謎の施設
「一体これを、どうやって使うんだ?」
「この角材を、こう一つ一つ持ってですね……」
ズーグが身振り手振りを加えながら、グラハムが行っているらしい修行内容を臨場感たっぷりに再現してくれた。
「えいっ!」
ズーグが両手に角材を持ち、それを中央部へ投げる。
中央にある切り株が大体中央にあたるようで、角材はある程度進んでからピンと張ったロープに引っ張られる形で戻ってくる。
そのあとは振り子のように、角材は左右に揺れ切り株の上を左右に揺れ始めた。
「ふんふんふんふんっ!」
ズーグが投擲を二度三度と繰り返していく。
ぐるりと切り株を囲む配置になっている角材をどんどんと投げつけていくと、角材同士がぶつかり合うようになる。
角材がぶつかり合うことで跳ね返り、そこにロープも絡まり合い、更に張ったロープに角材が押し出されるような形で動く。
絶え間なく変化を繰り返す攻撃の軌道の全てを読み切ることは難しそうだ。
一つの角材の動きを予想してみたが、別のロープと角材の影響を受けて想定外の方向へ動いてしまった。
「ちなみにこれを、グラハムさんは目をつぶったままで、かすりもせずに避けてみせますよ」
「……なるほどな」
ヘルベルトはとりあえず一度実践してみることにした。
こういうのは、やってみないとわからないことも多いからだ。
均された切り株の中心に立ち、ズーグに頷く。
ズーグが角材を投げ、ヘルベルトはそれを避ける。
最初の一つ二つを避けるのはなんら問題なかった。
だが一気に難易度が跳ね上がるのはここからだ。
角材の数が五つになったあたりで既に情報量がヘルベルトの処理能力を越え、十を超えた時にはヘルベルトの身体にバシバシと木材が当たる。
「――ぐうっ!?」
力持ちのズーグが思い切り投げているので、一つ当たるだけで思わず呻き声が出るほどの威力がある。
身体に当たった木材の数が二十を超えたところで、ヘルベルトは流石にストップをかけた。
「ふうっ、ふうっ……リターン!」
身体の傷を癒やし、息を整えて少し余裕を持ってから、先ほどの醜態を反省する。
ビシビシとあたる角材の角は、鋭利な鈍器のようだった。体感では、刃を潰した手投げ斧
を投げつけられているような感覚だ。
自分目掛けて飛んでくる高威力の飛び道具は、なかなか精神にくるものがある。
「結構痛かったんだが?」
「す、すみません……でもグラハムさんはいつも、全力で投げろと言っていたので」
「……そうか」
ヘルベルトは一度、二度とこの避ける鍛練を繰り返し始める。
最初の数発を除けば、後の動きを完全に目で見て追うことは難しい。
それなら反射神経と瞬発力でなんとかできるかと思ったが、それでも上手くいかなかった。
(こんなの、後ろに目でもついていなければ……いや、待てよ?)
ズーグは特訓を始める前、果たしてなんと言っていたか。
『ちなみにこれを、グラハムさんは目をつぶったままで、かすりもせずに避けてみせますよ』
その言葉の意味を、ヘルベルトはより深く考えてみることにした。
いくら戦士としても魔導師としても優れているグラハムとはいえ、流石にこの何十もの軌道を目で追いきることは不可能だ。そしてそれ以前に、ズーグの言によれば彼はこの特訓をしている最中に目を開いてすらいないのだ。
であれば、どうやって攻撃を避けているのか。
答えは単純――視覚以外の方法で攻撃を感知しているのだ。
そしてそれは、彼の系統外魔法である界面魔法によるものと考えるのが自然だ。
ヘルベルトはグラハムがなぜ自分にここに来るように言ったのか、その理由を朧気に察した。
(ここで空間把握能力を高めろということだな)
ヘルベルトは自らが階段を上るために必要な試行錯誤は、決して嫌いではない。
彼はどうすべきかと頭を悩ませながら、色々と試してみることにした。




