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殺し屋 慈悲心鳥  作者: 来宮奉
CIL社長 山辺舜介
13/60

株式会社化学産業研究所(CIL)

CIL見取り図

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 化学産業研究所。ケミカル・インダストリアル・ラボラトリー。

 通称CIL。


 社員数500名ばかりではあるが、独自の研究開発施設を有し、化学材料・医薬品合成関係の特許を多く取得する民間企業だ。

 特許の他に大手メーカーとの共同開発も実施し、量産技術の開発サポートでも多くの収入を得ている。

 この分野では名の知れた会社であった。


 その子会社であるCILサポートの社員、小田原おだわら千絵ちえは、昼食後に会社の最寄り駅へと向かった。


 10月1日、水曜日。

 今日はCILで内定式が実施される。


 来年度入社予定の学生達がやってくるので、その案内にやってきたのだ。

 会社名が記載された看板をたて、駅北口を出たところで待機。


 腕時計を確認。時刻は13:15。

 14:30集合と伝えてあるのでまだ1時間以上猶予はあるが、気の早い内定者はもうやってくるかも知れない。

 そろそろ下り電車が到着する頃合いだ。


 来年度入社は21名。

 遠方出身者もいるが、全員内定式に参加予定。


 踏切の音。駅構内から響くアナウンス。そしてやってくる電車。

 下り電車がやってきた。まだまだ早い時刻だが、果たして内定者はやってくるだろうか?


 小田原は手鏡を見て髪型を整える。

 来年度の入社予定者。つまり後輩になる人と会うのだ。


 小田原は現在入社2年目。来年度では3年目になる。

 後輩に変な姿は見せられない。


 手鏡に映るのは、垂れ目気味で地味な顔。

 華はないかも知れないが、かといって悪目立ちする訳でもない。没個性的な顔だと自分でも思う。

 でもそれでいい。

 普通が一番。いいじゃないか。普通だって。


 前髪を整え終わると手鏡をしまって、改札をくぐる人々を観察。

 平日の昼過ぎとあって利用者は多くない。

 そんな中にあって、スーツ姿の学生は良く目立った。

 相手も黄色と白と青で彩られた社名入り看板を見つけると、迷うことなく真っ直ぐ小田原の元へやって来た。


 最初にやってきたのは、すらりと背の高く、細身でキリッとした顔つきをした女性。


 ――天野あまの由梨ゆりさんだ。


 小田原は今日のために内定者全員の顔と名前を覚えてきていた。

 やって来た天野に対して一礼する。


「遠方よりお越し頂きありがとうございます。

 天野さんですよね」


「はい。

 ――お会いしたことありましたか?」


「直接会うのは初めてです。

 ですが顔写真を頂いていたので。

 こちらをどうぞ。乗り場はあちらのエスカレーターを降りてすぐの1番乗り場です。

 CIL前のバス停で降りて、道路の反対側になります」


 バスチケットを1枚渡すと、天野はそれを両手で受け取って深く頭を下げた。


「ありがとうございます。

ええと――」


「小田原です。

 サポートの社員ですので、入社後の福利厚生などで関わることになると思います。

 よろしくお願いしますね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 天野は再度頭を下げると、エスカレータへと向かった。

 既に次の内定者がやって来ている。


 メガネをかけた、大人しそうな表情の女性。

 少し迷ったが、岩垣いわがきゆづきで間違いなさそうだ。


「岩垣さんですか?」


「はい。岩垣です。

 ……小田原さんですか? 今朝は電話対応ありがとうございます。

 すいません、朝早くに連絡してしまって」


 2人は初対面だったが、午前中に電話で話していたので互いの声を知っていた。

 小田原は岩垣の、独特ななまりを隠そうとしているけど、所々で語尾になまりが顔を出すしゃべり方を気に入っていた。


「いえいえ。連絡頂けて安心しました。

 私は8時半には出社していますので全然問題なかったですよ。

 それに飛行機無事に乗れたようで良かったです」


「ええ、それは本当に。

 チケットとホテルとっていただきありがとうございました」


 岩垣は北海道の高専出身だった。

 航空券と宿泊ホテルの手配を行ったのは小田原だ。


「お役に立てたら何よりです。

 こちらをどうぞ」


 小田原はバスチケットを渡し、それから乗り場と、降りるバス停について案内をした。

 岩垣は説明を受けると一礼して、乗り場へと向かうエスカレーターに乗り込んだ。


 続いてやってきたのも女性だった。

 垢抜けない女性。大学院生の天野、高専生の岩垣よりも若い。

 地元商業高校生の宮本みやもと芽生めばえだ。

 小田原は彼女のことを前々から目につけていたので直ぐに分かった。


「宮本さんですね。

 お越し頂きありがとうございます。

 バスチケットをどうぞ」


「あ、ども、ありがとうございます」


 宮本は年上との会話になれない様子で、おどおどしながらチケットを受け取った。

 CILは毎年、地元高校出身者を1名採用する。

 2年前、その枠で採用されたのが小田原だ。


 同じ地元高校出身とあって宮本には親近感が沸いていた。


「緊張しなくても大丈夫ですよ。

 もう内定は出ていますし、本日は皆さんを歓迎する催しですから」


「は、はい。

 ありがとございます」


 宮本は短く口にすると、そそくさとエスカレータを降りて乗り場に向かった。


 次にやってきたのは、がっしりした肩幅と四角い顔の、研究者らしからぬ体育会系の見た目をした男性だった。

 大学院博士課程に在籍している豊福とよふく康平こうへいだった。


 彼は宮城の大学に通っているので、新幹線のチケットとホテルを小田原が手配していた。

 顔も特徴的なので間違えるはずもない。


「豊福さんですね。

 遠方からお越し頂きありがとうございます。

 もうバスが出ます。エスカレーターを降りて直ぐの乗り場です。

 降りる駅は――」


「面接の時に来ているので分かります。

 わざわざ出迎えありがとうございます」


「そうでしたね。

 ではこちらをどうぞ。お気をつけて」


 豊福はチケットを受け取ると重ねて礼を言って、小走りにエスカレーターを降りていった。

 バスのアナウンスが響き、乗降口が閉まる。

 小田原はロータリーをバスがゆっくりと走っていくのを見て、続いて駅構内に響く電車到着のアナウンスを聞いた。


 上り電車がやってくる。

 まだまだ時間は早いが、誰かくるだろうか。

 多分くるだろうな。


 小田原は会社名の入った看板を掲げ直して、到着する電車の音に耳を澄ませ、内定者が改札を通って姿を見せるのを今か今かと待ちわびた。


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