兄弟子
「わっ、起きた!!」
「……(ビクッ)!!」
ヘルベルトが目を覚ました時、そこにいたのは一匹の骸骨だった。
「――なぜここにスケルトンがっ!?」
目の前に敵がいるとなれば意識は急速に覚醒し、頭の中が戦闘モードに切り替わる。
跳び上がるように起き上がったヘルベルトは、即座に魔法を練り上げて使おうとしたところで、違和感に気付く。
そもそも目の前のスケルトンから、敵意をまったく感じないのだ。
小柄なスケルトンはヘルベルトが突然動き出したことにびっくりして、びくんっと身体を震わせていた。そして目の前の骸骨は、スケルトンという単語を聞くと、少しだけ悲しそうな表情をした……ように見えた。
いや、見た目は完全に骨なので、なんとなくそう感じたというだけなのだが……。
小柄なスケルトン、感じない敵意、そして人の言葉を話している点……この三つのヒントから、ヘルベルトには今この場所がどこなのかを思い出す。
ということは、目の前にいるのが……。
「骨人族……」
スケルトン改め骨人族の少年は、大きく後ろに下がってから、テーブルの柱越しにヘルベルトのことをジッと見つめてくる。
どうやらヘルベルトの態度に、警戒を強めてしまったらしい。
改めて観察をしてみる。
その見た目はどこからどう見ても、魔物のスケルトンと……。
(いや、違うな。核がどこにも見当たらない)
本来スライムやゴーレム、スケルトンといった純粋な肉体を持たない魔物達は、体内に核を持つ。
人間における臓器全てと同じくらいに生命活動に必要な核はこれらの魔物の弱点であり、戦闘の際には真っ先に狙うべき場所となる。
通常スケルトンは、その胸部にある胸郭の内側……人体の胸腔のあたりに核を持つ。
けれど今目の前にいる少年には、それが見当たらなかった。
少なくとも自分の知るスケルトンとは別物として捉えるべきだ。
「驚かせてしまってすまない」
「い……いえいえ! 骨人族が珍しいのはよくわかってますから!」
骨人族の少年の声は妙に震え声というか、少しノイズが入ったように聞こえている。
見れば胸と喉の辺りの骨が震えていた。
発声器官もないのにどうやって声を出しているのかと思ったが、どうやら彼らは発声器官そのものも骨でできているようだ。
「一つ聞いていいか?」
「なんでもどうぞ!」
「ここは骨人族の集落で合っているか? グラハムにボロボロにされたところまでしか帰国がないんだが……」
「はい、合っていますよ。ここが魔の森で恐らくはほとんど唯一と言っていい、骨人族の集落になります」
どうやらヘルベルトはグラハムに認められたらしく、彼に担がれて集落に入ってきたということだった。
その様子を想像し、そしてこてんぱんにやられた先ほどの記憶を思い出し、ヘルベルトはぐぬぬ……と唸った。
(……一刻も早く強くならなければ。また一つ頑張る理由ができたと、そう思うことにしておこう)
負けっぱなしは、趣味ではない。
今はまだ歯が立たないが、いずれは見返してやる。
グッと握りこぶしを作りながら、窓枠の外へと視線を向けるヘルベルト。
それを見た骨人族の少年が、腕を組みながら首を傾げる。
「やはり外の人は違いますね」
「……一体、何が違うと?」
「向上心があるといいますか、根性があるといいますか……骨人族の人達とは、違います」
「それほどか?」
健全なる精神は、健全なる肉体に宿る。
どうやら肉体を持たない骨人族の者達は、比較的打たれ弱い者が多いらしい。
そんな彼らが他の亜人達から排斥されるという境遇に置かれれば、更に状況が悲惨になるのは必然であり。
骨人族の集落には、ずっと陰鬱な空気が漂っているのだという。
けれど少年は目を輝かせながら(ヘルベルトにはそう見えていた)こう言った。
「けれどグラハムさんが来てから、皆が明るい顔をしてくれるようになりました。そして僕も思ったんです、こんな風に……こんな風に強くなりたいと」
聞けば少年も、グラハムから色々と手ほどきを受けているらしい。
ということはつまり、ヘルベルトの兄弟子ということだ。
「俺の名前はヘルベルトだ、よろしく頼む」
「紹介が遅れました。僕はズーグと申します」
二人は握手を交わし、笑い合う。
ズーグは笑うと、歯と歯がぶつかり合いガチガチと音を鳴らしていた。
最初は少し不気味だったが、こうして見慣れてくると愛嬌があるかもしれない。
ヘルベルトがどんな訓練を受けているのかを聞いているうちに、家のドアが開く。
「おーい、ぶちのめしてやるぞガキ共。さっさと広場に来いや」
それだけ言って出て行ってしまったグラハムの後を、ヘルベルト達は必死に追いかけるのであった――。




