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前進


「はああああああっっ!」


 ヘルベルトの斬り付けが、マーロンの腹部を襲う。

 模造刀のため威力は抑えられているが、それでも質量のある鈍器であることは変わらない。 鈍い音を立て、べきりと骨の折れる音が聞こえてくる。


 けれどマーロンは回復で応急処置をしながら、それでもヘルベルトに噛みついていく。

 それでいい。

 戦っている相手ながら、ヘルベルトもそのガッツを認めるしかなかった。


 加速と減速を繰り返すことができるヘルベルトの斬撃は、対応はおろか予測することすらも難しい。

 彼の変幻自在の攻撃は、迎撃をすることが非常に困難なのである。


 一度ひとたび加速をすればその攻撃はマーロンへと着実にダメージを与える。

 そしてヘルベルトはアクセラレートのオンオフを一瞬で切り替えることができる。

 防御姿勢を取られたところで、それを速度で上回り、守られていないところを攻撃することは十分に可能。


 ヘルベルトの圧倒的な速度の前にマーロンが選んだ手は、変わらず持久戦だ。


 マーロンは既に、全ての攻撃を守ることをやめていた。

 今はヘルベルトの高速移動に対応することは諦め、急所に一撃をもらわぬよう立ち回りながら、ひたすら耐え続けている。


 マーロンの強みは何より、光魔法による攻防一体となった戦い方にある。

 それを活かす形で、回復魔法を多用させることでなんとか耐え続けていた。


 ヘルベルトがリターンを発動させ傷を癒やすためには、アクセラレートを使い攻撃の範囲外に出る必要がある。

 そしてアクセラレートとリターンを使い消費する魔力は、マーロンが回復魔法で使うそれを大幅に凌駕する。


 故にヘルベルトは短期戦で勝負を決める必要があった。

 彼はとにかく猛攻を続ける。


 突き穿ち、切り裂き、剥いで焼き焦がす。

 得意の火魔法も織り交ぜながら、近~中距離を保ち続け、自分の間合いで戦っていく。


(このまま――押し切るッ!)


 戦いを優位に進めることができているという自信。

 己が出せる全てを剣に乗せ、斬撃へと変換する。


 急所を狙う一撃は防がれているが、身体の奥に響く衝撃は徹っている。

 たとえ光魔法で応急処置ができているとはいえ、ダメージは確実に内側に残っているはずだ。


 ヘルベルトは、けれどこのまま勝負が決まるとは思っていなかった。

 マーロンが『柱割り』で見せたあの魔法を、未だ見せていないからだ。


 そしてその瞬間はやってくる。

 ヘルベルトが連撃の合間の隙をアクセラレートで消そうとしたその隙間。

 マーロンの持つ剣がキラリと光った。


「コンヴィクトソード!」


 光が剣を包み込み、その刀身を己で伸ばす。

 一瞬のうちに伸張した剣は、光の特性を活かし真っ直ぐにヘルベルトへと向かってくる。


「――ッ! アクセラレート!」


 ヘルベルトは咄嗟に加速することでその攻撃をかわした。

 けれど光の刃は、それでもなおヘルベルトへと迫ってくる。


 この光魔法は柱を一直線上に斬り伏せ、その全てを倒してみせていたのを思い出す。

 恐らく魔法を剣に纏わせる、魔法剣のようなものなのだろう。


 だがこの攻撃自体は既に一度見ている。

 その特徴もざっくりとだが掴んでいた。


 まずこの光魔法は、剣の刀身を延長する形にしか伸びない。

 鞭のように光の線がぐにゃりと曲がるようなことはないため、攻撃の軌道自体を読むのはそれほど難しくないのだ。

 だがこの魔法の攻撃速度は、軌道が読めていてもなお回避が難しいほどに早い。


「――ぐうっ!?」


 ジュウッと肉の焼けるような音が聞こえてきたかと思うと、既に自分の右腕部分の服が焼き切れていた。

 感じる熱、けれどアクセラレートを使い離脱しようとも追いすがってくる光。


 マーロンの方を見つめる。

 彼が持久戦を切り替え、攻撃のカードを切ってきたのはなんのためか。

 見ればマーロンの方にも、隠しきれぬ疲れと焦燥があった。


(向こうも魔力の残量が心許ない、ということか。それなら――)


 ヘルベルトは前傾姿勢を取りながら、更に前に出た。


 彼の頭髪を光線が焼き、髪を焦がした時特有の臭い匂いが鼻をつく。

 けれどヘルベルトは前に出る。

 アクセラレートを使い、最短で一直線にマーロンへと近付いていく。

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