後はミーティングするんでしょ。早く帰ろ」


 気の利いた事なんて言えない、だって私には友達がいなかったからどうやって接していいかわからない。


「何故ジゼルが泣いている……?」


 気がつけば私は泣きながらカーウィ君の頭を抱きしめていた……。


 






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